愛は世界を救う
「さて、私からの説明は概ね以上ですが、どうでしょう?ご協力頂けますか?」
正直、いっぺんに情報が入って来過ぎた。
内容は理解できたが、一つ一つが重過ぎてハートがついて来ていない。
こちらの意思に関係なく強制的に転移させられた事は納得出来ないし、元に戻れる可能性の低さを考えると絶望したくなる。
しかし、その元凶は他ならぬ俺自身、正確には50年後の俺自身なのだから・・・誰に憤って良いか解らない。
自分自身に同情すると言うのも変な話だけれど、彼の置かれた状況には同情もしている。
何より協力して魔王討伐をしなければ、状況が全く好転しないのは解りきった事だ。
暫くの間が空いたのを悩んでいると受け取ったのか、60年後の俺はさらなる一手を指し示して来た。
「解りました。ではこの世界の方の話も聞いてみて下さい。いかにエスブリッジに住む方々が魔王に苦しめられているかを聞けば、同情心が湧き貴方の決意も固まるかもしれない。」
「ご自分の事だから解ると思いますけど、俺は言う程正義の味方でも聖人でも無いですよ?」
自分自身であるこの老人には同情しても、赤の他人に心動かされるとは思えない。
「自分自身の事だからこそ確信が有るのです。貴方は彼女の願いを絶対に断らない。」
なんだなんだ?
なんでそんなに確信が持てるんだ?
彼女、と言うからには女性なんだろうけれど・・・よっほどの美人でも出てくるのか?
美女のお願いは、、、確かに断りにくいな。
「ゴクリ・・・」
思わず生唾を飲んでしまった。
仕方ないだろ童貞なんだから。
・・・仕方・・・無いだろ!?
「では有って頂きましょうか。貴方をこの世界に召喚した張本人・・・英雄召喚士のライジスに。」
・・・待つ事10数分、部屋の扉が開き入ってきた英雄召喚士のライジスを見て、俺は絶句した。
これは、この顔を見てしまっては確かに俺は絶対に断れない。
断るワケが無い。
「初めまして、英雄・今鹿風谷様。7代目英雄召喚士のライジスと申します」
こ、声まで・・・だと?
「ちなみに彼女は英雄召喚士で有ると同時に、優秀な風魔法を操る魔術師でも有ります。」
と、老紳士が何か言っていたが正直耳に入らない、、、右から左に受け流し状態だ。
何故ならば・・・そっくりなのだ。
靡く黒髪、淡い肌、整いつつもあどけなさも残す顔。
クリッとした円らな瞳は幾千万の宝石よりも美しく輝いて見える。
そう、あの娘にそっくりなのだ。
この夏、想いを告げようとしていたあの娘に。
中学三年から3年以上想い続けたあの娘に。
植野歩女に。
「私達の世界の・・・いいえ、私の都合で貴方の日常を奪ってしまい本当にごめんなさい。でも、我儘を承知でお願いします。どうかこの世界を救っては頂けないでしょ・・・」
「お任せ下さい!!」
「・・・え、あの、この世界をす」
「お任せ下さい!!速攻平和にします!!!」
俺は食い気味で即答した。
「え?よ、よろしいのですか?私は貴方の意思を無視して無理矢理召喚して」
「良いんですお気になさらず!むしろありがとうございます!!」
例え別人だとしても、あの娘と同じ顔、同じ声をした女の子が苦しんでいるならば、俺のやる事は一つしかないじゃ無いか。
そうだろ?
元の世界に戻る云々はもはや二の次だ。
「ははは、若さとは素晴らしいですな。」
そりゃあこの人には18歳の頃の俺の想い人は筒抜けだよな。
断らないと確信できたワケだよ。
してやったりとほくそ笑む今鹿風谷68歳を見て癪に触ったが、、、まあ良いだろう。
こうして俺は、この異世界【エスブリッジ】を救う英雄になる決意を固めたのだった。
「さて決意が固まった所で、早速・・・と言いたい所ですが、そろそろ次の召喚が完了する時間ですね。」
・・・ん??
今【次の召喚】って言った??
「実は今回、英雄召喚に必要な【残神の緋石】と言う超レアアイテムが何と奇跡的に二つ同時に見つかりましてね。貴方と、もう一人・・・召喚したんですよ。」
「もう一人?」
「ええ、貴方を・・・今鹿風谷をもう一人。」
「は!?」
「残神の緋石は本当に貴重でしてね、滅多に見つからない。二つ同時に見つかるなんて初めてですよ。なので今回の英雄召喚は二回連続で行ったんです。」
「んん!?ちょっと待って下さい!?今回?今回って言いました??」
「私が英雄を引退してから18年も経っているのですよ、私以来貴方が初めての英雄召喚なワケが無いでしょう?」
おいおいおいおい、嘘だろそれだとこの世界には俺と目の前の老紳士以外にも数人の俺がいる事になるぞ?
「さあランダム英雄召喚2連ガチャ、1回目は当たりましたが、2回目は当たりを引けますかねぇ?」
ソシャゲガチャみたいに言うなよ!
・・・と、
俺が声をあげそうになった刹那、先ほどまで俺がいた召喚陣の周りが光り始め小規模は爆発を起こした。
「うおっ!?」
思わず俺は英雄召喚士のライジスを庇うように抱きしめる。
柔らかい。
それに何だか良い匂いがする
・・・ちがう、ちがうぞ?
あくまでも爆風から庇ったので有ってだな、違うから。
爆風が収まって中から現れたのは、見覚えのない青髪に見覚えの無い緑の瞳、見覚えの無い漆黒のローブに身を包んだ・・・見覚えのある顔の俺、今鹿風谷14歳だった。




