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中節 過去

 どこかの研究所で鏡に映る幼きユウは二人組の男女と楽しく話をする。それはユウの母親と父親である。

 両親が科学技術者だった。

 未来に向けた新兵器開発に奮闘する両親を傍らで見つめつつユウはいつも笑顔を向けていた。

 そこで、ありとあらゆる機械に触れてユウは機械工学や科学技術を学んだ。

 だが、そんな幸せは長く続かなかった。突如として切り替わる光景は火の海だ。

 研究所内に広がる火の手。ユウは泣きながら「お母さん! お父さん!」と呼ぶ。

 誰も返事をしない。ユウの手を握って『お母さん』と『お父さん』を探してくれるのは『姉』である真紀まき。ユウと容姿が似通った顔だちながらも女性らしい体つきや容姿をしっかりとしてるわずか11歳にして大人と言う風格を出す彼女の手に引かれて父と母の仕事場の部屋に入った。大火が包む部屋の中で瓦礫の下敷きになった父と母を見つける。

 ユウは泣き叫びながら両親に近づいた。

 両親は生き悶えながらに姉にユウを連れて逃げるように伝える。どこからか、駆動音のようなものと獣のうめき声が聞こえてくる。

 ユウは叫び声をあげて姉の手に引かれて部屋を飛び出した。

 そのまま、また景色は変わる。

 ユウとユウの姉である真紀が預けられた『数馬すうま孤児院』。

 良き孤児院の院長先生に恵まれた生活をめぐる。そこで、知り合った見嶋茜という新しい姉との楽しい生活。

 そして、自分らの後にやって来た新しい孤児のレナ。

 レナが加わり一層楽しい生活が続いた。

 急に天候は晴れから雨に変った。

 ユウはその光景を思い出して胸が締め付けられる。

 30歳すぎくらいの優しい頬笑みを常に浮かべてるはずの女性の院長先生はその時ばかりは悲しい顔を浮かべて食卓のみんなに告げたのは孤児院の廃止。

 大本からの借金を抱え過ぎてしまいみんなを早急に引き取ってもらう手筈は整えたという。

 唐突な別れだった。

 全員が絶望を浮かべてバラバラになる仲間たち。

 ユウも唯一の肉親である姉と離れ離れになった。

 ユウは里親に引き取られる前に院を飛びだして姿をくらました。

 だが、一月後に警察の手に見つかってしまう。

 そこで、姉のことを知らされる。


『ユウくん、落ち着いて聞くんだよ。お姉さんは1か月前にAIの暴走事故で死亡したんだよ。もう、この世にはいないんだ。だから、君を今引き取ってくれる孤児院を探して――』


 ユウは発狂をして頭を抱えて視界が真っ暗闇に落ちていく。


 ******


「うそだぁああ!」


 飛び起きた体にはじっとりとした汗を体中から発汗させながら手汗握る手を見て夢と言うことを実感した。

 ずいぶんと懐かしい夢を見ていたと物思いにふけって目じりに浮かんだ涙をぬぐう。

 いつから寝ていたのだったかと考えこんで空を見上げた。


「また、午後の授業をサボちまったか」


 夕刻を知らせるように空が青を塗りつぶし赤みがかったようなオレンジ色をしていた。

 昼休みから昼食を屋上で取ってそのまま眠っていた。

 そのままに爆睡した結果がこれだった。


「しまったな。まぁた、出席単位が危ぶまれるか」


 苦労して入学した意味もなくなってきそうだった。

 だが、単位補填のための講義を受ければ問題はなく済む。

 基本的に学生はその講義を受けたがらない。なぜならば、命を散らす危険性があるからだった。

 だけど、将来はその手の職につくのだからとおもわなくもないが学生のころはどうしても度胸が足りないのが常なのか。

 その講義は例のロイヤル棟のお嬢様もしくは御曹司のお坊ちゃまを登下校に護衛するということだった。

 この講義を受け行うにしてもいろいろと書類や先方の許可がいるためになかなかに講義を承認されるまでにも時間が必要である。


「星宮お嬢様の護衛は残り4日か。新しいお嬢様の護衛をするか星宮様の護衛を継続するか、か。考えものだな。どちらにしても継続したほうがいいよな」

「なにがいいの?」

「うぉ!」


 屋上の屋根の上で寝そべってると屋根の梯子を伝いレナが顔をのぞかせていた。

 レナは軽い身のこなしで屋根の上に上がると当たり前のようにユウの膝の上に座る。


「おい」

「落ち着く」

「落ち着くじゃない! 暑苦しい」

「今は春だよ? ちょっと肌寒いよ? だからくっつく」

「肌寒くってもくっつくな!」


 強引に引っぺがしてユウはレナから距離を取って町の全景を眺めた。

 この町に来たのも目的のため。

 そう改めて思い考えるのは夢の影響からか。


「また、眠ってたの?」

「え?」

「午後の授業いなかったから」

「ああ。寝ていた。まぁ、補填授業を受けるからいいさ」

「好きだね、補填授業」

「好きってわけじゃない。でも、確実にそっちの方が楽できる」

「私にはわからない。あんなの苦労の塊だよ。先方との約束や書類を終えて命を張った行いをするなんて」

「あのなー、俺らは将来はそういう系統の職につくんだぞ」

「でも、今その命を散らしたら将来なんてないよ」


 もっともな意見にユウはうなった。


「ユウは昔から変わらないね」

「なにが?」

「ちょっと普通とは抜けてるところ」

「はぁ? それはレナだろ」

「私は普通だよ。でも、抜けてるユウが私は好き。だから、結婚しよ」

「お友達で」

「私めげない」


 いつものやり取りを交わしながらユウは梯子を使わずに屋根から飛び降りて下に着地した。

 屋上の出入り口へ向かい歩いていく。


「待って」


 レナは梯子を使いおりてくる。

 その時に突然芽吹いた突風でスカートがめくれ上がった。

 黒レースの下着が見えておもわず顔を赤らめてそっぽを向く。


「くふふっ、神は私に味方した。ユウ興奮した?」

「お前はもう少し恥じらえよ!」

「ユウになら見られてもいいよ」

「うぐっ」


 素で真面目なことを言われてしまい、はずがしがったユウは自分が馬鹿みたいに思えてしまいひどく気疲れした。


「レナ、お前が探しに来るのは相変わらずだが何か理由もあってきただろ?」

「うん。例の警察関係者のお嬢様がいないか調べてみたら一人ヒットしたよ」


 レナが屋根の上から降り立って手元のデバイスを操作する。

 すぐにユウの手元のデバイスが振動を起こす。

 ユウは『ニューワーカー』を起動してレナから送られてきたデータ添付メールを開いた。


崎守雪菜さきもりゆきな、崎守財閥令嬢であり警視総監の娘ぇ!? そういうことか。どうりで事件現場の写真や監視カメラ映像を入手していたわけだ。つか、すげぇサラブレットじゃないか」

「彼女凄く有名。この学校でもかなり評判が高くて現役の女子学生捜査官として知られてる」

「つまり、俺の敵対者だな」

「うん、だからユウは気をつけて。彼女はあなたを狙ってる」

「だよな。そういえば、崎守財閥って? 聞いたこともないんだけどさ」

「それなら、ネットで検索」


 ユウは言われるままにネットで『崎守財閥』と検索をかけたところうん十万とヒット件数が出てきた。

 現代におけるシステムエンジニアの出資者、AI研究の出資者、経済界を牛耳る財閥の一つなどなどと大まかに出てくる言葉。


「これって世界を支える大物じゃないか」

「そう。だから、ユウの敵。私の敵でもある」

「放課後、ロイヤル棟の屋上に来いって言われてるが行かないほうがよさそうだよな」

「うん、それがいいよ。だからユウは私とこのままホテルへ――」

「だからといって約束を反故にすれば素性がネットで拡散されかねないから行くか」


 レナの言葉に聞く耳持たず彼女の脅迫文から考えてそう結論をつける。


「――なら、私も行く」

「は?」


 突拍子もなく唐突に言われてユウは目を瞬いた。


「しょ、正気か?」


 一緒に行くということはつまりは警察関係者である崎守雪菜に『黒衣者』の関係者であるという疑いを持たせる結果を生むであろう要因が起るのは必然。

 レナはそれを考えて同行をすると言ってるのであるのならば正気ではない。

 彼女の考えとしてはユウも気使いからくることだとわかっていてもできればレナには同行はしないでほしいというのが望みだった。 


「別に同行者はなしとは先方も言ってないはず。だからユウの嫁として一緒に行く」

「嫁じゃないよな? 同行するのはよせ。俺と共犯だって疑われでもしたら……」

「行こうかユウ」


 まったく、ユウの言葉を聞かずに即行動を起こした彼女にユウは何もそれ以上に言及することはせずに後をついて行った。

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