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閑話・気付けに色を



閑話・気付けに色を




意識を取りもどし稔と会話できた為回復したものと一瞬安心された真だったが、その後すぐにへたり込んだ。

真威の消耗が原因な上、それも並外れた消耗をしていた真。

稔との会話の結果どうにか意識を繋いだものの、相変わらず極度の睡魔とけだるさに襲われていた。


「相当酷いなこれは。」

「んー…僕もそうは思う…なんかずっと徹夜明けみたいで…」

「むしろ辛うじて生き繋いでいたのを幸運と思うべきか。」


目元をぐしぐしと擦りながら意識を繋ごうとする真。

身体は栄養剤と休息で回復してきている真。つまり、回復していないのは意志力のほうで、むしろ身体に刺激を与えてでも意識を復活させた方がいい位の状態だった。


「とは言え…足をコレだけやっても反応しない位だからな…」


真の足の裏に中指だけを突き出した拳をぐりぐりと擦りつける稔。

ツボにあたる位置な上、そもそもそれ関係無しに皮膚が削れる位の力が込められているのだが、まるで神経が通っていないかのように真はぼーっとしていた。


自分の指がひりつき始めた所でやめた稔は、皮の削れた自分の指と真の足を見比べ、そこまでやっても意識のぼやけたままの真に肩を落とす。


「どうしたものかな…」


考え込む稔。

と、そこにわざわざ轟音を立てるほどに力強く扉を開いて入ってくる者がいた。


両脇腹に手を沿え大物ぶって現れたのは、守雄だった。


その姿勢のままで、守雄はベッドに座る真を見る。


「扉を思いっきり開いた程度じゃはっきりしないようだな。まぁ病院に押し込まれている位だから当然だとは思っていたが。」

「今は刺激が与えられれば何でも叩き込みたい所だ、悪くは無い。」


無意味だった派手な登場をフォローした稔。

守雄に続くように穂波が部屋に入ってきて、守雄が稔を手招きする。


「話し相手は私が引き受けるからお前はとっとと行け。」

「…あぁ、わかった。」


促されて病室を出る稔。だが…


(嫌な予感がしてならないな…一応アイツの為なのは間違いないんだろうが…)


感覚を外していたら戦闘では命に関わる。

故に、今感じている嫌な予感はおそらく当たるだろうと、稔は複雑な気分のまま守雄についていった。







「と、言うわけで、第一回ドキドキ色仕掛けコンテスト開催!!」

「帰る。」


ニヤニヤと笑みを浮かべて部屋の壁に開かれた紙を叩く守雄を見てすぐさまきびすを返す稔。

対して、守雄は何一つ焦らず壁の紙を背に笑みを浮かべる。


「まぁ嫌なら仕方ない。事実、持田が参加しないのは『そこまでしたくない』からだ。例え真が回復しなくてもな。」

「っ…」


楽しげに告げる守雄。

その一言で、稔は金縛りにあったかのように停止する。


「いやまあ気にするな。何、真が本調子になるのが遅れるだけだ。修業仲間でお前を心底慕ってて家族も親身にしてくれてる姫野真の回復がな。」

「こ…の…野郎…」

「ははっ、まぁそう怒るな。俺だってアイツに回復して貰おうと考えたんだからさ。」


部屋の出口に手をかけて震えていた稔は、ゆっくり扉を閉めた。

振り返った稔は扉を背に部屋の他二人を見る。


「…で、お前らは揃って何やってるんだ?」


心底呆れたように問い掛ける稔に対して、問われた二人…水葉と耶雅美は、それぞれに稔を見る。

水葉は苦笑いで、耶雅美は浮かない表情で。


「真さんには何度も助けてもらった上、今回も後から大和さんに聞いただけでしたから…」

「私なんか…原因ですから…」

「…お前等その内変な詐欺にあうなよ?」


守雄に乗せられてこんな場にいる二人に溜息を吐く稔。

だが、頭が煮えても真を起こす方法が思い当たらず逃げられない稔自身同類だろうと自嘲気味に思う。


「さて、まぁ企画と言っても大して説明する事は無いんだが、興奮させる、心拍数が上がる、目が覚める!ってだけだ。そこで皆に可愛い衣装やえっちい衣装なんかで迫って貰おうと言う訳だ。いくらか用意はしたから選んで真に迫ってくれ。目が覚めたら勝利かな。」

「せ、迫るって…」


巫女である水葉が苦い表情をする中、守雄は掌を突き出してストップと言わんばかりにその言葉をとめる。


「皆まで言うな、最初言った通り持田はそこまでしたくないから参加しないわけだ。程度は分けて準備してある。だが、巫女さんとは知り合いだからいつもの服装になっちまうだろそのまま会っても。やたらと可愛い服を着て甘えるように近づいても人によっては効果あるだろう。」

「問題の真の趣味は分からないのか?変な雑誌をかき集めて見せびらかしてるんだろうお前。」

「初対面の巫女さんにまで風評被害巻き込まないでくれませんかね白兎さん…」


したり顔で語っていた守雄が稔の一言で肩を落とす。

が、稔は小さく首を横に振った。


「こんな企画をニヤニヤ出してる時点で今更だ。それよりどうなんだ?男子同士でならそういう話もでるんじゃないのか?」

「それが分かってればそこだけ用意したんだがな…『考えたことない』って感じで照れるだけでまともにわからなかった。まぁ照れてる位だから女嫌いってことはないと思うぞ。」


軽く頭を下げた上で、守雄は持ってきた衣装を出す。


「さて、あくまで真に見せに来た以上俺が見るのも失礼だし、着替えるのは別室で、準備が出来たら仕掛けてくれ。」

「…着替え終わった所を見て楽しむつもりでいるのかと思ってたが。」

「そこまで無粋じゃねぇって。真に誰がどうだったか聞くくらいで。」

「それを隠さず言うあたり誠実なんだか欲たましいんだか…まぁそれくらいは役得か。」


衣装を用意するにも借りたか買ったか、手間も色々あったはずだ。

それに比べたら殊勝とも言えた為、一同はそれには苦情を言わなかった。

衣装を漁り、明らかに肌を隠す気のない水着だったり逆にちゃんと服にはなっているが飾り気が多く可愛いを詰め込んだような衣装だったりに目を白黒させる水葉と耶雅美。

稔も覗き込むようにそれらを見ていたが、私服は完全両親任せな上修行用の安物を頼んでいる稔には、何をどう選んでいいか一切浮かばなかった。


(男子も恋愛もどうでもいいと思ってたからな…全く、どうすればいいのやら…)


事実興味が出たわけではないのだが、それでも考えざるを得ない状況になったことに、一応は人並みに自らを飾る事をしてきた女子二人の蚊帳の外で稔は一人頭を抱えていた。












平手打ちの高い音が響く。


「むぅ…少しは刺激になる…けど…」

「駄目…か。」


刺激を与えれば目が覚めるのではと頬を叩いてみた穂波だったが、真の反応は芳しくなかった。


(一体何をどうしたらここまで消耗するんだ…身体は治ってきてるのに…)


普通にはありえない状態に穂波が眉を顰めた所で、ノックの音がした。


「…出来ればこの前に回復させてやりたかったんだがな。」

「何かあるの?」

「心配と悪ふざけと役得だ。いいぞ!」


真には内容を話さないほうが初見の衝撃が大きくなると言う判断から、何も伝えずにいた為事態が分かっていない真。

穂波の促す声に、控えめに部屋の扉が開かれ…


「にゃ…にゃーん…」


白のゴシックドレスに同じく白い毛並みの猫耳と尻尾のアクセサリーをつけた水葉が、頬を染めて照れながら入ってきた。


無言で見つめる穂波と真。

うんともすんとも言われず、真顔で見られた水葉は軽く泣きそうになる。


「え、えっと…えっと…」

「あ、あぁ…すまん、似合ってると思うぞ、うん。ほら、お前も何か言え。」


引きかねなかった穂波だったが、真の為に精一杯の準備をした結果だと恥ずかしそうにしている水葉の様子から察した穂波は当たり障りの無い褒め方をして真に耳打ちする。


「ん…可愛いね。」

「っ…ど、どうも…」


お礼を言った水葉は、そのまま真に歩み寄って、ベッドによじ登って顔を寄せる。

目標が『興奮緊張等で意識を覚まさせる事』の為、可愛い系に扮した水葉の精一杯。

やってて水葉のほうが恥ずかしさで震える中、真は水葉の頭をゆっくり撫でて微笑む。


「あ…ぅ…」

「可愛い可愛…い…」


ゆっくり撫でていると、真の瞳が揺らぎ始める。

それに気づいた穂波は、慌てて真の身体を揺すった。


「おい!癒されて落ち着いて眠くなってどうする!お前本当に子供っぽいな!抱きついたり襲い掛かる所だろうが!」

「お、襲われても…うぅ…」


困ると言いかけて、作戦が『色仕掛け』前提の為それも言えなくなる水葉。

すると、続けて勢いよく耶雅美が入ってきた。


「わ、私は大丈夫ですっ!巫女さんじゃありませんからっ!!」

「薦めた私が言うのもなんだが大丈ぶっ!?」


じゃない。と続ける事ができず、次いで入ってきた耶雅美を見て吹き出す穂波。

レースの入った下着に肩の出たワンピースを着た耶雅美。

ワンピースを着ているのに下着の柄が分かるのは…それがシースルーだから。


「おま…それ…」

「し、白体操着とかワイシャツの時に濡れたら一緒だって…そ、それにこの位ですまないご恩が…」

「そ、それを言われると…私も相当ご迷惑を…」

「変に殊勝にも程があるだろお前等!!」


元苛められっ娘と神様が優しいからと信仰を深めた巫女。

我欲塗れの男相手ならいざ知らず、何度も助けられた少年が困っている中では動かざるを得なかった。

自分なら…と言うより、普通の女子ならそうそうやらないだろう事に突っ込む穂波。


「どっ、どうですかっ!?」


とは言え耶雅美も無理はしていて、過度な緊張で震えながら歩を進める。

直視し辛い真だったが、それでも自分を覚醒まで持ち込む為の行為だと分かってはいる為、ちゃんと見ながら頷く。


「う、うん…効いてる…のかな。」

「ここまでやって無反応ならお前の神経を疑う所だよ。」


だが、反応こそあるものの、血色や目力が戻ったようには見られないままだった。


(真さん…本当にどれだけの消耗をしたらこうなるんですか…)


正直、起きて話すことまでは出来ていると聞いていた水葉は、少しすれば目が覚めたような形で意識が戻ってくると踏んでいた。

だが、憔悴した老人や病人のように、やっと意識を保っているような状態が続いている真を前に、自身も真威の消耗を経験している水葉は比較できそうも無い度合いとそこまでして戦った真に感心しながら、同時に身を削るありように心配を募らせる。


「欲を刺激するのはいいが…本当に疲れきってる所じゃ何も通じないんじゃないのか?」

「ん…眠っても回復しない寝不足みたいで…ごめん…無理させてるのは…分かってるけど…」

「い、いえっ…」


一方真も、女の子にとって多大に無理がある事をして貰っていると理解するだけの頭があっても、身体へ神経が通っていないかのようにまるで繋がっていなかった。


「となると、本命に期待するしかないか…とは言え、アイツが何着た所で目つきや空気の所為で暗殺者の変装みたいにしか見えないんだろうがな。」

「須佐の奴にもそう言われたよ。」


真との接点、と言う意味で本命と言っては見た穂波だったが、幼馴染である白兎稔が如何に可愛さや女性らしさなんてものと無縁の生活を送っているか十二分に知っている為、既に尋常じゃない破壊力の二人が出ている今望み薄だと思っていた。

そんな穂波の声に応えるように、扉の外から稔の声がする。


一同の視線が扉に集中する。

真も、目を閉じただけでそのまま眠りそうになる身体を無理矢理に動かして自分の頬を叩く。

痛みすら感じないほど鈍ってしまっているが、それでも気を張って扉が開くのを待って…


開かれた扉から、目を閉じた稔がすたすたと入ってきた。




全身肌色の。




一瞬、何を見たのか自分の目を疑った穂波が、目を擦って再度見る。

よく見ると、マイクロビキニと呼ばれる布地の面積のほぼ無い水着をつけていた。

だが、とても見ていられた状態じゃなかった。


完全季節外れ…と言うより、季節関係なく問題しかない状態に、一同が言葉を失う。

『衝撃を与える』と言う意味では現段階で真以外には完全に成功していた。


「『何着ても駄目だからいっそ出来るだけ着るな、中二男子で女子と関わってない奴なら異常者以外効く』…って。」


若干震えながら告げる稔。相応に無理をしていた。

だが…同時に無理をしなければならない理由が稔には十分にあった。


真の今の状態が本当に命の危機で、大事である事を知っている事。


『私恥ずかしいから死んでください』等と言う台詞はまともな人間なら簡単には言えないし、戦っていて痛みも死も一般人より知っている稔にしてみれば、ましてそれが無二の相棒相手なら、十分な理由と言えた。


とは言え、水葉以外は悪ノリ交じりの中で親しい相手にこの有様で出てくるのに抵抗が無いはずが無く、まともに何も見ていられず硬く目を閉じて入ってきたのだった。


(くそっ…興奮するでも呆れるでも何でもいい、頼むから回復してくれ…)


ここまでして何にもならないのは稔としても傷つくものがあったため、ゆっくりと目を開いて真を見る。


真は目を泳がせていた。


「見ろ!!!…ってそうじゃなくて、ああもう!誰の為にここまでやってると…」


思わず叫んでから馬鹿な叫びだと気づいた稔も視線を他所に彷徨わせ…部屋を出ようとしている幼馴染の姿が目に入った。


「部屋に男共を近づけないようにしておくから、もうお前らで好きにやってくれ。」

「好きにって…おい、待て!だから」


疲れたように部屋を去る穂波に手を伸ばすが、さりとてこの格好で後を追って飛び出す気にもなれず閉まる扉を見て伸ばした手を落とす稔。


「し、篠原さん?」


水葉が困惑したような声を出す。

既に滅茶苦茶な状態で一体何に戸惑うのかと稔もその視線を追うと…


耶雅美がワンピースを脱ぎ捨てていた。


「あ…の…」

「白兎さんに…女の子としてまで…負けてられませんから…」


真に迫りながらとうとう自身の下着にすら手をかける耶雅美。

水葉は焦った様子で稔と耶雅美を見比べる。


「一緒にするな!練想空間だ!」

「へっ?え、あ!」


短く告げた稔は、即座に練想空間に入る。

普段の装備を展開した稔はその姿を確認した上で安心したように微笑むと剣を抜く。

耶雅美の傍に、紫色のボンテージをつけた女が浮いていた。


「あら…気づかれちゃった。」

「惑意か…油断も隙もないな。」

「油断も何も…人の情欲に乗るのがサキュバスだもの。これだけ塗れてる娘達がいるのに来ない訳無いじゃない。」


二人をみてくすくす笑うサキュバス。


「真さんに良くなって欲しいだけです!人の気持ちを笑わないでください!!」


双馬の御串を手にした水葉が、それを胸にサキュバスを睨んで叫んだ。

それを聞いてサキュバスはますます可笑しそうに笑い声を上げた。


「私は情欲に反応すると言ったわよ?飾った言葉なんて無意味だわ。意思の空間に嘘があるとお思いかしら?」

「そ、それは…」

「だから篠原に憑いたんだろう。真実が含まれる事と、それだけが真実である事には大きな差がある。」


戸惑う水葉の前に進み出た稔は静かに剣を抜く。

そんな稔の様子を見て、サキュバスは顔をしかめた。


「貴女はさすがに怖いわね、本当の事に動揺しないなんて。」

「真実にも強弱がある、両親が憎い訳じゃないがより強い願いの為に仲違いを選んだ私がそんなものに揺らぐものか。」


言って、稔は固まった。

目の前のサキュバスを無視して、練想空間から真を見る。

敵を前にして動かない稔。

そんな絶好の獲物にサキュバスは近づいて、光を浴びせた。


「稔さん!」

「ふふ…貴女だって彼が好きなんでしょう?わざわざ枯らさなくてもその蕾を開くだけでいいのよ。さぁ…」


誘うように稔の頬に手を伸ばすサキュバス。


その腕が、肘辺りで斬れて落ちた。


一瞬。

斬られたサキュバスすら何が起きたのか理解するのに間が要った。


「不揃いの真実、強い願い、奥底の欲…ふっ…ははは!」

「っ…全く効かないなんて…人の腕を斬り飛ばしておいて笑ってるんじゃ」

「腕で済むかよっ!!!」


斬られた腕を押さえていたサキュバスが怒りに声を荒げた瞬間、その首と足と腰が切断された。

何もする間もなかった水葉が呆然とする中、稔はとっとと練想空間を出てしまう。水葉も慌てて戻る。

二人が戻ると、正気に戻った耶雅美が脱いでしまったワンピースを胸に真から隠れている所だった。


「おい真、出るぞ。」

「え?」


稔は満面の笑みで真の手を掴むと、そのまま無理矢理にベッドから引きずるようにして外に連れ出した。







慌てて稔の後を追う水葉と耶雅美。

すると、外では木刀を手にした稔とぼやけた意識のままで短刀を持たされた真が向かい合っていた。


「お、おい病人引きずって何を」

「決まってる、真の意識を覚醒に持っていくのに一番いい方法が思いついたんだよ。」

「い、いやだからってお前」

「黙って見てろ。」


庭で向かい合う真と稔。

真の方はどう見てもようやく立っているような状態で、ふらふらとしていた。


止めようと声をかける守雄と穂波だったが、稔の威圧感にあてられて何も言えなくなる。


辛うじて木の短刀を両手に立つ真。

その身体目掛けて、稔は何の躊躇いも無く踏み込みから全力で斬り込んだ。


肩目掛けてくるその一撃を下がって回避する真。


間髪いれず斬り返す稔。


「っ…」


短刀と木刀の衝突する木の甲高い音が、真の脇腹から響く。

間に挟めてこそいるものの、鈍い意識に入らない力で稔の斬撃を止めきれるはずも無く、木が真の脇腹にめり込んでいた。


「乱!!!」

「っぐっ…」


そのまま乱撃に繋ぐ稔。

全てをかろうじて両の短刀で受ける真。だが、先の脇腹への一撃同様、当てられているだけでとても防げておらず、木刀は完全に真の身体に届いていた。


「あ、あのままじゃ真さん…」

「こ、こいつら普段からこんな事…」


完全な一般人に過ぎない耶雅美と守雄が、明らかに木刀の直撃を受けている真を見ておののく。

まして、真の意識が鈍いからと集まったのだ。もし直撃でも貰えば…


「アイツ…なんで…受けられてるんだよ…」


だが、穂波は一人、真の異常さに震えていた。

稔と常餓の戦いを目の当たりにした穂波にしてみれば、まして普段から竹刀を振るっている身としては、稔の力量の外れている事を理解していた。

だからこそ、緩い笑みと緊張感の無さが特徴みたいな姫野真がそこに踏み込んでいる事が異常だと、実感していた。


「真さんは…本職の忍びの方や格闘家さんでもついていけない稔さんが唯一認めてる人ですから。」

「唯一か…それは私だったんだがな…」


嬉しそうに語る水葉の言葉を聞いて、遠くなった友人の姿を眺めて拳に力を込める穂波。


だが、それ所ではなくなった。



八括魔の構え。



稔がとったそれを見て、鉄塊のような大剣をへし折った稔の連撃がフラッシュバックのように蘇った穂波は息を呑む。


「ば!!死」

「八括魔!!!」


馬鹿も死ぬも言い切れない間に、ふらついているはずの真目掛けて斬りかかる稔。

その初動、踏み込む先に、真は下がりながら左の短刀を投げた。

ダガーのように放たれ突き刺さった短刀を足先で変に踏んだ稔は姿勢を崩し、次が打てなくなる。

真はそこに、下がった事で引いた右の短刀を突き出しながら飛び込んだ。

崩れた所に一直線に向かってくる突きを、木刀から放した左手で横に流そうとする稔。

真の突きはあっさりと流れ…右腕が肘から曲がった。

突きだす勢いが止まらず腕だけが曲がった為、肘から体当たりのように当たられた稔はよろけるように後退させられた。


「はっ!!」


短く息を吐いた真は、気合の入った一閃を振るう。

真一文字に左から右に振るわれた短刀の一閃。稔はそれを頭を掠めるように屈んでかわす。


「あ、まず」

「甘い!!!」


無空旋月。

高さをほぼ変えない、下手をすると身体を丸めている分低くすらなるような低空バク宙斬撃。

脚力に回転力を加えて容赦なく鳩尾や顎目掛けて向かってくるそれは、まともに受ければその一撃だけで十分死ねる代物で…


咄嗟に軌道に左腕を挟んだ真は、鈍い音と共によろけて下がった。

右手の短刀を取り落として打たれた左腕を押さえる真。

その鼻先に真っ直ぐに伸びた稔の木刀が突きつけられていた。


「っぁ…まずったぁ…追撃入ると思って調子に乗りすぎた…」

「みたいだな。だが、八括魔を逆に狙われるとまでは思ってなかったぞ。」

「いや、アレはまともに受けたらホントに死んじゃうって…」


まともにうたれた八括魔を生身で凌ぐ術など全快だろうとどんな装備があろうと持たない真は、本当に死に掛けたと感じて冷や汗を流し…微笑んだ。


そう、微笑んだ。


何かを確かめるように手を握って開いてと動かす真。

痛みや疲れこそ感じているものの、その身体はさっきまでと違ってはっきりと意思を繋いでいた。


意識の無い人に親しい人が声をかけたりすると『思い出す』事で覚醒すると言う話がある。


疲れても、本当に意識が飛んでも繰り返してきた命がけの戦闘訓練。

身体が覚えているそれを、意思が疲れて鈍っている今行う事で、普段の状態に近づけたのだった。

本調子でも無いが、身体自体は回復してた為、その動きに相まって意思のほうも普段に近づいていた。


「でも…ありがと。」

「殺されかけておいて本当に変わった奴だな。」

「そりゃ…それだけ心配されたらね…」


言いつつ、真は腕を押さえたまま顔を逸らす。

木刀を引いて肩に乗せた稔がそんな真の様子に疑念を抱き…




肌に触れる木の感触を感じて硬直した。




いつもの緩い笑いすらなく、腕を押さえたまま座り込む真。

目を伏せて顔を逸らす真を見て、稔も視線を落とす。


注意書きがされるような面積しか布地が存在しないようなビキニで人の域を超えた人間が速度主体の攻撃を多用した全力戦闘を行った結果がそこにあった。

あくまで視線を向けずに上着を脱いだ真は、そのまま稔に向かって放り投げる。


「えと…その…色々ありがと…」

「ぁ…ゃ…っ!!!」


殆ど聞こえないような小さな悲鳴を漏らした稔は、投げられた上着を胸元に押し当てるようにして部屋に駆け込んだ。


「だから止めようとしたんだが…アイツ忘れてたのか?」

「だろうな…真の前に出るのすら目も開けてられなかった癖に外に出て剣振ってるんだから。」


守雄と穂波が揃って呆れたように呟き、真を見る。

と、真は撥ねるように立ち上がって、深く頭を下げた。


「皆ありがとう、色々心配かけてごめんね。」


役得だったろうとからかうつもりでいた二人だったが、邪気の全く感じられない真のお礼に、二人は肩を竦めた。


「…稔さんに丁寧に言ってあげて下さい。何もかも忘れる位起こしたかったんですから。」

「です…ね。」

「うん、二人もありがとう。ごめんね無理させて。」


何か悟ったように告げる水葉と耶雅美にお礼を言いながら、ぼんやりした意識の中で自身の為に動いてくれた皆を見回して、真は微笑んだ。



実は足のマッサージを躊躇いなくしてる辺りのほうが距離近い気がしたりしなかったり(苦笑)

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