夜の帳が下りる頃、梟は語り部を求める
その日の夜。
【魔法少女の秘密豪邸】で各々がそれぞれの部屋で就寝したころを見計らい、俺はこっそりと自室を抜け出した。
隣の部屋からジョーカーの寝息が聞こえるのを確認し、少し離れた場所に有る他の部屋とは明らかに質の違う扉をノックする。
コンコンコン
しばし待つと中から
「はーい、今行くわね」
と言う声が聞こえた。
十数秒後、ピンク色の扉がガチャリと開らき、中から可愛らしい寝間着姿のリサが姿を見せた。
「あら、サイキョー?どうしたのこんな時間に?てっきりホークス辺りかと思ったんだけど。」
目の前に現れた女子のパジャマ姿に一瞬ドギマギしてしまったが、気をしっかり持って話しかけた。
「あー、えーとな、ちょこっと聞きたいことがあるんだけど・・・少しだけ時間いいかな?」
一瞬「ん?」という顔をした後、一呼吸置いてからリサが手招きした。
「まあ立ち話も何だから、中入らない?」
普段の俺ならば女子のお部屋へのお招きなんて分不相応な事は丁重にお断りするのだが、今回は特例だ。
「ありがとう、じゃあ遠慮無くおじゃまするよ。」
そう言って中に入り入り口の扉を閉めた。
リサに勧められた椅子に座り辺りを見回す。
部屋の中は外扉同様ピンク一色の天井と壁で包まれており、可愛らしいヌイグルミや家具が点在している。
奥にあるベッドの上には天蓋が吊るされていて空調の風に軽くなびいてヒラヒラしている。
いかにもメルヘンな女子部屋って感じだ。
ちなみに俺たち男性陣が泊まっている部屋は六畳程度のシンプルな空間にベッド、机、椅子が2つ、備え付けのユニットバスがあるいわゆるワンルームタイプだ。
ビジネスホテルに近い。
「で、ご用事は何かしら?貴方の事だからイカガワシイお誘いでは無いでしょうけど、夜中に乙女の部屋まで押しかけてきたんだからよっぽどの用事よね?」
異常に丸いピンクのイルカのヌイグルミを胸に抱きながらリサが俺の隣の椅子に座り、若干の上目遣いで訪ねてきた。
胸にヌイグルミが押し当てられて接触面が大変な事になっている。
グヌゥ。
小悪魔め!
植野歩女と言う想い人が居らなんだら陥落しているところだわ!
「いや、まあ何つーか、非常に言いにくいんだけどね・・・」
俺がポツポツと喋り始めようとすると
「ま、まさかサイキョー・・・私に告白するつもり!?」
とイキナリ素っ頓狂な事をノタマワリやがった。
「はっ??」
「いや確かに私は可愛いしトキメキの導火線が身体中を走っちゃうのも解るけどね、でもマズイよ〜!」
「いやいやいやいやちげーし!そう言うんじゃ無いし!!」
「え?違うの?・・・ビックリしたぁ」
思わぬ会話展開になったが、気を取り戻して・・・俺は核心に触れた。
「てか無理だろ。自分自身と恋愛するなんて。」
リサの表情が一瞬凍り付く。
目が数秒泳いで宙を仰ぐ。
そして・・・
「はぁ〜〜。」
大きなため息をついてから改めて俺の方に座り直し先程より少し真面目なトーンで話し始めた。
「何で解ったの?ホークスに聞いた?」
別にヤツを庇うつもりは無いが事実無根の汚名を着せてパーティの信頼関係を壊す意味は無い。
「いいや、自分で気が付いたんだよ。ホークスには確認をしただけだ。」
「・・・そっか。何で解ったの?」
「魔法少女の秘密豪邸だよ。いくらなんでもこの屋敷を出現させる能力は魔法で片付けるには特異過ぎるからな。」
1週間の特訓期間の間、俺はホークスから剣術だけでは無く魔法に対する知識も学んでいた。
魔法少女の秘密豪邸はその法則や成り立ちから外れすぎている。
「あー、転移してきて間もない君達には解らないと思ったんだけどなー。油断したわ。」
「いや、ジョーカーは多分気が付いてないぜ?」
アイツはリサに夢中だからな。
冷静な判断は出来ないだろう。
「ふーん、で?どうしたいの?魔女裁判でも開く?」
リサが少し不貞腐れたような、それでいて悲しげな表情で問い掛けてきた。
「いや。別に責めるつもりは無いんだよ。ジョーカーにも話すつもりは無い。」
「えっ?だったら何で・・・まさか脅して私を無理やり・・・」
「ちがーう!!やめなさいそのピンク色の発想!!」
たとえ自分自身だと解っていても同い年くらいの異性からそんな言葉を聞くと変な気分になる。
「俺はただこれからパーティの仲間として行動を共にするにあたりだな、お前の事を詳しく知っておきたかっただけだ!
気になって戦いに集中出来そうになかったから・・・。」
彼女・・・今鹿風谷カッコメス、は一瞬目を丸くしてキョトンとした後、クスリと笑った。
「解った、解りました。本当はあんまり人には話したく無いんだけど貴方は私だもんね。特別に教えてあげるわ♫」
とウインク一つ。
いちいち可愛いなめんどくせぇ。
「さて、じゃあまず私がいつ転生したのか、あと・・・何でこんなに可愛い女の子の姿になったのか、それを教えて上げるね♫」
こうしてリサは自分の生い立ちを俺に語り始めたのだった。




