初めの仲間
クロウさんと話した次の日。
僕は早速ギルドに行って仲間探しを始めた。
ギルドはいつも通り冒険者で賑わっている。
この中から仲間を見つけないと!
……でもどうやって仲間探しをしたらいいんだろう? そもそも仲間ってどう作るんだろう?
「考えて分からないなら適当に声かけていく方が早い」
僕は取り敢えず一人でいる冒険者に声をかけていくことにした。
何故一人かというと、パーティを組んでいるところに話しかけるのが気まずそうだと感じたからだ。
僕はギルドの中を見渡して、一人でいる冒険者に声をかける。
「あ、あの」
「なんだ?」
「パーティを組んでくれませんか?」
「断る」
そう言って声をかけた人は僕の前から立ち去った。
えぇぇ、即答されたんですけど。ちょっと悲しいんですけど。
でも、こんなことで折れてちゃ駄目だ。
僕は再び冒険者に声をかける。声をかける、声をかける。
「ごめんね、ちょっと無理かな」
「悪い、他を当たってくれ」
「間に合っているからそういうのは大丈夫だ」
「俺はソロで生きていくんだ! その道を阻むのならば俺は容赦はしないぞ! はっは!」
…………どうしてなんだい? どうして声をかける冒険者全てに断られるの?
そんな時、僕に声がかかった。
「パーティメンバーをお探しですか? それなら俺たちのところに来ませんか?」
振り返って見てみると、そこにはハゲのおっさん、見るからに柄が悪い中年男性が立っていた。
見るからに怪しい。絶対にやばい人たちだ。
「すみません、さようなら!」
僕は一目散にその人達から逃げ出した。
その後、沢山の人に声をかけたけどいい返事はもらえなかった。
それどころか、僕にとどめの一撃と言わんばかりの言葉が飛んできた。
「お前みたいな弱そうな奴はいらないな」
僕の心のヒットポイントはゼロです。
早急に回復してください。
トボトボと歩き、僕は端っこにあるベンチに腰を下ろした。
なんだかこの光景を見たことあるな。ああ、使える魔法が支援魔法だったと分かった時もこうしてたっけ。
今度は支援魔法を使うために動いてこうなってる。
支援魔法は僕に不幸をくれる魔法なのかな?
僕は俯いて深い深い溜息をつく。
僕って冒険者に向いてないのかな?
クロウさんは才能があるかもって言ってたけど、今現状ではそんなこと考えられない。
僕は、どうしたらいいのかな?
と、そんな時、僕に近づいてくる足音が耳に入った。
「おーい、そこの人」
そんな声が聞こえる。どうせ僕のことじゃないんだろ。
「おーい、聞こえてるよな?」
僕は顔を上げない。
「おい、絶対聞こえてるよな。そこの赤髪!」
赤髪って僕のこと? 確かに僕の髪の毛は赤いけど。僕は顔を上げて周りを見回す。
周りには赤髪の人は誰もいなかった。
「お、やっと顔上げた。無視すんなよ、寂しいじゃねぇか」
目の前には男性が立っていた。
茶髪の短髪に、少しつり上がった目。見た目はかっこいいと思わせるようなものだった。
背中には大きな剣が装備されている。
「いやー、さっきから変だと思ってたけどどうしたんだ? しんどいのか?」
彼はなぜか僕のことを心配してくれている。
この人とは当たり前だが初対面だ。本当になんなんだろうか?
「大丈夫です。それより僕に何か用ですか?」
「おお、そうだった。なあお前さ、パーティ探してるんだろ? さっきから見てたぜ。いろんな冒険者に断られてるのを」
「なんですか、馬鹿にしに来たんですか!?」
「いやいやそんなつもりはないぞ。寧ろ逆だ。俺をパーティに入れてくれないか?」
……今のは空耳だろうか。
今確かに「パーティに入れてくれないか」と聞こえたんだけど、間違いじゃないよね。
いやでも、僕みたいなちんちくりんにそんなことがあるわけないよな。
「あはは、まさかご冗談を。僕みたいなノロマでちんちくりんで貧弱だ弱くて憧れてばかりの最底辺冒険者と一緒にパーティなんか」
「あれ!? 俺なんか地雷踏んだ!? いや、俺は本当にパーティに入れて欲しいんだが」
「……本当ですか?」
「男に二言はねぇ……ってうお!?」
「ありがとうございます!」
僕はその言葉を聞いた瞬間、心から何か込み上げてくるものを抑えきれず、わけもわからず目の前の人に抱きついてしまう。
その数秒後、我に返った僕は羞恥心で顔が真っ赤になってることが分かった。
やってしまった……これで仲間になってくれないとか言われたらどうしよう。
「す、すいません!」
「お、おう。いきなりで驚いたが、そんなに嬉しかったのか?」
「はい、もうそれはそれは嬉しかったです。さっきまで全部断られていたので」
「そうか。だけど、今の現状はその逆だ。俺をパーティに入れてくれるか?」
どうやら僕の心配は杞憂に終わったみたいだ。
答えなんてもう決まってる。
「もちろんです! これからよろしくお願いします! 僕の名前はキラです」
「俺の名前はラギアスだ」
「よろしくお願いします! ラギアスさん!」
僕は深く頭を下げる。
こんな僕と仲間になってくれたことに感謝の意を込めながら。
「こちらこそよろしくな、キラ」
ラギアスさんは手を前に出して来る。
僕はその手を強く握り返す。自然と頬が緩むのが分かった。
嬉しい。あぁ、これが仲間か。
「もうこれからは仲間だ。遠慮はいらねぇからな」
「はい、こちらもご指摘がありましたら言ってください」
「なら、その喋り方やめてくれないか。タメ口でいい。てかそっちの方がいい」
ラギアスさんは早速指摘をしてくれる。
……そうか、ラギアスさんとはこれから共に冒険する仲間なんだ。
「別に無理にとは言わない。もし嫌だったら変えなくてもいいが?」
わずかに返答に間があったせいか、少し心配するような口調で言う。
でも、僕は首を横に振る。そして、一呼吸を置いて僕は口を開いた。
「……ううん、大丈夫だよラギアス。僕たちもう仲間だもんね!」
***
あれから数十分程雑談をしていると、話は魔法へと変わっていった。
「ところで、ラギアスはどんな魔法が使えるの?」
「俺の使える魔法は"強化魔法"と"火属性魔法"だ」
強化魔法は身体を強化する魔法で、火属性魔法は言葉の通り火の魔法が使える。
いいなぁ、戦闘系の魔法が使えて羨ましい……。
でも、僕の魔法だって凄い、はずだ。
「まあ、火属性魔法はあんまし得意じゃないがな。で、キラは何が使えるんだ?」
「僕は支援魔法だよ」
「支援魔法? 他には」
「他は使えないよ。支援魔法しか使えない」
「そ、そうか……。なんか、その、悪い」
あれ? 反応が薄いというより、申し訳なさそうにしてる!?
いや、よく考えたらそうだ。僕も初めに支援魔法って聞いた時は落ち込んでたっけ。
じゃあ、今のラギアスの反応が正しいのかな。そうだとしたらクロウさんは変ってことに……そ、そんなことないよね!
「別にいいよ。それに支援魔法は強いから」
「そうなのか!?」
「うん、そうだよ」
使ったことないけどね!
クロウさんがあれだけ言ってくれたんだきっと強いに決まってる。そう信じてるよ、クロウさん!
「この魔法一つで勝てるか負けるかが決まるくらい凄い魔法だよ」
適当にクロウさんの言葉を拝借する。
まぁこんなこと言ってても、使ったことないんだけどね!
「そんなに凄い魔法なのか!? なら見てみたいな。よしキラ、今から魔物狩りに行こうぜ! 早くその支援魔法とやらを見てみたいからな」
そう言ってラギアスは歩き出した。
なんか変に期待させちゃってるな。まあ嘘をついた僕が悪いんだけど。
でもこれでやっと支援魔法を使える。
僕はようやく、魔法が使える冒険者になれるんだ!
真の冒険者になるための一歩を踏み出して、ラギアスの背中を追った。