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伍 元気なさそうだな

 月曜日、俺は学校に着くなり栄斗を捕まえた。別の友人達と何やら語り合っているようだったが、こちらの話を聞いてくれるようだ。


「おいおい、どうした親友。今日は随分と勢いがあるな」


 いつものように軽口を叩く栄斗も、神社の跡取りだ。何か知っているかもしれない。


「栄斗、おまえ神様の名前とか詳しいか」

「は? 何だいきなり。オマエ神様に興味あるの」

雨影夕あまかげせき咫々たた祠音しおん晴鴉希命はるあけのみことっていう神様知ってるか」


 栄斗はきょとんとして俺を見つめる。そして、徐々に顔が引き攣ったかと思うと噴き出した。


「っは! 急に何言い出すかと思ったら! 残念だけど、俺はそんな名前の神様知らないよ。すっげえ名前だな、どんな字書くんだよ!」


 笑うな。俺だって頑張って覚えたんだぞ。


「晃一、神様ってのはいろんなのがいろんなとこにいるんだぜ? 古事記とかに載ってる神様が全部じゃないから、名前を知らない神様の方が多いって」

「そうなのか」


 そうなのか、というか、それくらい分かっている。日曜日中図書館にあった神話の本やネットをあさっていたんだ。それで見付けることができなかったから、一縷の望みを抱いてこうして幼馴染に尋ねたのだ。確かめたかったのは栄斗が知っているのかどうかだ。


「でも、その神様がどうかしたのか? 漫画かなんかのキャラのモデル?」

「いや、なんでもないんだ」


 神様に会ったなんて言ったら、大笑いされそうだ。やめておこう。


「ちょっと、こーちゃん、日和ちゃんにまた何かやったんじゃないでしょうね」


 突然美幸がやって来て、そんなことを言った。失敬な、またとは何だ、またとは。


「日和ちゃん元気ないんだけど」


 俺に言われても困る。


「後でこーちゃんが自分で聞きなさいよね」


 どうしてそうなるんだ。





 休み時間、元気のなさそうな日和に近付いてみる。


「お、おい日和。どうしたんだ元気なさそうだな」


 日和は溜息をつく。


「分かる? ユキがね、元気ないの」

「インコ?」


 ペットと飼い主は一心同体以心伝心とか、そういうやつだろうか。


「おじいちゃんの家の餌台に来る鳥の中でも、クマゲラの時雨(しぐれ)とアカゲラの白露(しらつゆ)、カラスの夕立がユキと仲良しなんだよね」


 すごいな、あのおじいさんが名前を付けているのだろうか。ブナ林のボスだというおじいさんは一体どれほどの動物を手懐けているのだろう。もしかすると雨夜陽一郎恐るべしと至る所で言われていたりするのかもしれない。


「夕立はいつも月水金の朝には必ず来るんだけど、今朝は来なかったの。だからユキ、元気がなくて」

「そんなの鳥の気まぐれだろ」


 日和は首を振る。


「去年の夏に戻って来てからはちゃんとかかさず来てた。また何かあったんじゃないかって、おじいちゃんも心配してて……」


 ふいに教室が暗くなる。しかし、俺以外の生徒は何も気にしていないようだった。まさか妖……?


 俺は窓の方を見て、息を呑んだ。窓に、大きなクモが貼り付いている。土蜘蛛だと思われるそれが、八つの目で俺を見た。


「けへへ、見付けた。ミツケタ。みつけた。翡翠の瞳。間違いない。アレガ、ひすいのげき」


 今まで見て来たいたずら好きの妖とは違う、邪悪な感じがした。もしかして俺を狙っているのか。あれか、漫画とかでよくある「うまそうな人の子だ」ってやつか。


「クウ。食べる。ヒスイノゲキ、たべる」


 かさかさと窓を這い回りながら、土蜘蛛が姿を消す。諦めて帰ったのだろうか。それにしても、ひすいのげきってなんだろう。俺のことなのか?


「朝日君、顔青いよ、大丈夫?」


 日和が心配そうに俺を見る。元気なさそうだなとこちらが声をかけたのに、構図が逆になってしまった。


「う、うん、何でもない……」


 まだどきどきしている。面と向かって「食べる」と言われた。怖い。妖怪ものの漫画や小説の主人公達は日々こんな目に遭っているのか。よく耐えられるな。それとも耐えられるから主人公なのだろうか。俺はなれそうにないな……。





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