目標への第一歩
すいません、今回短いです。
「……眠い」
僕はギルドの中でそう呟くがその声は周りの騒音によってかき消される。
僕は案の定、興奮し過ぎてあまり眠れなかった。
休息のための日だったのに、こんなんじゃ駄目だ。
僕はそう思いながら両手で頬を軽く叩く。
今から僕はダンジョンに行くんだ。眠気なんかに負けてられない!
ペチペチと頬を叩いていると、ラギアスがやってくる。いつもより少し防具が多めに着用していた。
「よし、時間ぴったりだな!」
「遅刻だよ!」
「なっ、今日はいつもより早く起きたはずなのに」
「いつもより早く待ち合わせしてるからね。それは当たり前でしょ。それよりいつもいつも遅刻してくるのはどういう意味があるの」
「いやいや意味とかはなくてだな。だからあんまり怒らない……その、すまん、善処する」
「よろしい」
いつものやり取りをして、僕達はダンジョンに向けて出発した。
ダンジョンの場所はいつもの森の奥にある。僕等はそこまで奥に行ったことはない。
そのダンジョンはここら辺では駆け出し冒険者の登竜門として有名だ。
多くの駆け出し冒険者がこのダンジョンを攻略した様だ。
そして、このダンジョンを攻略できればもう駆け出し冒険者ではなくなり、一端の冒険者になるんだ。
僕達が森に入ってからラギアスが言う。
「どうしたキラ、やけに上機嫌だな」
「そうかな? 多分憧れてたダンジョンに行けるからじゃないかな」
僕がそう言うと、ラギアスは不思議そうに僕のことを見ていた。
「……あのさ、なんでキラはそんなにダンジョンに行きたがるんだ?」
「それは――」
ラギアスの質問に答えようと言葉を出そうとした時、茂みの中からゴブリンとオーガが現れる。
「その質問の答えは後でね」
「だな。俺はオーガをやる。キラはゴブリンを頼んだ!」
「うん!」
ラギアスはオーガに走り出す様子を見て、僕はゴブリンと目を向ける。
ゴブリンの数は二体。前の僕は手も足も出なかったっけ。でも、レベルの上がった今の僕なら一人でも余裕だ。
剣を抜き、ゴブリンとの間合いを一気に詰める。
僕の速さにゴブリンは反応しきれていない。レベルが上がったお陰で僕の敏捷も上がっているからね。
剣を振り、ゴブリンの首を落とす。まずは一匹。
その時、背後から聞こえる足音を耳が掴んだ。もう一匹のゴブリンが攻撃しようとしてる様だ。
僕はゴブリンを斬った勢いそのまま体を回転させ、振り向きざまに攻撃しようとしていたゴブリンを斬る。
「グキャァァァ!」
悲鳴を上げ、ゴブリンは肉塊へと変わる。
何度もゴブリンを倒してきたからよく分かる。ゴブリンの攻撃は単調なんだ。
隙ができたら背後から攻撃する。それだけ。
だからそれさえ気を付ければ簡単に倒せる。
「せいっ!」
威勢のいい声が聞こえると、その直後オーガの悲鳴らしいものが聞こえる。
どうやらラギアスの方も終わったようだ。
「ダンジョンに入る前の軽い準備体操程度だな」
今はこう言ってるけど少し前まではもっと苦戦していたのに。
僕達も徐々に強くなってる証拠だ。
「剥ぎ取りとかはどうする?」
「あー、別にいいんじゃねえか。ダンジョンの敵の方がいい素材を取れるし、ここで荷物を増やす必要はないだろ」
「そうだね、まあ魔石だけは確認しとこう」
そう言って僕は魔石があるかないかの確認をする。
僕の倒した片方のゴブリンが魔石を持っていた。
その魔石を持っていた鞄の中に入れ僕達は再度出発をする。
「でさ、さっきの質問なんだが」
「うん、僕の父さんは冒険者だったんだ。それでね、父さんはある日大迷宮に挑戦したんだ」
「大迷宮……どっちだ?」
「まだ攻略されてない方だよ」
現在発見されている大迷宮は二つ。
そのうち一つは既に他の冒険者によって攻略されている。
そして、もう一つは僕の父さんが挑んだ大迷宮、未知なる大迷宮。
「そこで僕の父さんは……」
何故か僕はその先の言葉が口から出なかった。
頭では分かっていても、分かったつもりになっても、分かりたくなかったんだと思う。
多分、今も。
「そうか……」
「で、僕はその大迷宮を攻略するんだ。父さんが果たせなかったことを僕が継ぐんだ」
「だからダンジョンに行きたがってたんだな。なら今回が大迷宮攻略の第一歩ってとこか」
「そうだね。だから負けられない」
ここで負けてたらいつまで経っても父さんに追いつけやしない。
僕は静かに握り拳を作る。
ラギアスに僕の目標を言った。もう後戻りはできない。
僕は絶対に大迷宮を攻略することをより強く誓った。
それからしばらく森の中を歩いた。
途中で魔物が出てきたが返り討ちにした。
僕は今日支援魔法を使っていない。
ダンジョンに入る前から魔力を消費した状態で行くのは好ましくないからだ。
でも、ここら辺の敵だったら支援魔法なしでも勝てるようになったし使う必要もないんだけどね。
そして、僕達は目的地に到着した。
絶壁の壁。そこに大きく口を開けた洞窟がこちらを睨んでいて、中からは外とは違う雰囲気が漂っている。
「ここがダンジョン?」
「そうみたいだな。怖いのか?」
「こ、怖くないかないよ! ずっと憧れてたんだ、この日をずっと」
僕はダンジョンを睨み、そして口角を上げる。いや、勝手に上がっていた。
「さぁ、行こう!」
「おう! さっさと攻略してしまおうぜ!」
僕等は踏みしめるように一歩を踏み出した。
これが僕の目標の一歩目だ!