episode,I 「勇者の龍太」
「ご、ごめんなさいっ!」
若干の涙を浮かべ、戸惑うように女の子が俺に言う。
「い、いや〜、いきなり謝られても。」
「な、何でもしますからっ!」
「ん?今、何でもって?」
「あ、えぇと、あまり、変なお願いごとじゃなければ……」
軽くテンプレ的ボケを入れた俺だったのだが、女の子は余計に怯えてしまった。見るからに真面目そう、というか純粋そうだしな。
「んー、よし」
すかさずフォローするように俺は話題を切り出した。
「え、えぇとっ?」
相変わらずに戸惑う女の子。そんな女の子に俺がかけた言葉。
「お前、俺の魔法使いになれ!」
俺が、そう言って手を差し伸べると、戸惑いに加えて女の子はキョトンとしていた。
風がひとつ、二人の間を横切る。
一呼吸置いて、言葉の意味を理解したのかしていないのかはさて置き、女の子は——
「勇者様の、魔法使い、ですか……?」
これは、この俺、龍太と音音が魔王を退治するまでの、壮大な、——いや、期待させると悪いから、小規模でしょうもないと言っておくとするか。
まぁ、そんな物語だ。
ちなみに俺の一人称視点でお送りするぞ!
——00I
話は少し、遡る。
「龍ー!龍よー!龍よ起きとるかー?」
「起きてるわ!アンタの目の前で、飯食ってんだろ‼︎ 俺の部屋に顔向けてないで、俺に顔向けろや‼︎」
俺の名を呼ぶ婆さんの顔は、目の前で食事をする俺をさて置き、俺の寝室を覗き込むように見ていた。
「あれ、いつの間に。最近、どうも老眼でねぇ」
こちらに向き直した婆さんはそう言ったが、俺はすかさずに突っ込んだのだ。
「老眼の域を超えとるわ。」
婆さんは眼鏡をかけ、再び話始めた。
「そんでだな、龍。飯食ってるとこ、悪いんじゃがな、頼みがあるんじゃよ。」
「あ?頼みってなんだよ、ババア」
「ババア、言うな、ババア様じゃ」
ババアを否定しろ。
「それがのぉ、近頃、巷でモンスター達が好き放題し出したようでの、それもこれも、魔王城の大魔王様がお目覚めになられたようで、畑やら田んぼやら、酒場なんか荒らされ放題なんじゃと」
「だ、大魔王……?」
「あぁ、そうじゃぁ。そこでだ、龍。お主に、その大魔王退治をお願いしとうてな」
「なんで、俺が?」
「そりゃあ、お主はこのわし、初代大魔王退治に多大なる貢献を果たした、勇者様のお供にあった魔法使いの孫じゃからのぉ」
「ややこしいな。」
「まぁ、要するにお主は、魔法使いであるわしの孫っちゅうわけじゃ!」
……ふうん。
「あの、婆さんよ」
「あん?」
なんで、こぶし入れて返事した?
演歌歌手さながらに。
「ここの世界観は、いつからドラ◯ンクエストになったんだよ?」
「いつからって、はて」
「あのなぁ、俺、普通に中学生だぞ?」
「分かっとるよ、けど、大魔王がお目覚めになられた以上、勉学なんかに励んでいる場合やありゃせんのじゃよ!」
世界が終われば学歴もクソもないと。
「あのなぁ、婆さん?」
「あん?」
だから、こぶしを入れるな。
「俺、中学生。ここ、日本。ここ、東京。家、マンション。な?」
「あん?」
三度目のツッコミはないです。
「あん?じゃねぇよ‼︎ 朝からどんなボケかましてんだよ‼︎クソババァ‼︎ 」
三度目のツッコミはないが、激怒してみた。けど婆さんは相変わらずに、「はて」と。そう言うだけだった。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎ ったく‼︎ 学校行ってくっから、頭でも冷やしとけよ‼︎」
俺は、食べかけの朝ご飯をテーブルに並べたままで、カバンを手に取り、靴を履くと、今朝から訳も分からない婆さんへのイライラを晴らすように、勢いよく、玄関の扉を開けて走り出した。
「あの、婆さん。時々、ガチで頭イかれるからな……。」
ボケとかじゃなくて、素で、だからな。
ボケの域を超えてきてる気もするし。
ボケの意味が違うが。
「よし、ギリギリ間に合ったな」
台詞の次にはもう学校に着いたわけだが、実際、かなり走った。
語り部的には、都合よくカット出来てしまうのが、時に憎らしい。
人が汗ダラダラで猛ダッシュしたというのに。
(まぁ、俺が語り部なんだけども)
必死で学校まで走るのを実況した所で、なんだけれども。
俺は、下駄箱でいつもの様に靴を履き替え、二階にある教室へと向かった。
着いた。
二年二組だ。
いつもニコニコ二年二組だ。
「おはよーございます!」
俺は特に意味はないが、割と元気な声で教室の扉を引いた。
もしかしたら、好きなあの子が元気よく挨拶を交わしてくれるのではないかと、そんな期待を込めてのことでもあった。
まぁ、うちのクラスの女子は基本、皆んな顔面偏差値が平均かそれより以下なので、特に気になる子なんかいないのだけど!
(怒られそう。)
——しかし、現実は違った。
と、いうか、違いすぎた。もはや現実なのか、と。
あ、ちなみに話の流れ的に超絶美少女が転校して来た、とかそういんじゃない。
割と話を前座は無視していくスタイルで!
はい、シリアスやり直し!
俺は、驚愕した。
「な、なんじゃこりゃ⁈」
教室の扉を開けると、そこは、まるで見たことのない世界が広がっていたのだ。
「ば、婆さん⁈ こんな所で何してんだよ⁈」
「あん?」
もう、いいよ、それ。
「何って、お前に言われた通り、頭を冷やしとった所じゃ?」
「だからって本当に、氷水の入ったタライに頭突っ込む婆さんがどこにいるんだよ……」
婆さんに限らないが。
てか、死ぬゾ。
「っっって!そうじゃねぇよ‼︎ なんで、何で教室のドアを開いたら、俺ん家の玄関で、婆さんがいるんだよ⁈」
すると、婆さんはいきなり、重苦しいような雰囲気を恰も醸し出し
「時は来た。大魔王様のお目覚めじゃ」
「だ、大魔王って、またそんなこと言って。——んなもん」
「龍よ。もうここはお主の知る世界じゃないんじゃよ。」
「……な?」
「今、わし達の居るこの家は、風見町三丁目に立つマンションの中の一部屋ではない。」
「ま、まんま俺ん家だろ⁈ 冗談もその辺にしないと、流石にキレるぞっ」
けど、実際、俺が入ってくるはずだったのは、二年二組の、その教室だった。
俺は、再び入ってきた扉の方へ向かう。
教室は引き扉で入って来たはずなのに、いつのまにか普通のドアノブがある俺ん家の扉になっていた。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと、その扉を押した。
光の幅が徐々に広がって行く。
「ば、婆さん……。俺、夢見てるのか?」
「いんや〜、夢じゃないさぁ」
扉の向こう側にあったのは、学校の教室でも廊下でもなければ、見慣れた家の前でもなかった。
「……これが、夢じゃない、か」
ははは。
苦笑。
地平線の彼方まで広がる、草原に大きな雲がポツポツと浮かぶ。
——そして何より、
見たこともない、見たことがあるわけがないはずの、今後も見るはずもなかった光景が広がっていた。
ほうきに跨り空を飛び回る人々、草原を駆けていく額に綱を生やした馬の大群。
そして——ゾウよりも大きな、クジラよりも大きな、旅客機と同じくらいかそれ以上のドラゴンが、空を泳いでいた。
頭上で大きな日陰を数秒作り出し、何処かへと飛んでいった。
「アンビリーバボー……」
誰かほっぺたをつねってくれ。と思いながら誰も見当たらなかったので、自分でつねってみる。……痛かったよ、勿論。
——00I
To be continued……00II
小河 太郎です!連載三作品目となります。
完全に作者としても気休め枠、ギャグ枠で、プロットも存在していない行き当たりばったりな小説ですので、お読みになられる方も深く考えずにお付き合いください。
(二話目から早々、内容すら決まってない次第です。)
他の二作品の小説とはまるで雰囲気が違うかと思いますが、こんなノリも大好だったりするので今回、挑戦してみました。
色々な意味で未定の上で成り立って行く作品だと思いますが、読んで貰えれば幸いです。