表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、桜小町はアンドロイドです。  作者: 山本 宙
2章~正義の秘密結社サファイア=ファミリア~
17/38

17話『獅子の目をした青年は』

 そして、鈴音は久しぶりの外に出ることに。

外で太陽の光を浴びるのは気持ち良い。

当たり前だった日光浴は、こんなにも気持ち良いのか、とつくづく思う。


看護師から外出を許可された時、鈴音はすぐさま外に飛び出すほど、

嬉しさが爆発した。

そして、勢いよく出ていった鈴音を追って、後ろを歩いていたのがA-桜小町だった。


「大ちゃん、気持ち良いですか?」

近くまでようやく追いつき、言葉を投げかける。


「あぁ、本当に気持ち良いよ。生きる実感がわいてくるようだよ。撃たれた瞬間は死んだかと思った」


彼の横腹には銃弾の後が残っていた。


「生きていて本当に良かった。私、これからも大ちゃんと一緒だね」


アンドロイドも生活を共にする相手には献身的であり、尽くすのは当たり前だ。それに・・・一言、一言の言葉も暖かく、鈴音の心が潤わされていく。


「僕はあらためて、今生きていることが感謝できている。これからはもっと命を大事にしたいな・・・」


もう二度と、マリオネットに関わっていくことは嫌だと、心の奥底に沸々と湧いてくる思い。それが言葉として現れたとしても、その言葉は重く、重く、不甲斐ない言葉だった。



「A-桜小町ちゃん、僕はこれからもマリオネットに敵対するべきだろうか・・・」


「えっ!?」


返答を求める言葉だった。

思わぬ言葉にA-桜小町は動揺する。


アンドロイドが答えるのは酷ではないだろうか・・・。

しかし、

どうすれば良いのかなんて誰にも分らない。誰かが大きな被害を被った時、周りの人からしたら養護するべきだ。そして二度と同じ過ちを起こさないように見守りたいところだ。


しかし、本人の意思を尊重するのであれば後押ししたい。

A-桜小町の思考回路は善悪を天秤で推し量ることができなくなっていた。

鈴音も同じく、自身の心の葛藤はどちらにも向き合うことができない無限ループに彷徨っていた。


だからこそ、A-桜小町に答えを求めた。自分には発することができない次のセリフを・・・。


A-桜小町が投げられたものは、大きな権利を勝ち取るための決意を求めるようなものだ。

その大きな権利とは・・・存在の権利。生きる権利。

アンドロイドの希望を崩さないためには、立ち向かうべき壁に対して突撃していくべきだ。しかし立ち向かったからこそ、パートナーである鈴音が大けがを負った。


A-桜小町は二者択一を要求されている。アンドロイドの悪と立ち向かうべきか。それとも鈴音の養護を第一優先にするべきか。二者択一は究極の質問で・・・アンドロイドのプログラムは理論的な考察をもってしても答えることができなかった。どれだけ有名な哲学者の言葉をデータ抽出して張り巡らしても、それっぽい答えも出すことはできなかった。


「私は答えることができません。大ちゃんの意志を尊重したい・・・。大ちゃんが全てを担っていると思います」


重たい、重たい決断は、やはり鈴音に向けられた。


「そうだよな・・・。A-桜小町ちゃん、僕はマリオネットの存在がとても怖い。僕を病院送りにしたのは、マリオネットなのだから・・・。もう一度あの組織に立ち向かうなんて、恐ろしすぎる。怖いんだよ・・・。自分で決断するのが・・・」


アンドロイドに決断を求めたのは、アンドロイドの存在を否定するマリオネットに対して、アンドロイドはどう思っているかだ。どう解決していきたいかだ。


こんなの自ら決断するのは困難だ。ましてや、鈴音は人間なのだから・・・。


「私、A-桜小町はアンドロイドです。だから・・・未来は明るいものでありたい。アンドロイドはこれからも生き続けたい」


自分の置かれている立場・・・。A-桜小町にとって、こんなことは今までにない体験で、試行錯誤できなかった。



鈴音の足が止まった。

するとそよ風が辺りを包み込むように舞った。

木の葉が少し宙に舞い、服をなびかせる。


鈴音は振り返ってA-桜小町を見た。


「希望は誰しも持ちたいと願うものだ。アンドロイドだって生きている。そしてA-桜小町ちゃんだって生きたいに決まっている。僕たちの共生は始まったばかりなのだから」


日光浴なんて忘れて、鈴音の目はA-桜小町の瞳だけを見ていた。


(麗しいその瞳・・・かけがえのないその瞳・・・傷つけたくないその瞳・・・)



鈴音はそっと両手を広げてA-桜小町の身体を包み込んだ。


しばらくそのままでいて、

フッと風だけが舞い上がる。


「絶対に僕は君を守る。絶対に傷つけない」


あたたかい身体・・・。

この体感はアンドロイドではなかなか味わうことができない人情・・・。


「私は大ちゃんに尽くします。一緒に生きるために・・・」


命は人間にあるものだが、アンドロインドには持っていない物・・・。

それは儚くも尊い。

一番尊重するべき命を、アンドロイドの希望に捧げる鈴音に言葉もない。


ただ、支えることしかできないA-桜小町にとっては苦渋の存在意義だ。


「大ちゃん、私は全力でサポートします。またあなたの温かい身体に包み込まれたいから・・・」




あどけない表情をしていた鈴音は、決心を固めた獅子のようだった。



大空は青く、雲一つない。


「この地球に必要なのは人間とアンドロイドの共存・・・。そして田邊の心をいたわる人間の慈悲だ・・・」


A-桜小町には、なぜ田邊の名前が鈴音の口から出てきたのかは分からなかった。ただ、友達関係である田邊を大切にする鈴音の思いだけを汲み取ることができたのだった・・・。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ