第11話・神前武闘二回戦
第11話・神前武闘二回戦
「よぉ主賓軍団!」
二回戦前、真達が集まるほうに軽快に寄ってきた焔が片手をあげて話しかけてきた。
稔は既に場に進み出ていて、清白が織り成す天使の登場を待っていた。
「あ、どうも。」
「どうもじゃねぇよ、お前だお前。」
「へ?わっ!」
いきなり接近してきた焔のテンションについていけずに真が戸惑っていると、いきなりヘッドロックのように頭を抱えられた。
「噂の魔法剣、俺相手にも振らない気か?え?」
「あはは…絶対に負けるならさすがにそうも言ってられないですけど。」
頭を抱えた状態での、気安い焔の問いかけにいつもの緩い笑みのまま答える真。
緩く優しげな空気の割に、この状態でも魔法剣を振らないと告げたに等しい真の返答に、抱えていた真の頭を放した焔は、立ち直った真の鼻先に人差し指を突きつける。
「しょうがねぇな…いいか、追い詰めてやっから負ける前に使えよ!」
宣戦布告のように宣言する焔の前でも涼しい笑みを崩さない真。
気弱なようにも見える真の強情さを感じてか、焔は少し面白いものを見たように笑みを浮かべた。
「って言うか、僕ら主賓なの?」
「はは…あれだけ取り沙汰されてその反応をするあたりは真君らしいですが。」
神様司会の名指しであれだけ色々と言われて尚特別だと言う感覚の無い真に苦笑する大和と水葉。
真は首を傾げ、稔に視線を移す。
(少なくとも、稔は間違いなく最強格なんだから、こんな抜けたこと言ってたらまずいかな?)
自分が凄い、と言う認識こそ無かったが、稔相手に引かずに来た、と言う意味では多少の自負のある真。
準備が終わって進み出てきた天使と見比べながら、少しは強気でいたほうがいいかもしれないと思い小さく頷いた。
「それじゃ…始め!!!」
開始と共に、地に足をつけていない天使はそのまま稔に迫る。
物理法則なんてものから完全に逸脱したかのように、浮いたままで接近する天使を前に、稔は半身で構えてその接近を待つ。
剣が届く所まで接近した天使は、迷い無くその剣を一閃した。
光の軌跡が見えるような、一切のブレの無い綺麗な剣閃を右に踏み込みつつかわす稔。
振り切った所から腕を引いた天使は、今度は真一文字に剣を振りぬいた。
(所作の全てが美術品のようだな、ひたすら美しい。)
沈んでかわした稔は、そのまま剣を振り切った天使めがけて左で回し蹴りを放つ。
綺麗に盾に命中したその一撃は、派手な金属音を響かせた。
(止められた。ふわふわ浮かんでいるのに見た目通り重厚みたいだな。)
浮いたまま後退させられると踏んでいた稔だったが、完全に止められた上で剣を振りかぶっている姿を見て全力で後方へ跳ぶ。
一瞬遅れて綺麗に振るわれた袈裟斬りが稔のいた地面に刺さった。
(さて…どうする…か。)
考える稔を前に、盾を前にして剣を引いた天使は、そのまま水平に剣を突き出した。
「剣を避けて盾側から攻撃しても防がれて、剣を持ってる右手側に踏み込んでも武器を持ってる側だから安全とは言いがたい。素手なら攻め辛いのも無理は無い理由は揃ってるんだけど…」
稔と清白の天使の試合を見ながら、真は状況を口に出して並べながら考えていた。
稔が倒せないだろうか?と。
天使の鋭く一切のブレのない剣閃は、確かにある意味神業のようだ。
変に力めば剣閃なんてあっけなくぶれるものだし、素人なら刀より鉄パイプのほうが強いなんて言われる位のものだから、それ自体は鋭く凄いものだとは真も感じたのだが…
「踏み込めるなら、稔が何も出来ないとは思えないんだよな…」
「あの稔さんですからね…ですけど、盾にも傷一つついていないようですし、全てがその強度という前提で考えるのであれば攻撃部位は少ないとも思います。」
真の懸念は大和も感じとっていたものの、天使は額飾り、首元を隠す肩のある鎧、腰部に手甲足甲と、あちこちが白銀の装甲によって覆われていた。
その全てが盾同様の強度なら責めあぐねるのも無理は無いと大和は思っていた。
「けど…綺麗…ですね。」
当人が輝いてすら見える天使の姿に、単純に目を奪われたように息を漏らす水葉。
「まさか…ね。」
一つだけ思い至った真は、水葉の言う綺麗な天使の姿を見つめた。
斬撃を出来るだけぎりぎりで回避する稔。
横薙ぎの一閃を屈んで回避した所に剣を振り下ろす天使。
自身の頭上に向かってきたそれに左手を真っ直ぐ上げた稔は…
その手に剣が触れた瞬間、僅かにだけその方向を逸らしながら自身の左手も振り下ろした。
耳を掠めるほどに傍を剣が通った事などまるで意にも介さず立ち上がった稔は、その勢いで右の裏拳を天使の顔面につきつけ…
鼻先で止めた。
明らかな情けと驚きによる一瞬の硬直。
そのまま、突き刺さった剣を抜こうとした天使の右手を、添えていた左手で掴んだ稔は、強く踏ん張って両手で天使の手を掴み…
「おおおぉぉぉっ!!!」
ジャイアントスイングのように腰から大きく天使を回して、清白の待つほうへ放り投げた。
さすがに勢いに飛ばされた天使だったが、それでも清白に衝突することなく留まる。
稔を見据えた天使は、静かに向かおうとして…
「天野さん。」
稔は、清白に声をかけた。
「凄まじく綺麗です、髪は僅かでも動けば柔らかく靡き、鎧は金属所か宝石のような輝きを持ち、所々の肌は実ったばかりの果実のようで、羽根の白さは純白としか言い様がない。動きも綺麗で鋭く、一撃毎に意思を感じた。どれだけ精魂込めて描かれた代物なのか、よく分かります。」
「ありがとうお嬢さん。…それで?」
賛辞の数々を前に形だけで礼を返して稔を見る清白。
先に褒める点を並べた理由が何かある事は察しているのだろう。
「ですが…問題点があります。」
美術品を見る目など備わっていないはずの中学生。
だが、迷い無く告げられた稔の言葉に、清白は顔をしかめた。
否定できない。
今の時点でそれを感じ取った清白は、稔の言葉を止められなかった。
「一つは…貴方が剣を知らない事。剣というものを綺麗に振るう姿は鮮明に浮かんだのでしょうが、全てが一振りの動作だけで牽制も斬り返しも何もあったものじゃない。」
精魂込めて描いた所で、込める側が武具の扱いを知らなければ、戦闘方法など把握できているはずも無い。
「そしてもう一つ。貴方は精魂込めて生きた作品を作る気で描きあげたのでしょう?ですが、彼女を崇拝して描きあげた訳じゃない…違いますか?」
「む…」
「だから、天使の姿をしている上に意思まで感じるほどの代物になっているにも関わらず、威光のようなものは感じませんでした。まぁ…神様に威厳があるか微妙でもあるんですが。」
「おいこらこっちに飛び火させるな!本当に失礼な奴じゃな!」
何一つ否定できずにいる清白を前に、横目でアマテラスを見た稔は、その叫びを聞き流して再び清白を見る。
「二つ目はともかく一つ目の問題の結果、このまま戦ったらどうなるかは見えたでしょう?ですが…彼女、人同士と違って潰しても問題なく戻るのですか?」
「よく気づいたな、実物の絵がなくなることはさすがに無いだろうが、褪せた死んだ絵になるだろうな。」
稔の懸念にスサノオが答え、真実だと判明した。
清白は、自身の傍で浮いている天使の姿を見る。
「崇拝こそしてないとは言え、精魂込めた事はよく分かってます。だから…これ以上やって、彼女を殺しますか?大会でそこまでする必要があるとは思えませんが。」
殺す、と名言する稔。
それは、対峙してその姿に生を感じた事と、それでも打ち勝ち先へ行くと言う名言に他ならなかった。
稔は今まで、素人目にも明らかな差を彼女を傷つけずに清白に示す手法とタイミングを計って、避け手に徹していたのだ。
構える稔を見て、天使は清白の顔を伺った上で稔と対峙するように構える。
「…いや、降参だお嬢さん。」
清白が頭を振って呟くと、構えを解いた天使は清白に頭を下げて絵に戻る。
「天使じゃない…か、作者と作品と言う形で見れば、今の礼は正しいのだろうが、確かに生きた絵ではあったが、天使は描ききれていなかったようだ。」
自身に謝るように頭を下げた天使の姿を思い返しながら、首を振る清白。
「勝者、白兎稔!!…思うようにいかなんだのやもしれんが、大事にしてやれよ清白。」
「そう…ですね。ありがとうお嬢さん。」
稔にわざわざ無事なままで帰された天使の絵を抱え、静かに下がる清白。
相も変わらず無傷のままで戻る稔を、水葉は拍手で迎えた。
「なんだ?」
「強くなる事を旨にしている稔さんが、ああも天野さんの絵に込めた思いを感じ取って、消さずに返してあげたのが凄くって。」
「あはは…僕もさっぱり分からなかったや。あの子が綺麗で気遣ってるのかなとは思ったけど。」
稔の優しさに単純に尊んだ真と水葉。
だが、稔は同年代二人の呑気なコメントに肩を落とす。
「力を振るうなら大概は取り返しがつかないんだ、考える事は考えろ。」
「「は、はい…」」
普段は大雑把だったりおかしな所も見せる稔だったが、事力を振るう事に関しては覚悟と苦い経験からそれなりに気をつけている。
そんな稔からの真顔の注意に、二人は恐縮した様子で頷いた。
「次は船祈水葉と深山林介。」
「は、はいっ!」
相変わらず緊張は解けないまま進み出る水葉。
向かい合う林介の風貌に、水葉は喉を鳴らす。
薄汚れて黄ばんで見える白の胴着に紺の袴を纏った白髪の老人。
胴着のあちこちがボロボロで、その年季を窺わせる。
練想空間の衣装を別物とする事でここで発揮する力を強めるイメージを持たせるようにしている稔や真と違い、ここに来た参加者達の服装は現実のそれのままだった。
静かに半身になる林介。
(真威の程はそれほど強く感じない…どうせ格闘技に関して知らないのは誰が相手でも一緒だから、こういう人のほうが私にはいいかもしれない。)
軽い自虐交じりの感想を抱きながらも真っ直ぐに林介を見据える水葉。
静かに立つ彼は、何の変化も見せずこんな場所に来るものにしてはまるで何も感じられない木々のようだった。
「それでは…始め!!!」
「やああぁぁぁっ!!」
どうせ詳しい事なんて分からない。
多少痛いのは耐えて何をするのか見ようと神具を振りかぶって駆け出した水葉は、間合いに入るなり全力で袈裟に串を振り下ろした。
串に、翳した林介の左手が振れ…
「へっ?」
気づけば、水葉は宙を舞っていた。
宙を舞う水葉。
傍目に見ているだけでは殆ど触れているだけにしか見えず、大した動きもないままに仕掛けた水葉のほうが宙に舞っているというわけの分からない現象に、観戦一同は魅入っていた。
「合気道…とか言う奴か。」
「多分…ね、意味わかんないレベルだけど。」
真剣に見据える稔の隣で口をあけて呆ける真。
「ご存知なのですか?大会等もそう見ない代物なのですが。」
「友人の兄が修得しているようで、一度見ました。ですが…」
「おそらくそんな一般的な方が扱える程度では比較にならないでしょう。型稽古当も一応調べれば見ることは出来るのですが、今のは最早そんな程度で片付くものじゃありませんでした。」
裂岩流としていろいろと情報は拾っていた大和は、その程度と今眼前で見た技巧が繋がらず、説明しながらも驚きを隠せずにいた。
「昔、高位の武芸者は妖術使い扱いすらされていた。」
ひょっこりと顔を出した焔。
心得があるのか理解があるのか、笑みを浮かべつつも握った拳から緊張感を漂わせていた。
「練想空間なんてものに来たからこそよく分かるが、行動前に知ってないと不可能なタイミングで攻撃に反応、回避したりするような奴もいたんだよ。何しろ当時の戦いは殺し合いだった訳だからな。稔ちゃんもその感覚はあるんじゃねぇのか?」
相も変わらず気安い焔を横目で見た稔は、何も言わずに小さく頷きだけ返す。
「あのじーさんはその域の奴だ、ある意味俺の目指す所でもある。稔ちゃんでも勝てるか怪しいぜ?」
惚れ惚れする名品でも見つけたかのように目を輝かせて林介の一挙手一投足を見据える焔。
それを聞いて、稔は笑みを漏らした。
「なんだよ?」
「今の試合も終わってないうちから随分だな。」
「今のって…神職でも練想空間に来れるのは知ってっけど、あの子には荷が重いってレベルじゃないぜ。見りゃ分かるだろうが。」
攻撃を逸らされ掌底を受けた水葉が地面に転がる。
その姿を指差して、誰がどう見ても勝ち目の無い様相に呆れる焔。
「格闘家にはそう見えるだろうな。」
呟いた稔は一人、曇る空を見上げた。
「…私はかつて、退魔師を見たことがある。それは強く、悲しい者だった。」
悲しげに呟くように漏らした林介の言葉に、立ち上がった水葉は真っ直ぐ向かい合って耳を傾ける。
「神前武闘という事で集う者達なら、同類がいるかとも思ったが…杞憂で済んだようだな。」
そこまで告げると、興味をなくしたように去ろうとする林介。
「っ…ま、待って下さい!」
呼び止められて振り返った林介は、真っ直ぐに水葉を見る。
「武術は粗野な力に相対するための人の力。この場で使う理由は無い。」
「おいおいそりゃないぜ!俺はアンタとやりたいし、そもそも優勝したらきちっと最強になりたいのに中途で逃げんなよじーさん!」
人差し指を突きつけて叫ぶ焔。
外野の声と視線も向けなかった林介だったが、呼び止めた水葉がそこで頷いた。
「もし本当に貴方のほうが強いのなら、貴方に稔さんと戦って貰わないと困りますし、私もまだ負けてませんから。」
一打もまともに届いていないのに未だ瞳を曇らせていない水葉の姿に少し驚く林介。
「老婆心から御足労かけたようじゃが、きっちり付き合ってくれぬか?主一人その技抱えて寿命で土に還っても仕方なかろう。」
成り行きを見守っていただけのアマテラスまでもが続きを催促しだし、林介はゆっくりと戻って構えなおした。
それだけで、水葉が軽く肩を震わせた。
(さっきまでと違う…何かが切り替えたように…でも!!!)
一瞬尻込みした水葉は、それでも踏ん張って構えた。
「合気道…『も』使う人だったらしいな。」
先程より険しい表情になった稔が林介を見据える。
傍の焔もその理由を分かっているのか、いつものハイテンションが嘘のように苦い表情で林介を見ていた。
「古武術家ってのはそういうもんだ。武芸百般なんて言葉もあるくらいだしな。けど、こりゃあの子のほうが棄権したほうがいいんじゃねぇか?」
「え?」
「古武術は、無手の『殺人術』なんだよ。練想空間だから戻るんだろうが痛いじゃすまねぇぞ?多分掌底や投げでソフトにやってても消耗無くていつまでも立ち直ってきり無いからやめようとしたんだろ。」
呑気に聞いていた真が思いっきり表情を引きつらせる。
大和も不安げに水葉を見ていた。
「水葉!!!」
力一杯叫んだ真を、少しだけ顔を動かして見る水葉。
真は一瞬とまる。そして…
「…頑張って!!!」
声援を送った。
心配でも、配慮でもなく、声援を。
「…はいっ!!!」
驚く周囲を他所に、水葉は真の声援と同じく強く答えを返し、改めて林介を見据え…駆け出した。
今までと変わらない間合いに入るまでの接近からの串の一閃。
だが、今度は林介はそれを待たずに踏み込んで…
指を伸ばしたその手を水葉の鳩尾へ突き出した。
深々と刺さったその一撃に誰もが顔をしかめ…
直後、二人に雷が落ちた。
「…は?」
あまりにも偶然が過ぎる…というより、雨の予報すらない場で起こったありえない現象に焔が呆然と口を空けて固まる。
「雷は神鳴り…神の怒りによるものだとすら言われていたんだ。曇っていた時から狙っていた気はしたが、まさか避けられない為とはいえ食らった瞬間に自分ごととはな…」
「あ!?ちょ、待てよ!じゃあこれあの子が!?」
打撃技がどうこうなどというレベルじゃない殺人級の『自然現象』に驚愕する焔。
さすがに衝撃が強かったのか、林介は地面に膝をつき、水葉は背後によろけていた。
水葉の身体には、確かに貫かれたらしい青い光を滲ませる穴が空いていて…
「っ!!」
それでも、水葉は手にした串を振りぬいた。
がむしゃらでいい加減な、ただ振っただけの一撃。
殆ど同じタイミングで動いた林介がその串に手を沿え…
腕ごと押し込まれ、殴り飛ばされた。
「高等技術だからな、痺れていては使えなかったんだろう。」
「にしたってすげぇなあの子…」
串を振りぬいた水葉は、鳩尾を空いた手で押さえて倒れた林介を見据える。
しばらくそうしていると、アマテラスから水葉の勝利宣言がされて…それと同時に水葉の姿は倒れて消えた。
「ほら次行くぞ大和!相手は火那繰錬牙じゃ!」
「アマテラス様…その、あまり贔屓は…」
完全に一人だけ特別枠扱いされた大和が恐る恐る進み出る。
同じく前に出た連牙は、刀を抜くと宙に放った。
「と、清白が聞いた通りじゃが、この刀が死ぬかも知れんが」
「武具が戦を恐れてたまるか、破れるものなら破ってみろ。」
堂々と言い切る連牙。
それを聞いて、アマテラスは楽しげに微笑む。
「気合があって何よりじゃ。それでは…始め!!」
開戦宣言と同時に、刀が切っ先を大和に向けてすっ飛んできた。
直線的に飛来する刀に対して、すれ違うように踏み込んだ大和は、すれ違いざまに刀に札を貼り付けた。
「炎!!」
裂けた頬から散る青い光を気にも留めず、札を燃やす大和。
炎を上げた札。だが、燃え盛る刀はそのままで大和に向かってきた。
「くっ…」
槍を取り回し、刀を上へ横へと弾いてそらす大和。
だが、何をどうしても刀が壊れる気配も無い。
「中空にある刀…斧や金槌ならまだしも槍でへし折るのは無理がありますね。」
「当然だ、それも俺の刀だからな。」
向かってくる刀そのものに対して槍をふるって当てれば弾く事は出来る為、そう簡単に手傷を負う事は無い大和。だが、燃え続ける刀が通り過ぎるたび火が触れ、消耗するのは避けられなかった。
だが…
「ならば、こうするまで!!」
両手で持った槍を打ち下ろし気味に振るった大和は刀を地面に叩き落として…
思いっきり踏み、へし折った。
「な、あっ!?」
武器を振るって折れなかった刀が鍔と切っ先で出来た空間を踏んだからと言って、それだけで折られると思っていなかった連牙は驚愕の声を漏らす。
対して、炎ごと踏み潰した大和は刀が折れたことだけ確認すると早々に引いてうずくまって足を押さえた。
「火剋金…五行思想の相関の一つ。火は金を溶かす。さすがにそれだけでどうにかできる代物ではありませんでしたが、さすがに弱らせる事はできましたね。」
「っかぁー…参ったぜ。」
「勝者、氷野大和!うむ!さすがじゃ!」
順当な大和の勝利にはしゃぐアマテラス。
対して、ゆっくりと青い光になって散っていった刀を見送った大和は、連牙に一礼して試合場を離れた。
と、丁度そこに一度消えて戻った水葉が戻ってきた。
「水葉さん?大丈夫なのですか?」
「し、試合はちょっと…でも、真さんの試合見たいですから。」
真威の消耗が激しく練想空間から離脱した水葉だったが、見るくらいはと戻ってきたのだった。
「二回戦最終試合、桜並焔対姫野真。」
「おっしゃあっ!ここからが本番だ!!」
楽しみだったと言わんばかりに進み出る焔。
「本番だそうだぞ、がっかりさせてやるなよ。」
「うん。出来るだけ頑張ってみる。」
少し遅れて真も焔に続き、向かい合う。
「余裕そうだな。その涼しい笑み引きつらせてやるから覚悟しとけよ!」
「あはは…よろしく。」
「それでは、始め!!」
挨拶もそこそこに開戦宣言をするアマテラスの声が響き、二人は構えた。
数歩分の距離で構える二人。
静かに半身で立つ真に対して、焔は足を組み替えながらステップを踏んでいた。
「へっ…捌ききれるか!?」
軽めのステップを刻んでいた焔は、一気に近付いて仕掛けた。
「わ、とっ…」
真の顔面目掛けて矢継ぎ早に繰り出される焔の左ジャブ。
直線的だが連射が速すぎるため、右腕でガードし続ける真。
「っらぁ!」
「お、っと。」
と、何の前触れもなく沈み込んだ焔は、半回転しながら右足で足払いを仕掛けた。
最早下段回し蹴りと言っていい鋭さのそれを受けた真は、流れに逆らわず自分から姿勢を崩して側面に転がった。
立ち上がる前にと追撃に駆け出す焔を待った真は…
「せえぃっ!!」
「い!?ぐっ!!」
宙返り…ムーンサルトを放った。
顎に向かってきた足を両腕で防いだ焔だったが、腕を弾きあげられながら宙に浮いた。
「っだぁ…腕ちぎれっかと思った…つかお前もアッサリやってんじゃねぇよ!!」
「稔みたいに高さ変えずには無理だけど、やるくらいやれるよ。僕が誰と張り合うつもりだと思ってるの?」
同タイミングで着地した二人はそれぞれに言い合って微笑む。
「へっ…そーかよ。だがな、こちとら格闘王!!見せてやるぜ、俺が持ちうる全てをな!!」
「それはありがたいや、よろしく。」
「剣抜く前に終わってくれるなよ!!」
笑顔のまま駆け出した焔は…逆立ちになって回転しだした。
「はい!?わったっ…」
そのまま連続して飛んでくる蹴りを防ぎ続ける真。
と、突如立ち上がった焔は左手を直線的に伸ばしてくる。
とっさに顔の前に腕を構える真。直後、真は構えた右腕を捕まれた。
「は?しまっ」
「どらぁ!!!」
そのまま、綺麗に背負い投げを食らう真。
当然のように空いている左手で地面を叩いて受け身をとる。
深く投げられた真は、眼前に信じがたいものを見た。
高々と垂直にあげられた焔の踵を。
(まず)
思った直後、がら空きの鳩尾目掛けてその踵が鎌のごとく振り下ろされた。
「ジャブで見せてた拳の軌道に腕を置かせて掴み投げに繋ぐ。普通逆立ちで戦うなどあり得ないが、カポエラなら逆さからでも強力な蹴りを扱う。総合格闘の名は伊達じゃないみたいだな。」
「ああも上下入れ替わり立ち替わりで戦闘になる人間なんてそういませんよ。稔さんじゃないんですから…あんなもの繋ごうなんて彼くらいです。」
蹴りを放ったあと片足で仰向けの真の上に立つ焔を眺めながら、稔と大和がそれぞれに感想を漏らす。
「ふ、二人とも何でそんな落ち着いて…あんなの直撃してたらいくら真さんでも…」
即やられることはないと思いながらも、見たことのない連撃に慌てる水葉。
それを聞いた稔は呆れを隠しもせずに盛大に肩を落とす。
「人の心配してる場合か…」
「で、でも…」
「よく見ろ。」
慌てる水葉を前に、稔は静かに真を指差した。
焔の脚と真の鳩尾の間には、左腕が挟まっていた。
軽く飛び退くように真の上から降りる焔。
焔が離れると、真も跳ねるように立ち上がった。
「フルムーンスパイク…その辺の人間には使えない俺の決め球なんだけどな、初見で防ぐなよ。」
「いや無茶言わないでよ、防いだ腕だって痛いのに。」
余裕めいた二人のやり取り。
特に、焔はこの状況を心底楽しんでいた。
その辺の人間には使えない。
これは、使う必要がないどころの話じゃない。
ただでさえ、受身の心得が無ければ垂直に『切って落とす』タイプの投げは、頭から地面に向かう為死に繋がり、踵落としも寝たり座ったりするような低い状態で直撃すれば余裕で致死の一撃になる。
そんなもののコンビネーション。
『こうするから対処して』と事前に打ち合わせたとしても危険なものなど、誰が受けてくれるはずも無いし、真威を以って練想空間に到る強く『真っ直ぐ』な人間が、人を致死に追いやる真似など軽い理由で出来るはずもない。
綺麗に使わせて貰って立ち上がってきた真を前にして、楽しくない訳が無かった。
「だが…いつまで続くかなっ!!」
ステップを基本にしている焔は、構えたまま動かない真に再び自ら切り込んだ。
「焔さん凄く楽しそうですね…鍛え始めてから少しは分かる気もしますが。」
あくまで神職として練想空間にたどり着いてから鍛え始めた大和としては僅かだったが、それでも、磨いたものを振るえる楽しさと言うものを理解していた。
真が何処までを凌ぐか、何なら通じるかとあれこれ繰り出す焔の姿を微笑ましく眺める大和。
「さすがに何も出来ないんでしょうか?真さん、あくまで剣士ですし…」
防いでこそいるもののまともに攻め手に出ない真を心配そうに眺める水葉。
と、傍で見ていた稔が肩を竦めた。
「氷野さん対策でしょうね。」
「…はい?」
呆れ混じりの稔の言葉の訳が分からず聞き返す大和。
だが、少し考えてその意味に気づいた大和は頬を引きつらせて焔の多彩な格闘技を眺める。
「え、えっと…どういうことですか?」
「無手で行くと言った私に張り合う為に魔法剣を扱わないと決めた剣士なんだ、真は。船祈の言う通り、剣を使うオマケで足技をいくつか使ってきた位しか、無手の技を知らないんだ。」
「は、はぁ…」
よく分からずにいる水葉に、そして分かってても聞きたくない大和に告げるように、稔は続けた。
「知らないなら見ればいい、あれだけ色々やってくれれば使いやすいものもいくつもあるだろう。」
「あ。」
稔が言った直後、まるで模したかのように左ジャブのように左手を伸ばした真は、ガードに使った焔の左手をつかむと、引っ張りながら右手で焔の左肘を押し上げ、そのまま全身を回転させて自身の後方へ焔を投げ飛ばした。
「づ…きっしょおっ!!!」
「うわっ!?」
右手だけをついて逆立ちで堪えた焔は、そのままがむしゃらに足を振り回した。
咄嗟に手を放して下がった真。対して、焔は一度倒れた後で立ち上がる。
「てめっ…ありがたいってこういう事かよっ…」
「何にも知らないまま稔の剣捌くのが初めの修行だったから防御と回避だけは自信あったんだ。格闘は焔さんみたいに上手い人に会った事ないし。」
真が何故受け手に回って技を眺めていたのか理解した焔は、折られて動かなくなった左腕をだらりと下げて、引きつった笑みを浮かべる。
「お褒めに預かりどーも!折角だし後一つ見てけよ!!」
自棄になったような台詞だが、強い真威を感じ取った真は笑みを消して頷くと改めて半身に構える。
真が応じたと見た焔は微笑むと、全力で駆け出した。
そして…
(回転跳躍!?)
蹴りを始動に、全力で回転しながら焔は軽く跳んだ。
「アクセルブレイク!!!」
「っ…」
高速回転に乗せた連続蹴り。
顔面に脇腹に、とどまることなく続き、挙句足が地に着いた直後、再ジャンプから続く。
元々、腰からの回転は剣から拳まで扱うもの、ただでさえ人間の限界に捉われないこの場でそんなものに乗せて放たれた連続蹴りは、破壊の名の通りたとえ防御に回っても崩す気で放つ、焔の切り札だった。
何発続いたか分からない連撃。だが…
「残念。」
立てた左手に右手を添えて耐え切った真は、焔の足が止まると同時に踏み込んで彼の顔面に掌打を叩き込んだ。
片足が浮いた状態で叩かれた焔はそのまま背中から倒れ…
「はっ!!!」
軽く跳躍した真は、焔の鳩尾目掛けて下段突きを叩き込んだ。
限界を超えるダメージだったのか、そのまま練想空間から解けて消える焔。
「勝者、姫野真!」
「ピースっ!」
アマテラスからの勝利宣言を聞くと同時に、きっちり足を開いてピースサインを突き出す真。
「…意地でもやる気か?」
「あはは、折角だし。」
呆れる稔に対して笑顔で返す真。
ポーズ云々はともかく、未だそれを忘れずにいる余裕を見せる真に稔は感心していた。
作者が『生きたような絵』の表現するのも…(滝汗)




