TTR VS joker
ジョーカーは身体をウネウネ動かした後、ピョンピョン跳ねたかと思うと、コクリと頷いて
「成る程、何と無く理解した。」
と呟いて顔を上げ、アール先生の方に視線を向けた。
「では早速始めようか、光と闇の協奏曲たる狂乱の宴を!」
「ほほう、準備はもう宜しいので?」
アール先生がニヤリとしながら問い掛ける。
「充分だ。我が力の深淵を垣間見るが良い。」
足を半歩ほど開き腕をくねくねさせながらポーズをとるジョーカー。
「解りました、ではまずは貴方のターンです。どうぞ何処からでも掛かって来てください。」
一方アール先生は足を閉じたまま構えも取らずに手首をクイックイと捻り挑発した。
それを観てカチンと来たのか、ジョーカーが苛立ち混じりの声で叫ぶ。
「我を舐めているのか?良いだろう、では遠慮無く行かせてもらうぞ!」
前方に突き出した右手からバチバチと稲妻がほとばしる。
異世界慣れしていない俺にもそれがエネルギー波の類を出そうとしている動作なのは何と無く解った。
「螺旋神雷風!!」
電撃を孕ませた巨大な風の渦がアール先生に向けて放たれた。
あまりのエネルギーに風が緑色の渦の様に可視化してしまっている。
・・・何だこれ?
ファンタジー過ぎるだろ??
先ほど俺が食らったアール先生の炎魔法【ラビットファイア】とは比べ物にならない程のデカさだ。
「危ない!」
思わず叫ぶ。
しかし
バシュュュッ!!
アール先生の両手が触れた瞬間、風の渦は真っ二つに引き裂かれ霧散した。
「ふふ・・・」
不敵に笑う68歳。
いやいや、今のどうやったのさ?
想定内か想定外かは知らないが、動揺する事無く間髪入れずに再びジョーカーが叫ぶ。
「穿て!我が神槍!!螺旋追撃!!」
先程より鋭利で細い二本の槍の様な風が左右上空から先生に襲い掛かる。
「はっ!!」
気合い一閃!
アール先生は風の槍を目前で叩き折った。
ニヤリ
ジョーカーがまるでイタズラを仕掛けた子供の様にほくそ笑む。
そう、この螺旋追撃は俺も憶えている。
その昔、漆黒聖典と言う名を付けた大学ノートに厨二キャラの設定をガッツリ書いていたのだが、数有る超技の中でもお気に入りの一つだった。
螺旋追撃は槍状の風が二本同時に襲い来る技・・・と言うのは実はフェイントで、その槍に隠してすぐ後ろから更に極細の針ような魔力風で追撃する・・・と言う2×2発の4連撃技なのだ。
名前は・・・ぶっちゃけ【二度】と【ニードル】を掛けたダジャレだ。
いや当時はメチャクチャカッコいいヤツ思い付いたと思っていたけども!!
叩き折っられた風槍の隙間から風針がアール先生の喉元目掛けて疾走する。
「殺った!」
叫ぶジョーカー。
いやいやいや殺っちゃダメだろ!
しかし、
パキンッ!パキンッ!
風針は先生に当たる数センチ手前で砕け散る。
「バカな!?」
「私は戦闘中、常に身体をオーラで覆い守備力を高めています。なので生半可な威力の攻撃ではノーダメージですよ。」
「オーラ??」
思わず声に出した俺にアール先生が説明し始める。
「ええ、オーラです。この世界のある程度以上の戦士や魔術師は皆使いこなす戦闘技術です。人それぞれ硬度は違いますがね。ですので少なくともこのオーラの壁を撃ち抜く程度の威力が無ければ私へのダメージは0ですね。あ、ちなみに私のオーラの硬度は10段階中10ですよ、あしかやず。」
不敵に微笑むアール先生。
この老人チート過ぎやしないか?
ぐぬぬぅと言う顔をし、一歩後ずさるジョーカー。
「では今度はこちらから参りましょうか。」
先生は右手を前にかざし魔力らしきエネルギーを蓄積する。
手の周りが緑色に発光し始める。
「貴方がそよがせた微風への返礼です。行きますよ?【グリフォンハリケーン】!!」
良くファンタジーモノに登場する幻獣グリフォンを模した巨大な風魔法がジョーカー目掛けて飛翔する。
少し離れて見ている俺にも物凄い風圧が伝わって来るほど凄まじい。
もしココにスカートの女子がいたらそれはそれは大変な事になるだろう。
・・・いやゴメンなさい。
反省してます。
アール先生が放った【グリフォンハリケーン】が当たるや否やのところでジョーカーが叫んだ。
「我が身を護れ!【全属性反射鏡】
ジョーカーの目前に大きな光の鏡が現れ【グリフォンハリケーン】の軌道を180度、真逆に変化させる。
そうだ、だんだん中学2年の時の思考を思い出して来た。
ありとあらゆるダメージ、、、病気も怪我も全て弾き返す不老の超人、それが天空超越者ジョーカーのチートな設定だった。
「常闇の狩人よ!自らの力でその身を滅ぼすが良い!」
謎のポーズをとりながら勝ち誇るジョーカー。
しかししかし、
バシュュュッ!
グリフォンハリケーンの強大な魔力はアール先生の目前で再び霧散した。
あれもオーラとやらの恩恵なのだろうか?
「素晴らしい!グリフォンハリケーンは上位の風魔法なのですが、それを初見で弾き返すとは!期待以上の理想の力ですよ!」
今その賛辞を聞いても本来なら全くもって嫌味にしか聞こえないのだが、本人は本当に関心して褒めているみたいだ。
アール先生の理想の力【カリスマ】も手伝ってか、ジョーカー君も若干嬉しそうにニヤついている。
余談では有るが、この世界エスブリッジには魔法は4段階存在するらしい。
風魔法で言うと
下位魔法【ハミングウインド】
中位魔法【コンドルサイクロン】
上位魔法【グリフォンハリケーン】
そして特別な神の試練を乗り越えた者のみが使えるとされている幻の呪文、
神位魔法【アイオロス】
この4段階だ。
まあ神位魔法の使い手は現在ほぼ皆無らしいが。
ちなみにアール先生が俺に使った【ラビットファイア】は下位の炎魔法だ。
中位魔法は【ジャイアントフレイム】
上位魔法は【アルミラージバースト】
そして神位魔法は【プロメテウス】
「遠距離魔法が反射されてしまう・・・となると、接近戦ですかね。では参りますよ。」
アール先生が再び攻撃のモーションに入った。
すっかり観戦者に成り下がった俺の傍観タイムはまだまだ続くみたいだ。




