始まりの神話
あぁ…憎き我が子らよ
静寂を酷寒を終末を…
火は消え失せ、灰と遺骸が世界を満たし、終わりなき争いは死をもたらすだろう…
死はお前達を逃しはしない…終末からは逃げられはしない…エルヴァトラに滅びを…古の原初の世界に祝福を…
原初の世界は朽ちた巨人と古の大樹で満ち、生も死も存在していない凍りついたような冷たい世界だった。陽の光も命の囁きも死の恐れも存在しない。そんな世界の中で長い、とても長い時がゆっくりと流れていた。
光も闇も、命も死も、希望も絶望も何もない冷たく静かな世界。そしてそれは決して悲しい世界ではなかった。
そんな原初の世界の無限の時間の中、天文学的な確率をすり抜け一つの奇跡が生まれた。
最初の光、最初の熱、最初の希望。
それはずっと後になってから'始まりの火.と呼ばれることとなる。
そしてまた長い時間をかけ静けさを燃やしそして煌々と光り輝く始まりの火の灰から最初の生命が生まれた。
新しい存在。
光を感じ、熱を持つ始まりの子。
後に、ロトスと呼ばれた。
ロトスにとってこの世界はあまりに冷たく、寂く、そして悲しかった。
ロトスは、火の子と灰と大樹の枝と巨人の血を使い自分に似たな子を作りあげた。
第二の子
ロトスはその子をメナスと呼びそしてメナスは始まりの子をロトスと呼んだ。
ロトスとメナスは始まりの火と自らの肉や血を使い、古の大樹や朽ちた巨人と協力し様々な生命を作った。植物や獣や竜や魚、自らに似た人族、獣人族、森人族、窟人族、魚人族、巨人族などの生命を作りあげ子供達からロトスは父と、メナスは母と呼ばれた。
そして始まりの火の元に光と生命が溢れ、希望満ちた幸せな世界。
ロトスとメナスは愛し合い世界を慈しんだ。全ての生命は世界を祝福しこの世界を"火の祝福"エルヴァトラと呼び生命は歌い、踊り、幸せを謳歌した。
しかしその幸せは長くは続くことはなかった。
始まりがあるならば終わりがある。
生があるなら終わりがある
そう命の終わり、死が生まれた。
最初の死者は生命の母、メナスだった。
ロトスがメナスに込めた始まりの火が燃え尽き灰になったのだ。
メナスは自らの死とともに冥界、灰の街エルドラと魂の転生を作りあげ自らの死を受け入れ燃え尽き死んだ。
しかしロトスは涙を流し悲しんだ。
自らの子にして、愛する妻を失ったのだ。
ロトスはメナスの体を始まりの火に焚べ静かに弔った。
「あぁ…私の愛しい半身メナスよ。君の死の悲しみは私の手足の先までは凍りつかせ息ができないほど苦しませている。メナス…灰の街に一人で君は寂しくないか?寒くないか?僕は君の元に行きたいんだ。君に会いたいんだ。君に会いたいんだよ」
ロトスは小さくつぶやきながらメナスの遺体を温めるように静かに火葬した。
しかし、ロトスは悲しみの冷たさに耐えられずメナスの火に飛び込み自らの命をたちエルドラに旅立った。
生命は父と母を失った。
終わりはここから始まった。
ロトスとメナスの子ども達は二人を奪った死を恐れ永遠の命、不死を求め始まりの火を分け合い不死を得ようとした
そうして生まれたのは不死を持つ灰の王
木の王 ユグドラシル
獣の王 マロリー
竜の王 バルバトス
海の王 ロメナス
灰の王は不死に至ったが人々は不死になることはできず死への恐怖と不死への欲望から最後には不死を持つ朽ちた巨人と古の大樹を襲い不死を奪おうとした戦を起こした。
後にそれは、千年戦争と呼ばれることになる。
長い、とてつもなく長い戦いが続いた。数多くの命が生まれ数多くの命が尽きかつての幸福な世界エルヴァトラは悲しみに満ちた。
その中で各種族の始祖達も滅んだ。
終わりのない戦争。その事を憂いた灰の王達は人類に協力しかつて自身の親の友人だった巨人と大樹を滅ぼした。ロトスとメナスと共に全ての生命を生み出した親とも言える存在を滅ぼしてしまった。
巨人と大樹の憎しみは自らの不死の源たる宝珠を砕き自らの遺体から憎しみの化身、原初の魔物と始祖の魔族を生み出した。
「あぁ…憎き我が子らよ…
静寂を酷寒を終末を…
火は消え失せ、灰と遺骸が世界を満たし、終わりなき争いをもたらすだろう…
死はお前達を逃しはしない…
終末からは逃げられない…
エルヴァトラに滅びを…
古の原初の世界に祝福を…」
地の底から轟くような呪詛を唱えながら世界を呪い力尽きた。世界と共に生まれた原初の存在は滅びたのだ。そして朽ちた巨人の骸は大陸となり、古の大樹は山脈となりその麓にとてつもなく大きな森を作り出した。
朽ちた巨人と古の大樹の憎しみの終着点は骸の大陸、暗き大山脈と呼ばれ灰の王さえ寄せ付けない魔境となった。
魔境からは強大な魔物が生命を求め人々を襲い続けている。
偉大なる存在の憎しみを癒すために
不死を求め死をもたらした愚かで皮肉な太古の記憶