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私、桜小町はアンドロイドです。  作者: 山本 宙
2章~正義の秘密結社サファイア=ファミリア~
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16話『告げるものは非条理で』

 真っ白な天井・・・。


目が覚めた所は個室でベッドが一つ。

そのベッドに鈴音は仰向けになっており、目を覚ました瞬間だった。


点滴の袋の中身は一滴ずつ液体を落としていた。


暖かい布団に包まれた身体は、自分の意志でモゾモゾと動かすことができた。


「僕・・・生きている」


そっと目を閉じると、一粒の涙を流した。

生きていることに感極まる。




「目を覚ましましたか?」

白衣を着たアンドロイドが話しかけてきた。


「ここは・・・?」


「安心してください。ここは病院です」


上を向いたまま、鈴音は息を吸った。

空気を感じることさえ、幸せに感じた瞬間だった。


しばらくすると、POLICEと印字された服を装った者が扉を開けて部屋に入ってきた。


「目を覚ましたようですね。初めまして、アンドロイド警察のA-岩男です」


「はじめまして・・・」

力のない声で返事をした。

アンドロイド警察と分かった瞬間に、マリネットについての取り調べにきたと感づいた・・・。


「あなたは銃弾を受けたようですが、身をかすめただけで済みました。かすり傷は多少、深かったかもしれませんが、後遺症などはありません。ご安心ください。」


「そりゃ、どうも」


端的に話をするアンドロイドにあまり良い気がしない鈴音は、

そっぽを向き、言葉も冷ややかだ。


「お伺いしたいことがあります。あなたが目撃したのはマリオネットと言われる集団です。その集団は私たちアンドロイド警察が捜査している対象です。目撃情報を話していただきたい」


「答えられる範囲で、答えるよ」

(ホープサファイアのことは話せないな・・・)


ムッとした表情でA-岩男の顔を見た。A-岩男は片手で持つ分厚い資料に目を通しながら、話し始めた。


「この資料はさきほど頂いた資料なもので、私の記憶装置にダウンロードしているところです。目障りなところをお見せしてしまい申し訳ございません」


「早く質問をしてくれないか。僕は撃たれてから、目を覚ましたばかりだ。精神的に病んでいる」


「承知いたしました。あなたが目撃した人物はどのような容姿でしたか?」


「スーツを着た女。声が女の声だった。背は低くて髪型は短かったよ」


「なるほど・・・おそらくユミエですね」

すぐにA-岩男が相手を絞りだした。アンドロイド警察の捜査の速さが垣間見える。


「ユミエって言うんだな・・・。可愛かったな」

ぼそっと呟いた。拳銃を向けられても、相手の顔を認識する。

その反応こそ、可愛い顔には目が無い人間の性だ。

それにしても素晴らしいほどの美貌が、鈴音にとって印象的だった。


「可愛かったとは主観でしかありません。しかし、顔をさらけ出していたのですね」

顔の感想はA-岩男にとってどうでも良かったようだ。


「うん、顔は見えたよ・・・本当に可愛かった」


しつこく容姿を押してくるボケをかます鈴音に、ため息がつくA-岩男は資料の本を強く閉じた。


「はいはい、可愛かったのですね。うらやましいですね」


「うらやましいのかよ」


変にツッコミを入れたら沈黙が続いてしまった。


「もう、帰ってもらっていいですか?頭痛いんだよ」


「わかりました。失礼いたします。外を出歩くときは十分気を付けてくださいね。」

「ご忠告どうも」


A-岩男は一礼して部屋を出ていった。

大きな体は個室の部屋には不釣り合いだった。


(それにしても大柄だな・・・現場でも最前線な感じがしてならないよ)


鈴音は真っ白な天井をしばらく見ながら鼻歌を歌い始めた。

気楽な感じが、入院患者とは思えなかった。それにA-岩男には疲弊を訴えていたのがすべて嘘だということがわかるのは一目瞭然だ。


「それにしても久しぶりに泣いたな・・・怖かったぁー」


横腹の包帯を手で押さえる。

生まれて初めて拳銃で撃たれたという衝撃・・・。

アクション映画のワンシーンを実体験したようだった。


しかし、緊急搬送されて色々な人に迷惑をかけてしまったことには罪悪感が降りかかる。


(みんなに謝らないと・・・)


そう思う鈴音に、また一人見舞いにやってきた。

扉がゆっくりと開く。

扉が開くと、そこには田邊が立っていた。


「なんだ・・・お前か」


「お前ってなんだよ・・・」

田邊がベッドの手すりに手を添えて話しかけてきた。


「無事でよかったな・・・死んだのかと思ったよ」


「どういうつもりだよ。見舞いで言うセリフか?」

妙な一言が少し違和感だ。変なことを言う田邊の顔を見ると、

それは奇妙な表情で・・・、田邊はフッと鼻で笑っていた。


「なんだよ・・・田邊・・・なんか変だな」


すると口パクで何かを言い出した。


「何を言っている?聞こえないぞ」



「お前だけに教えてやるよ・・・」

「は?」


「マリオネットのボスは俺だ」


二人だけの部屋に異様な空気が立ち込めた。


「バカ・・冗談だろ・・・?」


「A-カルマを解放したのはお前だろ?鈴音大地」


(なぜそれを!?)


鈴音は動揺を隠せず、飛び上がるほど驚いた。

大学の友達である田邊がマリオネットなんて・・・

信じられず恐怖を感じる。


今にも殺されてしまう!そう思った鈴音は息が荒くなる。


「たいしたもんだよ・・・操り人形を奪うなんて。まぁここで殺しはしない。今後、お前がどう出ようが勝手だが、マリオネットの目的を邪魔する奴はただじゃ済まねーからな。忠告しに来ただけだ。次は命も奪うかもしれない。これ以上、関わってくるな」


睨みをきかせて訴えかける田邊は、襲い掛かってきそうなほど野獣の瞳をしていた。


忠告だけを述べて出ていく田邊を、鈴音はただただ見ることしかできなかった。


(田邊・・・お前だったのかよ・・・悪の根幹は・・・・)


物静かな部屋で、鈴音の心音だけが鳴っていた・・・。




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