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理想の牢獄

突然異世界転移させられ、タダでさえ動転している俺の脳味噌をこれ以上混乱させて何が楽しいのか??


目の前の老紳士が発した一言に、俺は文句の一つも言う権利が充分にあると思うのだ。

しかし、文句を言っても現状は打破されない。

さて、何から問い正したモノかな。


「まず・・・貴方に幾つか確認したいんですが・・・。」


訳の解らないヤツにこれ以上主導権を取られるのはゴメンだ。

俺は極めて冷静を装いつつ問い掛けた。


「はい。勿論質問には答えますよ。こちらとしても今の時点での貴方の性格や思考回路を理解したいので望む所です。」


老紳士がイケボで答えた。

なんだ?

いくら声が良いとは言え、聞いているだけで安らぐ様な尊敬したくなるような・・・もっと極端に言えば崇拝したくなる様な気持ちになる。

・・・おっといけない。

気をしっかり持たなければ。


「だ、第一に・・・ここは本当に異世界なのですか?テレビのドッキリとかでは無く?」


「はい、残念ながらフィクションでは有りません。勿論夢でもありませんよ。と、言っても信じるのは難しいですよね?」


「ま、まあそりゃあイキナリ異世界と言われても漫画やラノベじゃあるまいし。」


「でしょうね。では貴方にリアルを体験して頂きましょう。」


そう言うと老紳士は静かに右手の手袋を外して目を閉じる。


「ラビットファイア!」


唱えると同時に老紳士の掌から拳大の大きさの炎が俺に向かって解き放たれた。


「うわぁ!?」


俺にぶつかり炸裂した炎の塊が俺の上着を焼き焦がした。


「熱ちぃ!本当に熱ちぃ!!」


そこには確かな質量と熱が有った。


「これでご理解頂けましたか?」


確かに!確かにこの男は何も無い空間から炎の塊を生成し俺に発射してみせた。

ここが俺が居た世界の常識の外だと言うことは文字通り一発で理解できるスマートなやり方だ。

だか・・・だからと言って・・・


「だからって何て乱暴な事をするんですか!?大火傷しちゃったらどうするんです!!?」


あまりの出来事に怒り取り乱す俺を諌める様に、目の前の老紳士は軽く片手を挙げた。


「問題無いハズですよ?貴方の肉体は私の魔法、ラビットファイアで火傷一つ、擦り傷傷一つ負って無いハズです。」


俺は改めて焼け焦げた服の跡、晒された地肌を確かめる。


「あれ??」


言われた通り全くの無傷だ。

・・・いやそれ以前に、自分のしっている身体の感触心地と余りにも違いすぎやしないか??


俺の身体は剣道、柔道、空手、ボクシングのトレーニングにより高校三年にしてはだいぶムキムキでは有った。

しかし今触っている身体は・・・筋肉は、根本的に違う。

どう言っていいか解らないが、そう、完璧にして圧倒的なのだ。

この肉体がダメージを受ける所が想像出来ない。

そして今なら誰よりも速く強く動ける自身が有る。


「ちょ?何だこれ??」


「この世界に来るときに会いませんでしたか?転移神(てんいしん)と名乗っているふざけた神に。」


転移神、、、ああ、あのやる気の無さ過ぎる声の人か。


「それっぽい奴には心当たり有ります。」


「転移神が言っていたと思うのですが、日本からこちらの世界・・・エスブリッジと言うのですが・・・エスブリッジに転移するさいに転移者は理想の力を得る事が出来るのです。」


「理想の力?」


おうむ返しに聞く俺に、老紳士はまるで出来の悪い生徒に根気強く教える優しい家庭教師の様な口調で続けた。


「転移した時点で、その人間が思い描いている理想の力、あるいは理想の自分、理想の形で転移出来るのです。形式上転移と呼んでいますが、これはもう転生に近い。」


「な、何となく解りましたが・・・それで、俺はコレ何の力を得てこうなったんでしょうか??高校剣道日本一を目指して邁進していたから・・・日本一強い剣道家の力とかですか??」


老紳士はため息まじりに首を振る


「違いますよ。剣道日本一はあくまで目の前の目標でしょう?高校生の頃の私、、、今の貴方が成りたいモノは別のモノのハズですよ。」


別のモノ???

剣道家で無いとすれば、あと思い浮かぶモノは荒唐無稽で曖昧なあの言葉しか無いんだけど・・・まさか。


「ま、まさか・・・。」


「そう、貴方に与えられた理想の力は【世界最強】ですよ。高校時代の今鹿風谷(いましかふうや)の理想の自分は世界最強の男だったハズです。」


顔が少し赤らむのが自分でも解った。

自分の心の内だけで思っていた時は誇らしかったキーワード【世界最強】。

だが他人から言われるとこうも気恥ずかしいとは。


俺はムズムズ感を誤魔化す様に次の質問に移った。


「だ、第二の質問です。貴方は自分の事を50年後の俺だって言ってましたよね?全く意味がわからないのですが。」


「まあ、そうでしょうね。・・・簡単に説明をすると、貴方は18歳と言う時間軸で日本からこの世界、現在のエスブリッジに転移した、転移したてホヤホヤの今鹿風谷です。私は貴方が住んでいた日本の20年後の時間軸の日本から、38歳の時に30年前のエスブリッジに転移してその後30年間この世界で過ごした今鹿風谷なのですよ。」


うん?

何だかヨクワカラナイ。


「つまり私は18歳の時に転移せず、38歳まで日本で過ごした後、エスブリッジに強制転移させられたのです。しかも今より過去のエスブリッジに」


「いやいやいや、おかしいでしょ!?日本とこの世界の時間軸がブレブレにクロスしてるのもおかしいし、何より18歳で転移しなかった俺って何だよ!?パラレルワールドって事??」


「いいえ違いますよ。転移してもその時の記憶は全く無い状態で日本には貴方、今鹿風谷は残り続け普通に生きているのです。」


「は?・・・えっと、俺が分身して居るって事??」


何だか気持ち悪くなって来た。


「厳密に言うと転移した瞬間の貴方の魂がコピーされて、と言うか切り取られて別の器に入れられているのです。理想の自分という器に。」


ん?

待ってくれよ、、、それじゃあ

元の世界には俺はちゃんと存在して今日も問題なく試合会場に着いていて、、

、この先の人生も、、、あの娘とも、、、その残ってる自分が過ごして行くわけで、、、そうすると、、、


「俺は・・・俺は戻れないんですか?」


自然と口から声が出ていた。

異世界転移。

俺に突然起こった現実味の無い事象に初めて現実味を帯びさせたのは、皮肉にもその時の絶望感だった。

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