約束
「お疲れ様でした!」
そんな声の後、沢山の冒険者が歓喜の声を上げる。
ここは、シーラツのギルドの中。冒険者が沢山いて少し狭苦しい感じがする。熱気がすごい、暑い。
大量発生が終わった後、しばらく経ってから打ち上げなるものが行われるとのことだったので、僕等三人はそれに参加した。ちなみに、ここで出ている食事や飲み物は全てギルド持ちだ。だから来たっていうのもある。
さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えないほどに皆は騒ぎ立てている。そこに一切の線はなく、様々な冒険者が入り混じり、誰もが勝利を喜んでいる。僕もその一人であり、いろんな冒険者とワイワイしている。
「俺は見たぜ。一人でリザードマンと戦ってたところをよ。ちっこいがよくやった!」
「ありがとうございます……」
最後の一言が余計だよ! 貴方よりちっこいけど関係ないじゃん。ほら、あっち見てよ。僕と同じくらいちっこい奴がいるよ。ん? 近寄ってくる、というか見たことある。
「何見てんだ!」
やっぱりこいつか。
「お疲れ様」
一応社交辞令的に僕は挨拶だけしておく。まぁ返ってくることはないんだろうけどね。
「俺は疲れてねぇ!」
「そう言う意味じゃないよ!?」
これ会話になるのかな? やだなぁ相手するの。
「で、お前はレベルはどれだけ上がったんだ?」
「僕の? えーと、この頃ギルドカード見てなかったから大量発生中の上がり方はよく分かんないけど。とりあえず今の僕のレベルは31だよ」
ちなみにリオネは32でラギアスは34。結構ラギアスが抜け始めた。
それを聞いたケーヴィスは勝ち誇ったような顔をして僕に威勢のいい声で言う。
「俺は33レベルだ!」
「……ああ、そうなのね」
「反応薄いなっ! もっとねぇのかよ!」
なんでこんなに元気なんだ。僕は結構ヘロヘロなのに。
それから僕はケーヴィスの戦いの内容を散々聞かされた。だから僕も仕返しに話した。罵倒、批判、批評が飛んでくると思ったけど、案外そういったことについては真面目らしく、スライムを使った足止めのことは褒めてくれた。少し上から目線な感じが癪だったけど、僕はそれを言われて少し嬉しかった。
それから微妙に話が飛んだり、変に自慢が入ったりしながら会話を交わした。その時のケーヴィスは笑っていて、すごく楽しそうだった。
「楽しそうだね」
僕は思ったことを口にする。
「お前は楽しくないのかよ?」
ケーヴィスは笑いながら僕に問う。
周りを見ると沢山の人がいる。先の戦いを語る者、肩を組み合い楽しく騒ぐ者、気持ち良さそうな表情で酔っ払っている者、様々だ。
「楽しいよ」
僕は笑ってみせた。
楽しくないわけがない。
だってこれが冒険者なのだから。
僕の憧れた職業である『冒険者』なのだから。
「って、いないし……」
僕はケーヴィスがいた方を見ると、もうそこにケーヴィスはいなかった。本当に勝手なやつだ。
それからもお祭り騒ぎは続き、宴会は夜中まで続いた。
***
気がついたら目の前に宿の天井が見えた。
体を起こし周りを見るとリオネとラギアスが寝ていた。
どうやら僕等は終わった後、宿に帰ってきていたらしい。正直、何にも覚えていない。
まぁ別にいっか、楽しかったのだけは覚えてるし。
机の上に袋が置いてある。僕は立ち上がりそれを開けて見る。中には金貨が入っていた。
おそらく大量発生の報酬だ。今回の大量発生は見過ごしていたら街が壊滅してしまう。だけど、冒険者にとったら最高のレベル上げのイベントだから集まってきて、戦うわけだ。いわば戦うのは冒険者の勝手だ。
だけど、一応はギルドが発注するクエストっていう肩書きがあったりする。「命をかけて街を守ってくれるのだから報酬は必要だ」と言うことらしい。
僕としてはレベルが上がって万々歳だけど、貰えるものは貰っておこう……と、ラギアスが言ったのを思い出した。
「起きてたのかキラ」
「あ、リオネおはよう」
目を擦りながら眠たそうに起き上がるリオネ。
「おお、皆さんおはよう……」
「ラギアスもおはよう」
寝転びながら挨拶をするラギアス。こちらは完全に寝ぼけているようだ。
ラギアスは立ち上がり思いっきり伸びた。
「今日は二度寝しなくていいの?」
「ああ今日はいいわ」
「そっか」
それから少しした後、宿の朝食を食べまた自室に戻ってきた。
「今日帰る? それとも明日帰る?」
僕は尋ねると、ラギアスが答える。
「ここにいても特にやることないし帰ろうぜ。ゆっくりしてぇ」
「同感だ」
「それじゃあ次の船で帰ろうか」
といっても少し時間が開くので、バンリースさんの店に尋ねることを提案すると、二人は承諾してくれた。
帰る準備を終え、宿を出た。
街は大量発生が始まる前と後でそこまで変わってない。冒険者が少なくなったというところぐらいだろう。
僕等はここ数日である程度歩き慣れた道を行き、バンリースさんの店の前まで来た。
しかし、扉は開かず中に人がいる様子はなかった。そして扉には文字が書かれた板が掛かっていた。
『店仕舞いをしました。縁があったらワシは、絶対に忘れないので、また会いましょう。バンリース』
書いてある文章を読んで僕は頬が緩んでしまった。
「お礼くらい言いたかったな」
「しょうがない。あれは生粋の商業人だ。またどっかで会うだろ」
「また会いましょう、って書いてあるからな」
そのリオネの言葉には妙に説得力を感じてしまった。僅かな付き合いでそう思わせてくるほどにバンリースさんという人がどういう人なのか印象に残ったんだろう。
僕等は空き家の前で立ち尽くすわけにもいかず、港に向かうことにした。出港はまだだけど船には乗せてもらえるだろう。その予想は的中していた。
船員が忙しく物を運んでいる中、僕等は船に乗せてもらった。
特にやることもないので僕はどこまでも続いていきそうな水平線を眺めながらここ数日のことを思い出す。
なんか今回戦ってばっかりだったな。ま、そのおかげでレベルも順調にに上がったことだし良しとしてもいいかな。一回本気で命が危なかったけど。まぁ、助かったからいっか!
そうやって気楽に考えていると、後ろからケーヴィスの声が聞こえる。
「赤野郎、何してんだ」
「別に、何もしてないよ。ていうか名前で呼んでほしんだけど」
「俺お前の名前知んねえし」
「マーシャ達から聞いてないの?」
「聞くわけねぇだろうが!」
「何でそこで怒るのさ!?」
どうもケーヴィスと話すと会話の調子が狂ってしまう。大体ケーヴィスが僕に対して何かしら言ってくるのが原因なんだけど。
「まあいいや。僕の名前はキラ。分かった?」
「分かったぜ」
その後直ぐ、ケーヴィスは僕から距離を開け、
「まぁ、俺より弱い奴の名前なんて呼びたかねぇけどな!」
そう言って直ぐに後ろを向き、船内へ姿を消した。え? 何最後の言葉。
「どうしてそんなに競い合いたがるのかな」
「多分、嬉しいからだよぉ」
マーシャが入れ替わりで現れる。いつものゆったりとした口調は健在だ。
「ケーヴィスねぇ、同年代の友達がいないの」
「同年代……」
見た目だけで言ったら、僕とケーヴィスの年齢は大差がない、もしくは同じくらいだ。よくよく考えれば僕も同年代の冒険者の知り合いはいない。ケーヴィスが初めてだ。
「あんな性格だからぁ、本当は競い合いたくて仕方がないんだろうけどぉ」
「その相手がいない。でもそれならそれで、他の冒険者と競い合ったらいいのに」
「でもぉ、ケーヴィスはそれは嫌みたい」
そこらへんは個人の感情でもあるから僕が口出しすることはできない。
マーシャは改めて僕の方をしっかりと見た。
「だから、ケーヴィスとは仲良くしてくださぃ」
優しく微笑むマーシャ。
「次いつ会うかわかりませんよ」
「それはぁ大丈夫です。直ぐに会いますから」
「どうしてわかるんですか?」
「分かるからですぅ。それではぁ。約束ですよ」
最後の言葉だけ今までの口調とは違い力強かった。僕はそれに返事はしなかったが、その約束は胸に刻んだ。ただ、ケーヴィスと仲良くか。想像がつかないな、仲良くしているところが。
その後、船はシーラツを出発。快調に進み、予定通りの時間にミナミに着いた。
そのまま馬車に乗った。街道を通ってはいるものの揺れは強かった。行きははしゃいでたからよく覚えてないけど、意外にゆっくりだった。
無事にコートリアスに到着した。
見慣れた風景を見て安心する。ようやく帰ってきたんだなと。
「明日からどうする?」
「うーんどうしようか」
「なぁ、一週間ぐらい空けねえ。流石に休もうぜ」
「そうだね、そのくらい空けてもいっか」
「なら、一週間後どうするよ?」
「そこらへんは念話機で後から決めよ」
「そうだな。では、私はこっちだから」
「じゃあここで別れだな」
「うん、お疲れー」
そして皆帰路に就いた。
僕は途中道を外れてとある場所に向かった。森の中、少し開けた場所に立つ大樹。
ここは、父さんの墓だ。
墓なんて言うものじゃないけど、遺品は埋めてある。
僕は大樹の前に座り、シーラツでの出来事を話す。
「僕、近づいてるかな?」
見守っていてね。僕の進む道を。
三章(?)がようやく終わりました。
次の投稿は結構遅れると思います。申し訳ございません。




