15話『銃声音が鳴り響く』
「それではホープサファイアを内蔵させる改造をおこなおう。持ち主は見守ってあげてくれないか。なーに、すぐ終わるよ」
(持ち主は重次郎おじいちゃんなんだけどな・・・)
ホープサファイアの手術は小さなマイクロチップを埋め込むだけの手術だ。ホープサファイアを埋め込むことによって、アンドロイドは能力を手にする。
その能力はスパイプラグに操られたアンドロイドを救済する、スパイプラグの力を制御する能力だ。
ホープサファイアを埋め込まれたアンドロイドは手の甲を、操られたアンドロイドに密着させることで救えることになるのだ。
小さなマクロチップをピンセットでつまむ左近博士は、慎重にA-桜小町の腕に運ぶ。
A-桜小町の腕は一部だけ剥ぎ取られて空洞ができていた。その中にマイクロチップをゆっくりとはめ込んだ。
「これでよし、A-桜小町さんはこれでホープサファイアの力を手にした。アンドロイドの未来を担う者となったのだよ」
「ありがとうございます」
鈴音は大きく深呼吸した。
安堵と思われた矢先に、次のアンドロイドを左近博士が指名した。
順番にアンドロイド達はホープサファイアを備え付けられた。
「これから事件が起こるであろう場所に向かって、アンドロイドを救ってくれ」
左近博士はそう言って、辺りを見渡した。
「ん?左近博士、マリオネットの集団はどこに現れるか知っているのか?」
「え?知らん」
「えー!!!!!」
誰もマリオネットの行動を把握する者はいなかった。
「まぁ、それもそうか。アンドロイドを守るためだ。俺たちから探し回らないとな」
菅原が気を取り直すように皆に告げた。
「今日はまっすぐ帰ろう。夜遅いから、明日もあるだろう」
鈴音が皆の気持ちを落ち着かせた。
せっかく改造をしたというところなのに、という気持ちにもなってしまうが・・・。
「一刻を争う事態かもしれないが、焦って気を乱すわけにはいかない。ゆっくりと計画を立ててから行動に出ようではないか」
A-権蔵が冷静になって意見を言った。
その意見には皆同意し、帰路につくことにした。
暗闇の中を鈴音とA-桜小町が歩いていく。
「皆、怯えながら夜道を歩いているんだよな」
「私は怖くありません!大ちゃんとホープサファイアがあるから!」
楽観的な言葉が飛び出す。
「なんか余裕な感じが羨ましいよ。友達の菅原に乗っかったのは僕だけど、大丈夫かなぁ」
「何を怖がっているのですか。男らしくないですよ!大ちゃーん!」
両手で背中をポンと押した。優しく押された背中は小刻みに震えていた。
「あれ?どうしたの?大ちゃん?」
すぐに鈴音が何かに怯えているのが分かった。
「目の前を見てみろよ」
小さな声でA-桜小町に囁く。
そこにはアンドロイドを抱きかかえるスーツ姿の者がいた。
(ヤバい!!マリオネットに遭遇してしまった!!!)
両手で口を押える。声が漏れないように、
存在がバレてしまわないように、陰に身を潜めようとした。
しかし、相手との距離は近かった。
スーツ姿の者がこちらの存在に気付く。
「何者だ!?」
「きゃー!!!」
「何大声を出しているんだよ!!」
悲鳴を上げたA-桜小町は鈴音の背後に回って身を丸くした。
「ダメだ!逃げるぞ!!」
そう言って二人は全力で反対の道を走りまくる。
(待て・・・。あのアンドロイドを救わなければならないのでは・・・)
「大ちゃん!どうして止まるの!?」
「どうしてって・・・・僕たちサファイア=ファミリアじゃないか」
そう言うが、足が震えて振り向くことさえ、ままならなかった。
「大ちゃん!!!」
スーツ姿の者はユミエだった。
アンドロイドを率いて鈴音とA-桜小町に歩み寄る。
「行け、操り人形たち」
そう言うと2体のアンドロイドが全力疾走で襲い掛かってきた。
鈴音が身体を入れたが、勢いよく走ってきたアンドロイドに背中から倒される。
背中を地面に強打しつつ、鈴音はアンドロイドを身動き取れないように、両手で抱き込んだ。
「今だ!A-桜小町さん!!手の甲をこのアンドロイドに触れてくれ!」
襲い掛かってきたアンドロイドに、急いで手の甲を密着させた。
すると・・・アンドロイドが固まった。
「どうしたA-カルマ・・・。動きなさい。これは私の命令よ」
ユミエの指示にまったく応じないアンドロイドはゆっくりと立ち上がった。
「私はA-カルマ。あなたの奴隷ではない」
「どういうことよ!!!あんたみたいな人形は、自分で動くことは許されない!!私の奴隷だ!!奴隷だ!!奴隷だ!!」
大声を発するユミエに、鈴音が睨みつけた。
「いい加減にしろ・・・お前は何様だ」
「チッ」
舌打ちをして、手に抱えていたアンドロイドをワンボックスカーの中に放り込む。
「アンドロイド強奪完了。しかし、A-カルマが私の指示を拒絶した。A-カルマは手放す。そして、目撃者から逃走する」
「待て!お前を逃がさない!!」
パーン!!
大きな銃声音。
その音が鳴り響いたと同時に鈴音が肩から地面に落ちていった。
ワンボックスカーは勢いよく発進して逃走した。
A-桜小町は何が起こったかも把握できていなかった。
地面にうずくまる鈴音は腹を押さえて唸っていた。




