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秋の終わり。そして・・・

この交渉、上手く行くか否かで今後の俺達の魔王軍討伐の方針が大きく変わってくる。

俺は目の前の獣人の王の首を縦に振らせる為、ネゴシエーションを続けた。


「バカでも無いさ。守護してくれたら用心棒代を払うぜ。あと北の森の資源や食べ物を町で販売出来るように、逆に森に無いものは町で買えるように手配する。リカント側にもメリットはあるだろ?」


「俺たちは魔物だぞ?そんな事認められる訳がなかろう?」


「大丈夫、オレ達のリーダーは話のわかる人だから。それに魔王軍はお互いにとって厄介だろ?ウィスハート達が町を護ってくれれば俺たちは安心して魔王討伐に旅立つ事が出来るからな。」


そう、実はそれが一番の理由だ。

ウィスハートが用心棒になってくれたならば、今1人で町と屋敷を守護しているせいで身動きがとれないでいるアール先生を魔王討伐に連れ出す事ができる。


「しかしまだ問題は有る。俺たちリカントは確かに精鋭ぞろいだが、魔王軍の上級魔物には流石に及ばん。攻め入られたら太刀打ち出来ん。」


「そこも問題ないはずだぜ。自分達のレベルをみてみろよ。」


ウィスハートはハッとなり周りのリカントの胸部を見る。


「皆のレベルが40前後まで上がっている!これは、、、黄金魔竜戦の経験値か!!」


「御名答!ちなみにお前さんは80まで上がってるぜ。戦いにだいぶ貢献していたからな。」


「それにしても、それにしたってここまでとは・・・。」


それは俺も同感だ。

さすが伝説の魔竜、経験値も伝説級だ。


「まあ本来倒せないはずの相手を倒したんだ。戦いに参加して少しでも貢献していればそれ相応の対価が手に入るんだろうぜ。」


実はこのパワーレベリング、戦い半ばでリカント達との交渉を思いついた時から全て計算尽くなのだがあえて口にはしなかった。


「なるほど、確かにこれだけレベルアップすれば大抵の魔王軍のモンスター共になど遅れを取ることはなかろうな。我がリカント軍から死者が出ることはあるまい。」


このリカントの王、戦いの立ち回りを見ていてもわかるかかなり仲間想いである。

善意を逆手に取るようで多少心苦しいが今回の交渉材料としてはこの上無い。

世界平和の為に使わせてもらった。


「どうだ?これで憂いは晴れただろ?リカントも森の中だけで暮らすより街も利用できた方が何かと便利なはずだ。それに魔王軍をこのまま放置していたら、いずれ滅ぼされるか、あるいは良くても軍に吸収されるかだぜ?」


唸りを上げて考え込むウィスハート。

あと一押し、ほんのあと一押しで首を縦に振ってくれそうだ。

その時、悩みのピークを迎えたリカントロードウィスハートが無意識に独り言を呟いた。


「うぬう、リカント族が、彼らが森の外で暮らすことが幸せなのか、、、森の中のみで暮らすのが幸せなのか、、、さっぱりわからん。」


違和感。


この独り言には決定的な違和感があった。

そもそも普通ならばリカントロードは、リカント族の長なのだから長年リカント族として過ごし一族の事を知り尽くした年配の個体で有るべきなのだ。


しかしコイツは、ウィスハートはかなり若い。

恐らく力、戦闘力だけで長になったのだろう。

そしてその戦闘力もかなり異色だ。

簡単な攻撃魔法や回復魔法ならともかく、全体強化魔法・・・バフを使うのである。

獣モンスターの戦い方では無い。


加えて先程の発言である。

ウィスハートは1つ外側からリカント族を見て、保護しているように思える。

まるで自分の事では無いかのように。


・・・あ!


わかっちゃったかも。


リカントロードのウィスハート、コイツの首を縦に振らせる方法が。


悩み続けているリカント族の長に俺は必中の一言を発した。


「お前は日本に帰る方法を知りたくないのか、今鹿風谷。」


ウィスハートがギョッとなってこちらを見た。


「な、何故その名を知っている!?」


………時間経過………


ウィスハートがここに至るまでの経緯を詳しく聞いてみた。

彼はどうやら40歳の時にこの世界に転移して来た今鹿風谷、つまり俺らしい。


彼の理想の力は【獣人化】。

彼曰く

「転移する前、家族で何のペットを飼うか揉めていたんだ。俺は猫派、妻は犬派でな。しかし、娘が【フェネック】が飼いたいと無茶を言い出してな。色々その辺のことを考えてる時に転移したもんだから、犬とも猫とも狐ともとれないこのリカントの姿で転移してしまったみたいだな。」


おい、今さらっと娘って言ってたな。

・・・うむむ、未来の俺に子供がいることは知っていたが、娘、、、か。

なるほど。


なんとも言えない妙な気持ちになる。


「リカントの姿で右も左もわからず路頭に迷っていた俺を助けてくれたのがリカント族だった。だから俺は恩を返す為に彼らを守ると違ったんだ。さいわい、転移神から貰った力も有ったからな。」


「元の世界で家族や、これから飼う予定のペットを守りたい気持ちが、ウィスハートに【広範囲強化バフ魔法】という理想の力を与えたのかもしれないな。」


ホークスが複雑な表情で呟く。


「そうかもしれんな。」


咳払い一つ。

ウィスハートは改めてこちらに向き直し、決意表明のように語り始めた。


「俺とリカント一族はお前たち人間と同盟を結ぶ。魔王軍を倒し元の世界に戻れるなら、家族ともう一度会える可能性があるのならば喜んで協力しよう。」


こうして、ウィスハートとリカント一族はアール先生の屋敷と街を守る護衛として、人間と同盟を結んだのだった。


そして、

この同盟の締結により俺たちはアール先生を旅に加える事が出来、本格的な魔王軍討伐の旅に出る事になったのだ。


風の季節が終わりを告げ、異世界エスブリッジに、もう間も無く雪の季節がやって来る。

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