僕の支援魔法
街の外に出た僕たちは森の方に歩き出した。
ラギアスが「スライムなんかじゃその支援魔法とやらの凄さがわからん」と、言い始めたからだ。
支援魔法は味方のステータスを上げる魔法なのだから、最弱のスライムでは確かに効果はわからない。
ちなみに、ラギアスのレベルは5。僕より少し高い。
どこで魔物狩りをしていたかと聞くと、あの森でしていたらしい。
余談ではあるけど、ラギアスもあのマッシュームの液体にやられたようだ。やっぱり初見じゃ厳しいみたいだ。
そうこうしているうちに森に辿り着く。
初めて来た時と変わらない雰囲気。
「さあ、行こうぜ」
「うん」
ラギアスの掛け声に僕は頷く。
仲間がいると安心できる、そんな気がした。ラギアスのレベルが僕より高いということもあるかもしれないけど。
森に入って数分後、目の前にマッシュームが現れ、こちらを睨む。
「結構早かったな。さてとキラ、早速だが支援魔法、かけてくれよ!」
「分かった!」
僕は魔力を集中させる。
魔法は基本的に使用者のイメージによって完成される。そして、効果が大きいほど使用者の魔力を沢山使う。
イメージは、力! 力の上昇!
「ウガル・ライズ!」
イメージが完成され魔法を唱えた直後、ほんの少しの脱力感を覚える。
これが魔法を放って魔力を使った時の感覚か。これを続けてたら倒れそうになる。
「ラギアスどんな感じ?」
「お、おお。なんか力がこう漲ってくる感じだ。こ、こりゃスゲェ!」
そう言いながらラギアスは大剣を構える。
力強く地面を蹴り上げ、マッシュームに肉薄する。
マッシュームは横に逃げようとするが時すでに遅し。
ラギアスの振るった大剣が頭を切り落とした。
「いっちょあがり」
大剣を肩に担いだラギアスは余裕の笑みで振り返る。
ラギアスが斬ったマッシュームはピクリとも動かない。でも、何故か酸性の液体が出ていなかった。
「あの液体は?」
「あれか? あれはあいつの体を傷つけたら出てくるが、頭の部分には出てこないんだ」
「へぇ、そうなんだ」
つまり、頭の部分さえ切り落とせばマッシュームは無傷で倒せる敵なんだ。
「それより、支援魔法すげえな。まだ力が湧いているぞ。いつまで続くんだ?」
「あ、えーと、その、分かんない」
僕自身使ったのは初めてだし、この魔法を考えたのも昨日だから何にも分からない。
「分からないって、使ったことないのか?」
「うん」
「……は、ははは! あの自信はどこから出てたんだよ! ま、なんにせよ上手くいってよかったな」
ラギアスは声を出して笑った。
「そういや、どうやってその魔法を覚えたんだ? やっぱ本か?」
「いや、この魔法は自分で考えたんだ」
魔法を覚えるためには二通りの方法がある。
まず、僕の行った自分で魔法を考え出す方法。
そして、魔法に対する記述がある本を見て覚える方法がある。これは簡単に言えば他の人が考え創った魔法を覚えると言うことである。
もちろんだが、会得が難しいの前者。
でも、僕の見た本の中には支援魔法に対する記述が全くなかったので、難しい方をするしか方法がなかった。
「オリジナル魔法か。すげえな」
「凄くはないよ。支援魔法は持ってる人が極端に少ないだけで、使える人はいるはずだよ。その人達も僕と同じようにしてると思うから、僕は単なる真似事だよ」
「真似事って。そんなこと思わなくても普通にすげえと思うんだけどな」
僕はラギアスに「ありがとう」と言いながらマッシュームが魔石を持っているか見てみる。
切り開いた体内から紫色の魔石がこちらを覗いている。
「おっ、魔石持ちか。幸先がいいな」
「ねえ、どうして魔石を持ってる魔物と持ってない魔物がいるの?」
前々から気になってたことをラギアスに聞いてみる。
「なんだ、知らなかったのか? 倒した後に魔石が取れる奴ってのはその種の中でも強い個体なんだ。弱い個体だと倒した瞬間に体内から魔石が消えちまう。今倒したそいつはマッシュームの中でも強い個体ってわけだな」
ラギアスの説明を聞いて僕は納得する。
確かに、スライムを倒した時も、たまに強い奴がいたようないなかったような。
スライム自体弱すぎるから強い弱いが分からない。スライムよ、ごめんね。
魔石を回収した僕達はまた森の中を探索し、開けた場所に出てくる。
その間、マッシュームとの遭遇もあった。
三体目だったかな? その時に僕のレベルが4になった。
ちなみにラギアスのレベルはまだ上がらない。
「結構中に入ってきたな」
「そうだね。でも、マッシュームしか出てこないのも変だよね」
「いや、ここら辺まで来たら他の奴が……っと、言ってるそばから出ててきぞ」
ラギアスは大剣に手をかける。
ラギアスの視線と同じ場所に目を向けると、そこには二本足で立つ小さな魔物が三体目立っていた。
どの魔物も木の棒のような物や、石の武器のような物を持っている。
「あれは、ゴブリン」
「気ぃつけろよ。さっきよりちょっとばかし強いからな」
ラギアスの声は低く、僕に警告しているようだ。
警告されなくても油断なんてしない。敵が複数体いる時は絶対に気が抜けないからね。それはスライムで学習してる。スライムもなかなかいいこと教えてくれる。
「「「クギャャ!」」」
三体のゴブリンはこちらに向かって走って来る。戦闘開始だ!
「キラ、頼む!」
「分かった! ウガル・ライズ!」
早速、僕は支援魔法をラギアスに施す。
使ってみて分かったけど、どうやらウガル・ライズの効果時間は約五分程度らしい。
ラギアス曰く、魔法がかかっていると大剣を振るのが楽になるようだ。
「おらよ!」
向かってくるゴブリンに目掛けてラギアスは大剣を一振り。
大剣はその一撃の攻撃力が売りだ。その売り通りの攻撃力がゴブリンに迫る。
しかし、ゴブリンはその大剣を回避して見せた。
「やべ、勢いつけすぎた」
大剣はゴブリンではなく地面に突き刺さる。大剣は確かに凄い威力で攻撃できる。だけど、その反面隙が多いのが欠点だ。
ゴブリン達はすぐにその隙を突こうと、地面から大剣を抜くラギアスに襲いかかる。
「僕を忘れないでほしいな!」
剣を振り、ラギアスに近づくゴブリン達を一度退ける。
どうやらそこまで素早い敵ではないみたいだ。これだったら今のレベルでも対応できる。
「サンキュー、キラ!」
大剣を抜いたラギアスは僕の横に立つ。
今までより強い敵だ。でも!
「今はラギアスがいる! 行くよ!」
「おうよ!」
掛け声と共に、ラギアスが一体のゴブリンに肉薄する。
「これでも喰らいやがれ!」
力強く振り下ろされる大剣。
だが、またもゴブリンはその攻撃を躱す。やっぱり力が上がっているとはいえ、剣を振る速度を変えるほどまでにはいかないようだ。
「クギャャ!」
僕がラギアスを見ていると、「こっちにもいるぞ!」と言わんばかりに声を荒げるゴブリン。
そのゴブリンは持っている石の武器で攻撃してくる。
思った通り躱せない攻撃じゃない。僕は横に軽く飛んで、攻撃を試みる。
しかし、僕の背後からもう一匹のゴブリンが攻撃を仕掛けてきた。
「うっ!?」
スライムの体当たりよりもずっと強い攻撃は僕の背中に痛みを走らせ、僕は一旦後ろに下がった。
くそ、一対二じゃ流石にきつい。
と、その時。
「クギャャャャャ!!」
横でラギアスと戦っていたゴブリンが悲鳴を上げる。どうやら、ラギアスが倒したようだ。
「悪いキラ、遅れちまった! 大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ラギアス、挟み撃ちしよう」
「分かった」
作戦を立てて直ぐ、僕とラギアスはほぼ同時に地面を蹴る。
ゴブリンはどちらを攻撃したらいいのか迷っている。
よし、作戦通り。
僅かな戸惑いを逃さず、僕は剣を振りゴブリンを切り裂く。そして、ラギアスも同じく大剣を振りゴブリンを倒した。
地面には三体のゴブリンが転がっている。
少し強かったけど僕等はゴブリンを倒すことができたんだ。
「ふう、やっぱゴブリンは少し強いな」
戦闘の緊張感をほぐすように息を吐くラギアス。
「さっき呻き声が聞こえたけど、大丈夫か?」
「平気平気、痛むけど。ラギアスの方は大丈夫だった?」
「おう、俺は攻撃を受けてねえからな。まぁ一対一だったからってこともあるがな」
そんな話をしながら、僕達はゴブリンから魔石があるか確認する。
持っていたのはラギアスが倒したゴブリンだけだった。
「ゴブリンからは素材は取れないの?」
「ゴブリンは基本的に剥ぎ取る部位がねえんだ。だってよく見てみろよ、あの皮だけの体。どう見たって使いもんにならねえだろ」
酷い言い方だけど確かにそう見える。
と、魔石回収が終わった時だった。
何かに睨まれている、そんな感覚が体を走った。
「ラギアス……」
「分かってる……こりゃやばそうだな」
僕達は再び戦闘態勢に入る。