紅の剣聖
「まずジョーカー君ですが、君の戦闘形式は非常に【魔道士】に近い・・・しかし使っている技は魔法では無く、格闘家の【気功】に近い気もします。ですが厳密に言うとそれとも違う。つまりオンリーワンの技です。」
フフン、と得意げな表情をうかべるジョーカー。
先程まで小刻みに震えていたヤツとは思えん。
「しかし、そうなってくると技自体を強化しようにも教えられる者が居ないので、やはり根本的な基礎戦闘術と肉体改造トレーニングで強さを根底からパワーアップさせて行くべきでしょう。」
「フッ、我が師よ。この天空超越者にして螺旋の覇者であるジョーカーに基礎トレなどもはや必要無いのでは・・・」
「基礎トレ!・・・やりましょうね?」
「・・・は、はい。」
間髪入れずジョーカーの言葉を遮るアール先生。
顔は笑っているけど・・・逆にそこが、怖いなぁ。
そして再びカクカク震えだすジョーカー。
可哀想に。
「そして最強くんですが。」
突然話を振られて一瞬身体が強張る俺。
「貴方は確か剣道部でしたよね。」
「は、はい。」
「他にも色々とやっているみたいなのでソレだけが理想の力の影響をうけているわけでは無いでしょうが、まずは剣術の修行から始めましょうか。」
「剣術・・・。」
大きなくくりで言えば剣道も剣術の一つだから解らなくも無い。
しかし、圧倒的な差がある。
そう、刃だ。
剣道の竹刀には刃が無いのだ。
スポーツで有る剣道と、
人殺しの技、
いくらファンタジーなエスブリッジの世界観でも、果たして受け入れていつも通りの剣が振るえるのか?
「まあ色々と不安はあるでしょうが、案ずるより産むが易しと言う言葉もありますからね。今から専門家をご紹介しますので、まずは彼に会ってみてください。」
怖っ!また心を読まれた。
読唇術も使えるのか??
「あ、ジョーカー君は私と修行です。基礎体力からみっちり鍛え上げて差し上げますので、お楽しみに。」
まあジョーカーにとっては間違いなく全くもって楽しく無い時間の開幕だ。
御愁傷様。
頑張ってね。
「最強君の担当講師は庭に居ますのでそちらへ行きましょうか。ご案内します。」
ジョーカーを一旦残し召喚の間を出て長い廊下を抜け50メートル程進むと吹き抜けのロビーに出た。
どうやら俺はこの建物の3階にいたみたいだ。
1階まで階段を降り巨大な正面玄関を抜ける。
室内から抜けたことでより一層視界が開け、目の前に良く整備されたヨーロッパ王室風の庭園が広がった。
改めて後ろを振り返り出て来た建物を確認する。
横幅、縦幅共に200メートル以上、高さ五層に亘る巨大な城が、そこにはそびえ立って居た。
「まるで中世の洋城だなぁ・・・。」
呟いた俺のセリフに、アール先生が訂正を加える。
「最強君、これは城では有りませんよ、我が家です。」
W A G A Y A !?!?
意味がわからない。
恐らくコレも彼の理想の力、【莫大資金】のなせる技なんだろうけれども、一個人の自宅の大きさでは無い。
「私個人では持て余す大きさでは有りますが、魔王軍に侵略され家や家族を失った子供達を養うスペースも兼ねて居ますので、この位は必要なのですよ。」
なるほど。
庭園をしばらく進むと、少し開けた広場に出た。
広場の中央に騎士を模した石像が有り、その石像の頭の上にその男は立って居た。
・・・え?
なんで石像の上に??
「よう、坊主!お前が新しい英雄候補だよな?」
年は二十代後半位だろうか?
ウエーブの掛かった紫髪を首元まで伸ばし、レザー装備に身を包み、腰からは日本刀のような二本差しを吊るしている。
石像から空中を三回転し地面にシュタッと着地すると男はこちらに話しかけて来た。
「俺の名はホークス。アールさんから聴いてるぜ?俺がみっちり鍛えて最強の剣士にしてやるからな。」
・・・なんだろう?
物凄く既視感を覚える。
「彼は【紅の剣聖】と呼ばれて居ます。私が知る限りこの世界、エスブリッジで最高の剣士です。その剣術もさる事ながら理想の力も素晴らしいのです。」
・・・ん?
今さらっと大事な事を言わなかったか?
「よし、じゃあ早速特訓に入ろうと思うんだが・・・坊主、獲物を持って無えな?よし、一本俺のを貸してやろう。」
そう言うとホークスは無造作に空中に手を伸ばす。
すると彼の手の先から真っ黒な超小型ブラックホールの様なものが出現し、その中からムンズと掴んで一振りの刀を取り出した。
「な!?何にも無い場所から刀を??」
思わず驚愕の声を上げる俺に対し、ホークスが説明する。
「俺の理想の力の一つ、【無限収集箱】だ。一度手に入れた武器や防具を異空間に保管し、いつでも出し入れ出来るのさ。場所取らないからコレクションに便利だろ?」
やっぱり今確実に言ったよな!
【理想の力】って!!
「ああ、言い忘れましたが、、、当然彼も英雄召喚で呼びだられた今鹿風谷、つまりあなた自身ですよ。」