表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/31

10943日

「え?どういう事ですか?転移者は理想の力を持ってこの世界に召喚されるんですよね?だったら何で・・・」


老紳士、50年後の俺がため息混じりに語り始めた。


「風谷君、人は年齢と共に自分に求める理想の形が変わって行くんですよ。エスブリッジに転移した時の私は・・・38歳でした。今の貴方よりも20年も日本の生活をした後に転移したんです。」


「に、20年後・・・」


何だか全く想像が付かない。


「38歳の私はとある企業でバリバリ働く仕事盛りのオジさんでした。子供も居ましたのでその子の為にも、そして妻の為にも一生懸命働いて居ました。」


いやちょっと待って今物凄い事をサラリと告げたよこの人!!


「つ、つつつ、妻と・・・子供!?妻と子供がいたんですか!?」


「そりゃ居ましたよ、38ですよ?私を何だと思ってるんですか?」


「いやいやいやいや!18の俺には想像付きませんって!!・・・ち、ちなみに奥さんのお名前は」


ダメだとは思いつつも好奇心的な何かに打ち勝つ事が出来ずについ聞いてしまった。


「残念ですが流石にそれはお答え出来ませんよ。万が一日本の元の身体に戻れたとき、将来の妻の名前を知ってしまっていては童貞の、じゃない、恋愛経験の無い貴方では変に意識して妻との関係性を壊してしまうかもしれませんからね。」


「おいいいいっっ!!!

今一瞬童貞って言わなかった!?」


・・・いやまあ童貞だけれども。


ゴホン!


咳払いをして老紳士が話を続けた。


「話を戻しますが、そんな状態だったのでその頃の・・・38歳の私が思い描く理想の自分は【家族が一生衣食住に困らない位の財力と勤めていた会社での地位を持ち、尚且つ子供が「ウチのパパ超カッコいい」とクラスメイトに誇れる様なカリスマ的でカッコイイ父親】だったのです。」


戦闘能力至上主義(笑)の今の俺には、そんな物を望む自分がまだ良く解らない。

もし、もしあの娘と結婚して子供が産まれたりしたら・・・経済力や社会的地位が欲しくなるのだろうか?

「パパカッコいい」は・・・解らないでもないけど・・・。


「そんな38歳で転移した私に宿っていた理想の力は【莫大な資金】と【皆を魅了出来るカリスマ】でした。」


うお・・・なんか凄い理想の力が出て来たな。


「初めは浮かれましたよ、なにしろ家族の為に毎日毎日禁欲的に真面目一辺倒な節約生活をしていたイチサラリーマンが使い切れない大金を手に入れた上に、男も女も何もしていなくても私を慕って周りに集まって来てチヤホヤするのですから。」


うわ・・・何か凄い想い出を語り出したな。


「必死に諌める当時私を転移させた英雄召喚士を無視して浮かれて湯水の様に金を使い毎夜毎夜遊びまくり堕落の限りを尽くしましたよ!ええ、あの時の私は確実に堕落していました。」


「うん。。。なんて言うか最低ですね38歳の俺。」


「しかし数ヶ月が過ぎたある日気が付いたのです。」


あ、スルーされた。


「私がこのまま堕落の限りを貪り尽くしていては、元の世界に置いて来た妻と子供に2度と会えないでは無いか、、、とね。」


「いや、、、「とね。」じゃねいですよ?数ヶ月気が付かないとか、クズなの?」


「召喚士に問いただしても元の世界に戻る方法は無いの一点張りでした。嘘をついている様子もなかったので、私は有り余る財力とカリスマを使いこの国中の情報を掻き集めましたが、やはり結論は同じ。なので、最後の可能性に賭ける事にしたのです。」


なんか色々引っかかりは多いけど、ここに来てようやく希望の持てる話が出てくるのか?


「すなわち従来の召喚された目的である魔王討伐です。目的が果たされれば再び転移神の元に誘われ、元の世界日本に・・・あわよくば元の時間軸の私の身体に切り剥がされた私の魂を納めてくれるかも知れない。」


「な、なるほど。確証も無いし確率も低いですが、やらない理由は無いですね!」


しかしここに来て68歳の俺は再び顔を曇らせながら首を左右に振った。


「しかし【魔王討伐】と言う目的の為には、【莫大な資金】と【カリスマ】は余りにも不向きな理想の力だったのです。金が有ろうが人望が有ろうが魔王にダメージを与えられる武力が無ければ意味が無いのです。」


た、確かに。


「だが妻と子供の為にも諦めるわけにはいかない。戦闘向きの力は持ち合わせていませんでしたが、有り余る財力とカリスマを駆使して強力な武器を手に入れたり国中の魔術師や剣士に教えを請いて修行したり便利アイテムを開発したり傭兵団を組織したりしながら幾度となく魔王軍に戦いを挑みました。」


ちょいちょい出てくるパワーワード【有り余る財力】やら【カリスマ】やらが引っかかるんですけど!

ともあれ喋れば喋るほど老紳士は疲労困憊と言った表情になっていく。


「しかし残念ながら歯が立たなかったのです。挑み続けて12年、50歳の時に私は英雄を引退しました。」


「じゅ、12年も・・・。」


考えただけでも気が遠くなる。

てゆうか俺も同じ目に合うのだろうか。

目の前が真っ黒になりそうだ。


「しかし、英雄として魔王討伐する事を諦めたとしても、日本に、、妻や子供の待つ世界に帰ることを諦めた訳では有りません。50歳を迎えた私は後進を育てる事にしました。」


「後進を??弟子をとったんですか?」


「いいえ、既にその時には何人かの弟子がいましたよ。魔王討伐のために組織した傭兵団の中にも優秀な才能溢れる弟子が数名居ました。しかし魔王討伐には至らなかった。そして気が付いたのです。やはり魔王に対抗するためには神から授かりしギフトが必要不可欠だと。つまり・・・転移者がもつ【理想の力】ですよ。しかも極力戦闘向きのモノが望ましい。」


穏やかだった老紳士面が次第に崩れ、執着心と狂気に満ちた断面が一瞬現れる。

もしかしたら俺をこの世界に転移させた大元凶は、英雄召喚士ではなく・・・この初老の男なのでは無いだろうか?

そうすると俺は俺自身の手によって今窮地に陥っている事になる。


「英雄引退後、わたしはこの世界の英雄召喚士について研究を重ねました。そして既に他界してしまった私を英雄召喚した召喚士の代わりの次世代の召喚士を見出し貴方を召喚したのです。」


流石にこれは一言いわなくては気が済まない。

確かに彼の悲しみや憤り、怒りや絶望はまさに今同じ目に遭っている俺も、俺だからこそ共感できる。

さらに転移してきたばかりの俺とは違い30年もこの世界に閉じ込められその間妻と娘を想い続けて居たのだから、どれほどの苦痛とストレスを内在させているのか。

しかし、だからと言って他人を巻き込むのは如何なものだろうか?

・・・あ、他人じゃ無い本人だ。

本人を巻き込むのは如何なものだろうか??

ん?あれ?

思考回路はショート寸前。


そんな俺の考えを見透かしたのか、向こうから言葉を更に投げかけて来た。


「身勝手だとお想いでしょうね。しかし私は何としても妻と子供が居たあの世界に、30年前のあの瞬間に戻りたいのです。何を犠牲にしても!誰に恨まれても!!」


彼の理想の力、【カリスマ】と彼の嘘の無い心からの想いが合わさったその言葉に、その時の俺は絆され反論する事も異を唱える事も出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ