冒険者のロマン!
オーガ討伐から数日が経過した。
その間、僕とラギアスは毎日魔物狩りに明け暮れていた。主にゴブリンとオーガ、偶にスライム。
あの日以降、支援魔法をかけたらオーガ相手にそこまで苦戦することはなかった。それなりに疲れるけどね。
そんなこんなでレベル上げをしてたら僕のレベルは9になり、ラギアスは10になっていた。
やっぱりあと一歩追いつかない。いや、頑張って食らいついてる方かな。
そして今日もラギアスと待ち合わせをしているギルドに来た。
ギルドはいつも通り冒険者が沢山いて賑わっている。
今日はどこに行こうかとか、装備がどうだとか、そんな話し声が僕の耳に入ってくる。
それを聞いて、僕も冒険者になってるんだなと改めて思った。
「ちょっとは近づけたかな」
父さんが死んでしばらく経つ。
どうだろう? 僕は少しでも父さんに近づいているだろうか?
待っててね父さん。どれだけ時間がかかるか分からないけど、僕はやって見せるから。
「ようキラ、いつも早いな」
そんな思考に入っていたところでラギアスがやって来た。
「ラギアスが遅いだけじゃないの?」
「何を言うか! 時間ぴったりだ!」
「五分遅刻してるよ」
「大丈夫だ、俺んちの時計だと合ってる。だから問題ない」
「問題大ありだよ!?」
ラギアスは何事もなかったかのように堂々としている。この人は……。まあいっか。
「んで、今日はどこに行く?」
「特に決めてないから。んー、また森に行く?」
僕の提案にラギアスは後頭部に手を当てながらうーんと唸りながら悩んでいる。
このところずっと同じ敵しか倒してないから少し飽きてきた感はある。多分ラギアスも一緒だと思う。
数十秒間考えたラギアスが口を開く。
「そうだ! ダンジョンに行ってみないか?」
「ダンジョン? ダンジョン……ダンジョン!?」
僕は何度もダンジョンという言葉を口ずさむ。
"ダンジョン"とは地上よりも魔物がたくさんいる洞窟のことだ。
そして、ダンジョンとはまさに冒険者のロマン! 薄暗い洞窟内を探索して、魔物を倒し、偶にお宝と遭遇する!
これこそ冒険者のロマン! そんなところに僕も遂に……!
「行こうラギアス今直ぐ行こうダンジョンが僕等を呼んでるよ!」
「お、おいキラ落ち着け」
「ラギアス、男にはやらなきゃいけない時があるんだ!」
「何をやるか知らねぇが、一旦落ち着け」
「ラギアスは僕の、いや、冒険者のロマンを止めるつもりなの! なら容赦しないよ!」
「だから、いい加減落ち着けっ!」
ゴツンと、ラギアスの拳か僕の頭に叩き込まれた。
「な、何をするんだ!」
「何をじゃねえだろ。暴走してたお前を止めただけだ」
僕は殴られた部分を摩る。思いっきり殴ったな、ラギアス。加減ぐらいしてほしい。
しかし、その痛みで僕は冷静さを取り戻すことができた。
そしてさっきまで言っていたことが自分でも意味不明なことが分かった途端、僕は羞恥心が抑えられなくなった。
「……落ち着いたか?」
「うん……」
僕は小さく返事をした。
それから僕はラギアスの話を聞くことにした。
まず何故洞窟に行こうと思ったとこからを聞くと、やはり毎日同じような魔物を倒すことに少し飽きを感じていたらしい。
そこで、沢山の魔物が出てくる場所、洞窟を指定したようだ。
「でだ、行くのは一番近いダンジョン。場所はいつも行ってる森の奥にある」
「推奨レベルはどのくらい?」
「大体10ってとこだ。俺達のレベルとそこまで変わらない。それどころかこっちにはキラの支援魔法がある。攻略は十分可能だと思ってる。で、どうする? 行くか、行かないか」
推奨レベルにほぼ達していて、支援魔法もある。
そして何よりダンジョンはロマン。なら僕の答えは決まっているようなもの。
「行こう!」
「おっしゃ! そういうと思ってたぜ。さっきの言動からな」
「も、もう忘れてください!」
「いや忘れられっかよ。……ぷぷ、『僕のロマンを止める気か!』って」
「やめてえぇぇぇぇぇ!」
恥ずかしくて体が熱くなる。顔が赤いこともなんとなく分かる。
これからはああ言うことは止めよう。僕が恥ずかしいし、何よりラギアスがそれをネタに僕をいじめてきそうだ。
「そ、そんなことより! ダンジョンに行くなら準備しないといけないよね」
「お、強引に話題を変えたな?」
ラギアスはまだにやけており、それを隠すように口に手を当てている。
「ま、キラいじりはあの程度で切り上げるるとして。今日のところは解散して各自必要なものを集めるってのはどうだ? 休息がてらにさ」
確かにここ数日間はずっと魔物と戦ってきたから疲労が溜まっている。
僕としては今すぐにでも行きたいけど、疲労が溜まっている状態で行くのは得策ではない。
「そうだね、今日は解散しようか。そして明日ダンジョンに潜ろう」
ラギアスは少し微笑みながら頷く。了承の合図だ。
「集合はいつも通りここ。ラギアス遅刻しないように」
「大丈夫だ任せとけ!」
……本当に大丈夫だろうか? 変に心配するのは気のせいだろうか?
「後、回復薬とかの調達は頼んだぜ。じゃあな、また明日」
「うん、また明日」
僕達は別れの挨拶を告げて解散した。
***
ラギアスと別れた後、僕はクロウさんの店に向かった。
僕は相変わらず人通りが少ない道を歩いていた。何故かいつもより寂しい気がした。多分気のせいだ。
どうしてこんな場所に建てたんだろ? もっと人通りの多い場所なんてこの街にはたくさんあるのに。
僕の視界に看板が入り、その店の扉を開ける。
「お邪魔します」
「お、その声はキラ坊か!」
奥からクロウさんが出迎えてくれる。その呼び方初めて聞いたんですけど。
「こんにちはクロウさん」
「おうおう、見ない間に逞しくなったじゃねえの」
ガハハハッと豪快な笑いをしながら僕の肩を叩く。い、痛い……。
「で、どうした。なんかしに来たんだろ?」
「はい、回復薬とかを買いに来ました」
「そうかそうか! ならしっかりと選んでやってくれや」
僕は回復薬がある方に足を運ぶ。
そこには沢山の回復薬が置いてあり、それぞれに値札が付いている。
普通に考えてたら値段が高い方が効果が強い。
どれを買ったらいいんだ? クロウさんに聞いてみるか。
そして僕が後ろを振り返ると、クロウさんがこっちを見つめていた。
「あ、あのどうかしましたか?」
「いやな、若いころの俺を思い出してただけだ」
そう言うクロウさんはどこか遠い目をする。昔の記憶でもみているのだろうか。
「それより、なんかお困りの様子だな」
「はい、明日ダンジョンに行くことになったんですけど、どの回復薬を買えばいいか分からなくて」
「なんだそんなことか。キラ坊、レベルは?」
「僕のレベルは9です。後、仲間のレベルが10です」
「9と10か。ちょっと待ってろ」
そういってクロウさんは棚をあさり始めた。
回復薬の回復量は種類によってまちまちになる。
恐らく、レベルを聞いた理由はそのレベル相応の回復力を持った回復薬を探すためだろう。
回復量が少なすぎても駄目、多すぎたらもったいない。僕にはその加減がいまいち分からない。
しばらくして、クロウさんが
「これが丁度いいんじゃねえか。まあ五本持っておけばいいだろうな」
「なら念のため六本買っておきたいです」
「それなら、銀貨一枚と銅貨五十枚だ」
僕は代金を支払う。
すると、代金を受け取ったクロウさんはこっちを見て言う。
「その剣見せてみろよ」
「はぁ」
僕はなんの躊躇いもなく渡す。
クロウさんは鞘から抜き、刃を見始める。
「これどのくらい使ってんだ?」
「えーと、一週間くらいです」
「手入れは?」
「してません」
「やっぱりな。この剣もうボロボロだ」
……なんとなく分かっていた。
僕は剣の手入れの仕方なんてよく知らない。
だからずっと使ってきたけど、ここのところ切れ味が落ちてることは感覚で分かっていた。
この剣でダンジョンに潜ることはお勧めできないな」
「やっぱり駄目か。どこかで買えるかな?」
「おいおいキラ坊、悲しいこと言うなよ。ここがなんの店か覚えてないのか?」
……あ、そうかここは。
「ここは"何でも屋"だぜ。剣ぐらいあるさ」
これでもかとクロウさんは胸を張る。
何でも屋凄い!
「本当に何でも置いてあるんですね」
「まぁ何でもとは言い過ぎ何だがな。それより、後金どのくらい持ってる?」
「えーと、銀貨二枚です」
「結構持ってるな、なら」
クロウさんは店の奥に行った。
ここ最近で僕達は結構お金が集まった。
オーガの皮がかなり高く交換できるからね。
品質が悪くても銀貨一枚は貰える貴重な収入源だ。
しばらくしてクロウさんは一本の剣を持ってきた。
「この剣ぐらいだろうな。ほれキラ坊、持ってみ」
店の奥から帰ってきたクロウさんが持っていた剣を持ってみる。
ずしっとした重量感。それでも振りやすい重さだ。
「初心者の剣より切れ味は強いだろうよ。それに切れ味が落ちにくいコーティングがされてある。銀貨2枚で売るぞ」
切れ味が落ちにくいコーティングがされてあって銀貨2枚。クロウさん大分値段下げてるんだろうな。
「クロウさんって優しいですね」
「急に何を言いだすかと思ったら。よしキラ坊、大負けして銀貨一枚と銅貨八十枚で売っちゃる!」
「クロウさんそれはいくら何でもやり過ぎじゃ」
「気にすんな。お前は俺の顧客だ。サービスしてやるよ」
「ありがとうございます!」
僕は深々と頭を下げる。
この前も同じようなことがあったな。絶対いつか恩返しをしよう。
代金を支払い、しばらくクロウさんと雑談すると支援魔法の話になった。
「支援魔法使ってみてどうだった?」
僕はオーガ戦の時のことを話した。
あの戦いは支援魔法の大切さを感じた戦いだったからだ。
僕の話を聞き終えたクロウさんはうんうんと頷いていた。
「流石支援魔法と言ったところか。俺の言ったことは間違ってなかっだろ?」
「はい!」
僕は元気よく返事をする。
「それにしても力上昇か。他に使えんのか?」
「まだ使えませんが、もう少しで完成すると思います」
イメージはほぼ完成に近づいているから、多分明日のダンジョン探索には間に合うはず。
「そうか、まぁ増やし過ぎないようにな。何がなんの魔法かわからなくなるかもしれねえからな」
まぁそんなことないと思うけど。
その後少し話をして、僕は帰ることにした。
「では今日はこのくらいにしときます」
「あ、ちょっと待った。これ持ってけ」
そう言ってクロウさんは青い液体が入った瓶を渡してくる。
「これを持ってきな。魔力回復薬だ。代金はいらねぇ」
また高価そうな物を……。これって営業的に大丈夫なのかな? 本当に心配になってくる。
「じゃあなキラ坊。無事に帰ってこいよ!」
「はい! 色々ありがとうございます!」
そう言って僕は店を離れ、家に帰った。
じゃあ今日はゆっくり休もう。
明日のダンジョン楽しみだな。どんなところなんだろう。敵は強いのかな。僕等でもしっかり戦えるのかな。くぅー! 早く行きたいなぁ!
「駄目だ! 明日のことを考えたらゆっくりなんてしてられない!」
結局、僕は休むことはできなかった。