10話『博士の手には何を』
行列ができているチョコアイスクリームが人気の店は、品物が残りわずかという中でも客が列から去ることは無かった。
チョコアイスクリームを願うように待つ、客は列が進むのを待っていた。
その中で同じようにA-真子姫とA-ジョッシュが自分の任務を達成するために行列の間で並び続けていた。
「私は主にチョコアイスクリームを5個買ってくるよう頼まれているのだ」
「そう、もうすぐ無くなると店員は言っているわ。5個は無理じゃないかしら」
「しかし・・・この列も随分進んでいる。もしかしたら、もしかするとあるだろう」
わずかな希望でも逃さないのか。
それとも売り切れまで待つという設定なのだろうか。
「私は菅原殿に1個買って来るだけなの。必ず届けてみせるわ」
尽くす姿に優しさが垣間見える。
ただ、チョコアイスクリームを買い求めただけだというのに・・・。
列が少しずつ前進していく。
ようやく店の前まで来た。
すると店員が声を張り上げて客に伝える。
「申し訳ございません!今をもってチョコアイスクリームが売り切れとなりました!」
「えーーーー!!!!」
列に並ぶ客たちが一斉にどよめく。
願ってもいない事実を受け止められない。
そして2体のアンドロイドも硬直していた。
「何ということだ」
「菅原殿に何とお詫びすればよいのかしら」
アンドロイドにも予想できない出来事はある。
その日の客の込み具合。
そしてチョコアイスクリームの販売個数なんて、
公表していない限り知るすべもない。
「博士の集中力が底辺に落ちることになる」
「博士??」
「そう、私は右近博士の助手をするアンドロイドであるA-ジョッシュだ。
チョコアイスクリームを食べないと博士は集中力が切れてしまう。そんなデータに基づいて、この店に足を運んだのだが・・・このままでは研究が止まってしまうだろう」
そこまで深刻になるとは思ってもいないことだ。
しかし、それにしても人間という生き物は気持ちに左右されやすい。
博士にとっては欲を満たさなければ、仕事に支障をきたすほどだった。
「あなたは、私よりも深刻そうね。菅原殿は優しいから。違うアイスクリームでも許してくれますわ」
「違うアイスクリーム??」
A-ジョッシュに希望が見えた。
「チョコアイスクリーム以外にもイチゴアイスクリームとかあるわよ。試しに買ってみたらどうかしら?」
「試しに・・・」
A-ジョッシュはアイスクリームを眺めて分析を始めた。
記憶をたどって博士の言葉を抽出する。
「抹茶は苦いから苦手なのだよ」
「チョコアイスクリームは本当においしいな!」
「ミルクは甘くない方が良い」
「やっぱりアイスはチョコアイスクリームだな!」
「ラーメンすするのがたまんないね!」
・・・
・・
・
「イチゴの酸っぱさは甘い物に合うよなぁ」
キュピーン!!
A-ジョッシュの体内から変な音が鳴った。何かを見つけ出した喜びのあらわしか。
「イチゴアイスクリームを5個買います」
瞬時に財布の口をこじ開けて千円札を店員に渡す。
その時、彼は必死な目をしていた。
「お買い上げありがとうございます!!」
決断した後の購入は、とてつもないほど早かった。
「ありがとう。A-真子姫。イチゴアイスクリームを博士に持っていくよ」
「どういたしまして、もしよろしければ感想を聞きたいと思います。連絡先を信号で送ってくれますか?」
2体のアンドロイドは目を閉じて握手をする。
しばらく停止した。
その間にアンドロイド同士で連絡先を交換しているのだ。
「送受信完了。A-ジョッシュさん。吉報をお待ちしております」
「うむ、きっと博士は感動されるだろう。その時はあなたを紹介します」
店を離れてお互いの向かう場所に足を進める。
A-真子姫は抹茶アイスクリームを購入して大学に戻っていくのであった。
家に到着したA-ジョッシュはゆっくりと扉を開けて中に入った。
右近博士が横たわって両手を天井に伸ばしていた。
「チョ・・・チョチョチョ・・チョコアイスクリームを・・・」
「これは!チョコアイスクリームの禁断症状!!博士!大丈夫ですか!?」
身体に刺激を与えないようゆっくりと手を差し伸べる。
身体を抱え込むように起こして、買ってきたものの袋を器用に破った。
「口の中へ・・・」
「すみません博士・・・。これでお許しを」
イチゴアイスクリームを口に運ばせて一口入れた。
「こ・・・これは・・・」
「チョコアイスクリームではない!!!」
目が見開いて驚いた顔で起き上がった。
「申し訳ございません!チョコアイスクリームは売り切れでございまして!イチゴアイスクリームを5個買ってきたのであります!」
必死に事実を訴えた。
「イチゴアイスクリーム・・・うまい!」
「えっ!?」
沈黙の空気が回るように噴出する。
「これは!お前が買ってきたのか!?」
満面の笑みで勢いよくA-ジョッシュの両肩を掴みかかった。
「いえ、これは店で居合わせたA-真子姫というアンドロイドに教えてもらいました」
喜んだ博士に事実を説明する。
安心して相手のアンドロイドを教えるのであった。
「なるほど・・・これで研究もはかどる。今度、そのアンドロイドを家に招いてもらえるか」
「かしこまりました。これで研究も安心して取り組めますね」
「ありがとう。A-ジョッシュ」
この出来事が、これからのアンドロイドの命運を分けることになるとはだれも想像できないのだ・・・。




