涙のキス
深夜の2時を回り草木も眠りにつく頃、
リサ自身が語るリサの人生の物語は彼女の部屋に美しく可憐なメロディーの様に響いていた。
声も可愛いなぁ。
まだ【彼女イコール俺】が正直しっくりこない。
「私が日本からエスブリッジに強制転移させられたのは15年前よ。当時3歳だった私は良く遊んでいた幼馴染の女の子の影響もあってアニメーションの魔法少女番組に夢中だったの。ほら、覚えていない?子供の頃見ていた【マジカル魔法乙女 プリティープルプル】!」
「・・・ああ!何かそんなヤツ見ていた気がする。今思うとマジカルと魔法でタイトルがダブってるな。あとプリティープルプルて何だかな〜」
「何言ってるのよ!そこが良いんじゃない!」
いきなりリサがテンションを上げる。
「タイトルの昭和感も最高だし何より名前負けしていないプルプルちゃんのあのたおやかな女性らしいプロポーション!今でも憧れちゃうわー!・・・えっと、話を戻すわね。」
「そうだね。」
なんだかリサの新たな一面を垣間見た気分だ。
「当時プリティープルプルちゃんに影響を受けていた私は転移するとき転移神に【魔法乙女】の理想の力をもらったの。」
「んーと魔法乙女?魔法少女は良く聞くけど、そー言えば魔法乙女とどう違うんだ?同じと思っていいのか?」
「チッチッチ!」
リサが指先を立てて口の前で左右に振り、ウインクをしながら舌をならした。
「素人には解らないかも知れないけれど全然違うのよ!魔法少女はあくまでもその本人が主役、自分自身の力で物事に挑んで解決する事が多いのよ。それに対して魔法乙女は、自分自身でも魔法は使えるけど基本的には他の誰かに魔法をかけたり魔力を贈与したりして、その誰かをサポートしながら物事に挑んで解決するのよ!」
「ああ、なるほどバフね。」
「バフって言うな!!ロマンが無いわね!もう!」
プリプリしているのもなかなか可愛いぞ。
・・・さて話を進めるかな。
「まあ魔法乙女の定義はひとまず置いてだな、何で女の子の格好してるんだよ?」
「女の子の【格好】じゃなくて本当に女の子の【身体】なんだよ。」
んっと、それはいわゆる・・・
「ま、まさか手術で?」
「違うわよバカ!」
ありゃ、怒られた。
「転移の時に【魔法乙女】の理想の力だけじゃなくて【女人化】の理想の力も一緒に授かったのよ。」
「・・・はい??マジかよ!」
「つまり私は15年前に転移して来た時、男の子から女の子に生まれ変わっていたのよ。」
俺は改めてリサの身体を上から下までマジマジと見つめた。
確かに出るところはしっかり出て締まるところはしっかり締まったいわゆる昭和的擬音で言うところのボッキュッボンボディは、とても男のモノとは思えない。
「・・・ちょっと、イヤラシイ目で見ないでくれる?サイキョーってデリカシーないんじゃ無い?」
さっきまではリサの方が変なことばっかり言っていたのに、途端にコレである。
「ああゴメンゴメン、つい。」
一応社交辞令的に謝っておいた。
「まったく!・・・転移してから15年も女の子やってるんだから小さい頃3年しかやってなかった男の子の感覚なんて私にはほとんど残って無いんだからね。気持ち悪いかも知れないけど・・・一応女の子として扱ってよね?」
うーむ、正直なところ俺としては。
「いや気持ち悪いとかは全然無いよ。喋ってても全然俺との共通点を感じないしな。普通の可愛い女の子にしか見えない。」
俺の返答が予想外だったのか、リサが目を丸くした。
「15年も女の子として生きて来たんだもんな、そりゃそうだわ。リサは元は俺であっても今はもう俺では無い、完全にオリジナルの【リサ】って言う女の子なんだよな。変な話してゴメン。」
リサの目がジワリジワリと滲み出し、そして大粒の涙が流れ出した。
「う、うわあああああああああん!」
「ええー!?ちょ、ま!?」
突然泣き出した目の前の女の子に恋愛経験0の童貞小僧である俺はただただ右往左往した。
「あ、ごめ、ゴメンよ!なんか俺またデリカシーの無い事を言っちゃったか!?」
リサが溢れ出す涙を両手で擦りながら答えた。
「ううん、違うの!違うのよ!ただね、嬉しかったんだよ。・・・アールさんやホークスは私の事情を知っていて受け入れてくれていたんだけどね、それは彼らが大人だからそう言ってくれているだけで、本当は気持ち悪がってるのかなーって思って・・・不安だったんだよ。それに、同世代、同い年の私に会うの初めてで・・・その同い年の、今も男の子として生きている君に、女の子として見てもらえたのがね・・・本当に嬉しかったんだ。」
そうか、リサはリサなりに苦悩してたのだろう。
【元男の子】と言う呪縛に。
「なんつーか、今日は変なこと聞いちゃって・・・マジでゴメンな。」
「・・・ううん、こっちこそ、ごめんね。ありがといね。」
心なしかリサの顔が赤らんでいる気がした。
「これは恋愛感情じゃなくて感謝の気持ちだから、気にしないでね」
そう言ってリサは俺の頬にキスをした。
「うお!?」
俺は真っ赤になって硬直してしまう。
俺が赤面したのを見てクスリと笑い
「じゃあね、おやすみ♡」
と言ってリサは俺を部屋から退出させた。
「・・・な、なんじゃこりゃー!!」
俺の声が皆が寝静まった深夜の魔法少女の秘密豪邸に鳴り響いた。
こうして俺とリサは和解?したのであった。




