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ルピナス  作者: amakawa saiji
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夕月花梨Ⅰ

彼と付き合い始めたきっかけはバンドサークルに所属したことだったんだと思う。


大学生といえば華があるものだと思っていたし、それでなくとも毎日充実しているものだと夢を見ていた夕月花梨ゆうづきかりんは思い知ったのだ。


 入学したての頃はまだ夢みたいな時間に浸っていられたのだが、しかし、五月が終わろうとする頃にはそれが幻だったということを痛感した。

 一年生の間は基礎を学ぶために授業を多めに履修しなくてはいけなかった。時間割はほとんど一限から始まる。一限の始まりが九時からなのだ。大学がいくら家から電車で二十分位といっても、高校生のころと違って、着ていくものには毎日気を使わなくてはいけないし、夜遅くまでかかる課題の処理で睡眠時間はただでさえ短いので少しでも長く取りたいと思うとどうしたって時間ギリギリまで寝てしまうのだ。大学からは親にわがままを言って一人暮らしを始めたので朝は誰も起こしてくれない。高校の頃まではあんなに朝起こしに来る親を嫌だと思ったものだが、一人暮らしをすると嫌でもあの頃を懐かしく思ってしまう。こんな時に母親のありがたさを感じてしまう。


 「お母さま、ああお母さまあなた様には本当に頭が上がらない」


 自室で一人宝塚風にそんなことを言ってみる。部屋に置いてある時計が目に入る。時刻は現在八時半になっていた。こんなことしてる暇ないわ、一限に間に合わない。慌てて支度をして家を出た。


 高校までと違い授業時間が長い、興味のある授業がないので始まってから終わるまでがとてつもなく長く感じるのだが、それでも楽しみはやってくるものでようやく午前中の授業が終わり今は昼休憩の時間だ。朝はいつも時間ギリギリだから昼食は決まって大学の近くにあるみきという喫茶店で食べることにしている。メニューは十種類ほどしかないのだがなかなか食べ飽きないし、なによりも大学内の食堂よりもざわついていなくて静かに食べられるのは魅力的な部分である。ただただ残念なことに一緒に昼食を取る相手がまだいないことが少しばかり寂しい……


 樹から大学に戻る道中には長い坂道があり、坂道の途中にはかぶきパークがある。坂を上りきるとすぐ目の前に私の通う傍嶋そばしま大学がある。学生達の往来が少ないこの道を自分のペースで歩くのが花梨は好きなのだ。人混みはあまり好きではないし、アウトドアかインドアで言うのなら断然インドア派である。家でゴロゴロしてテレビをダラ見して音楽を聴いて本を読む方が性に合っている気がするのだ。


 そんな大学生活は気付けば、春から初夏になっていた。

 生活リズムというのがようやく出来てきたのか最初の頃より時間にも心にもゆとりがあるように思う。ゆとりがあると色々な事を前向きに捉えられる。

 相変わらずお昼を一緒に取る相手はいないけれど、いつも通り、お決まりの店で昼食を食べる。今日は、お昼最初の授業が先生の都合で休講のためいつもよりゆっくりと樹でくつろいでから大学に向かった。


 入学したての頃はピンクに色づいていた葉も今では緑色の葉をつけている。長い坂道をゆっくりと歩く。なんとなく傾パークの前で足を止めて中に入っていく。

 傾パークの中には屋根のついた休憩スペースがあり時々そこに座って読書をしたりする。どうやら今日は先客が一名ほどいるようで大学に引き返そうか迷ったが、席は空いていたし他にこれといってすることもなかったので机を挟んで向かい側に座ることにした。

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