二つの太陽、二つの群れ
渇き知らずの谷の渇き知らずの滝、名前負けしていない湿度、湿気、加えて正午を過ぎたことによる気温の上昇により体感温度はさらに上がり不快度指数はうなぎ登りである。
とにかく蒸し暑い。
空を見上げると木々の隙間から太陽?・・・ん、えっと太陽か?
この世界でも太陽と呼ぶかどうかは聞いてないので知らないが、とにかく丸くてオレンジ色の球体が燦々と輝いている。
しかも2つ・・・は?2つ?
今まで転移した世界に翻弄されて空もろくに見上げていなかったから気が付かなかったが、太陽2つあるじゃん!!
哀川翔もビックリのダブル太陽じゃん!
それでも気温は日本とあまり変わらないと言うことは一つ一つの熱量は小さいのかな?
などと想いに耽っている間にも現状は着々と進行していた。
目の前にはリカントの大軍、その数ざっと数えて100匹以上。
帰れor死ね の選択を迫られてから数分、奴らの辛抱もそろそろ限界値に達し、今にもこちらに総攻撃を仕掛けてきそうだ。
しかしこちらの【リカント100匹楽々駆逐大作戦 仮】もそろそろ頃合いである。
まあ倒そうと思えば多分倒せるんだけどね、100匹。
でも無傷では無理だろうし戦闘に特化していないリサに危険が及ぶのは望むところでは無い。
先程こっそり作戦を耳打ちしたジョーカー君に目配せを送る。
キョドッてオロオロするジョーカー。
・・・おい、まさかコイツ理解してないのか?
あーもうめんどくさいから直接指示を出そう。
「どうやら帰る気は無いらしいな。ならば、侵略者として貴様達を駆逐する!」
侵略者とは・・・よく言ったもんだ。
こちらに言わせればとんだブーメランなんだが、まあ見る視点によって善も悪もすり替わるのが世の常。
だから恨むなよリカント。
「者共、かかれ!!ウワオーーン!!」
号令の雄叫びと共に百数十匹のリカントがオレ達目掛けて一斉に突撃を開始した。
雪崩の如く突っ込んでくるリカントにリサとホークスの身体が一瞬強張る。
うん、頃合いかな?
「ジョーカー!!螺旋の力でオレ達4人を空に舞上げろ!!」
先程ジョーカーに耳打ちして伝えた作戦を、もう一度、今度は大声で叫ぶ。
「ぅえ?え!?」
ハテナマークを浮かべるジョーカー。
ちょ、おま!?おいおい嘘だろ??
「いいからやってくれ!頼むよ天空超越者!!」
仕方ないから煽ててみた。
「お、おう!我が力に任せるが良い!」
ふーい、取り敢えず伝わった。
意図は伝わらずじまいだが。
「螺旋神雷風・滑らかバージョン!!」
必殺技を応用した螺旋の風がオレ達4人の足元から吹き上がり身体を空中に飛ばした。
上空30メートルほどの所で上昇が終わり、落下し始める。
「うお!?ジョーカー!!空中でキープしてくれ!!!キープ!!!」
「ん?ああ、了解した。」
風の力が足元で調整され、身体がフワフワ浮いた。
洞窟内でジョーカーが使っていた空中浮遊と同じ現象だ。
「このまま暫く空中で待機させてくれ。」
「構わないが・・・我が同志最強よ、この脆弱な浮遊に何の意味が有るのだ?」
「まあ下を見てみろよ、直ぐ解るぜ。」
突然空中に消えたオレ達を追うすべが無いリカント達は、一瞬立ち尽くし天を仰いだ。
と、同時にオレ達が走り抜けて来た渇き知らずの滝を抜けるための鍾乳洞から唸り声が聞こえてくる。
「な、なんだ!?」
疑念の声を上げるウィスハート。
数秒後、鍾乳洞の出口から大量のモンスターが現れた。
「ああ、成る程ね。」
やっと状況を飲み込めたホークスがニヤリと笑った。
「私達がトレインさせて放置したモンスターが追いついて来たの!?」
「そう、その通り!100匹のリカントを相手にするのは流石にめんどくさいから、トレインモンスターをぶつけてモンスター達に同士撃ちしてもらうのさ。だいたい奴らとの距離から考えて追い付かれるタイミングは5分弱だとふんでいたからな。計算通りだな。」
「フハハハハ!我が知略に見事に引っかかりおったわ!!」
いや、お前キョドッてたじゃん。
「さあ、我が掌で踊り狂うが良い!」
・・・まあ、いいけどね。
半分はコイツのおかげなのは間違いないし。
リカント達は魔王軍に属さない独自の集団だ。
対して洞窟内の魔物は魔王が支配している魔物、もしくは黄金魔竜の配下の魔物か?・・・と言っても忠誠を誓う様な自我が有るかはよく解らないが。
しかし少なくともオレ達へのヘイトが溜まり戦闘モードになっているのは間違いない。
この2つの集団がカチ合えば戦闘になるのは必然だ。
「クッ!オノレ人間どもめ!小癪な手段を取りおって!!者共、雑魚魔物達を蹴散らせ!!」
ウオオオオオオオオオォ!!!
グアアアアアアアアアッ!!!
2つの魔物達の雄叫びは一気に絡まり合い大乱戦が始まった。




