夕月花梨Ⅱ
身の丈に合わないことをすればどこかに無理が生じる。そして「自分」を壊してしまう。
その点で言えば、神林菜緒は自身の価値を最もよく理解していたし、会社での自分のポジションまでしっかりと分かっていた。
計算されつくした彼女の行動にどんな男も靡いてしまう。
街灯に引き寄せられる蛾のように。
昔からそうだったのかもしれないし、そうではなかったのかもしれない。
気づいた時にはそんな私がいて、私はそれを受け入れた。
大学生になる時には、新しい環境で上手くやっていく術としてそれに磨きをかけることにした。
中学から高校まで陸上部に所属していたが部員とのコミュニケーションはそこそこうまく取れていた。
同じ部活の女の子から彼氏の自慢話をされた。内容は自分の彼は芸能人の山田孝之に顔がそっくりだとか、身長が180cmあるだとかだった。外見の長所ばかりで中身がないなと思いながら相槌を打っていたのをぼんやりと覚えている。
高校三年生の冬、私も周りに合わせて大学受験した。行きたい大学もなかった。やりたいこともなかった。自分には何もないと感じた。虚無を受け入れた。妥協、惰性は当たり前で人と話すときには建前だけでしか話せない。
大学は家から通える距離で、なるべく女子の少ない大学の学部を選んだ。
入学式の帰りはどこのサークルも新入部員獲得のための勧誘活動に精を出していた。
そんな景色を少し離れた建物からぼんやりと眺めていた。
「大学もうやめてしまおうかな」独り言のつもりで呟いたのだが、後ろから元気よく声をかけられた。
「もったいないんじゃない? 今しかできないことやってみようよ」
振り返って見た人はとてもまぶしかった。体が光っていてとかではなく目が大きくて澄んでいた。
「それって何ですか?」私に必要なことを教えてくれそうだと直感で思った。
今にして思えば、この時から私にはそういう人生いというか宿命みたいなのが課せられていたのだと思う。




