過去の真実 後編
レナは突然として断れた通信に困惑した。
今までユウの状況安否が知れるように通信端末の遠隔起動をしていたはずだがジャミングが入ったかのように通信切断がされた。
ノートパソコン上ではユウのGPS反応は起動中状態であるが生死は不明だった。
さらには音が切れる直前に聞こえてきた声。
それはレナも昔懐かしい知人の声だった。
「ウソ、どうして……」
愕然とした。
もしも、そうならばこの世には彼女はいない。
その知人である彼女はユウもレナも茜の関係性の強い人物で3人の育ての親。
「数馬孤児院」という場所の先生であった。
3人を支えてくれた良き教師。
でも、個人の経営が悪くなり生徒全員を一生懸命里親のもとへどうにか送り出すように奮闘してくれた。
どれもが名家や裕福で優しい家庭だった。それが彼女の手腕と言える。
だけど、不穏なうわさもあったことをレナは後から知っていた。
実は多額の借金があって生徒たちには借金の取引先が決めた里親のもとに引き渡したのだという話。
でも、その真実が本当かどうかは愛瑠家の養女となって数年たったレナでも知らない。
今の両親もただレナのことを何らかの紹介で知って引き取りを出たという。
「詳しく知らない過去の真実。どういうこと? 私やユウ、茜先輩以外の子たちのその後は確かに知らない。調べたけど情報少なかった。何がある?」
さっそく、ノートパソコンで過去の経歴を調べ始める。
『数馬孤児院』の情報はやはりかなり少ない。もう、存在さえしない場所の情報が残ってることなどない。
いろんなサイト経由しても数年前に廃止されたことなどと知ってることしか出てこない。
ここ最近も幾度か調べて来たけど結果は同じだった。
しかし、木藤の調査を始めてる時ある一文が目にとまった。
「え!?」
『数馬孤児院』投資という明細が出てきた。
投資ということは孤児院の管理運営の費用を賄ってくれたいうことだろう。
ただの偶然か。
「っ!」
信じられなくて声が出なくなる。
調査を始める。木藤と数馬この二つの歴史を洗うとわかったことが出てきた。
数馬とは元は『木藤』の分家の家筋と言う表記。
「じゃあ、先生は木藤家の人間?」
キーボードを叩いていた手が止まる。
――ドアチャイムが鳴る。
おもわず、硬直していた体に音と言う衝撃が身動きを取らせた。
慌てて玄関にまで走り込んでいく。
「うゎ! 何よ。突然……ってどうしたのよ?」
崎守雪菜がレナの顔が青ざめていたことに気付いた。
「なにかあったの?」
「……ユウと連絡とれない。それに……私たちずっと……木藤の掌の上だった……」
「はい? どういうことよ」
崎守雪菜はとりあえず部屋に上がった。
そのままレナが見ていただろうノートパソコンを勝手に覗き込んでみた。
『数馬孤児院』。当初、ユウとレナの過去を調べった時に彼らの出身であった場所だったと記憶が掘り起こされた。
「これって、あなたたちが暮らしていた場所だったわよね? ここがどうかしたの?」
「さっき、ユウとの通信が断絶される直前に私たちを世話してくれた先生の声が聞こえた。あまり良い会話じゃなかった」
「いい会話じゃない? 録音データはある?」
「こっち」
レナはパソコンを操作し通信が断絶される直前のユウと先生の会話を利かせる。
しばらくして、レナはその時にあった反応は『ドローン』であったと伝えると雪菜の表情はさすがに驚きへと変わる。
「これって、憶測なんだけどつまりは木藤は昔から研究のために子供を集めていたって考えられるんじゃない? だって、レナさんとユウさんの同期の子たちは全員拉致されてるわけじゃない」
「うん」
「くっ! なんてやつ!」
雪菜は机を強く叩いた。
これが事実であればとんでもない非道な行いであろう。
さらに、こんな男が街を牛耳ってるというのはなんとも皮肉な話になる。
そんな真相は雪菜の怒りを煮え立たせていく。
「待って。じゃあ、もしかしたら私の妹も元から……」
「可能性はある。なにしろ、ユウが話していた黒木研究の内容がそうであるのならば今までの行方不明者全員被験体にされていたって考えてもおかしくない」
「っ!? 木藤!」
雪菜は憎しみのある相手の名を叫んだ。
レナも気持ちがわからないでもなくなにも言うことはなかった。
「レナ、通信が戻ったらすぐに彼に伝えて」
「伝える何を?」
「銃器の準備は整えたわ。外に車があるの。そこに銃器は全部整ってる。あとは彼がどうにか改造してくれるだけで市民を守る武装警察は出来上がる」
雪菜は立ちあがると玄関に向かって行く。
「どこいくの?」
「街を救いに行くのよ。警察としての務めを果たすわ」
「一人では無茶。『妖獣』とのまともな戦闘経験のないあなたはすぐに死ぬ」
「私は捜査官よ。危険な訓練だって受けてきた。それに彼がくれた拳銃があれば『妖獣』は倒せるんでしょ?」
「そんな安易な考えはダメ。死ぬ」
「安易な考えなんかじゃないわよ。私は行くわ。さっきの件任せたから。それと、机の上には立つ用のリスト置いてるわ」
レナは言われて気付いた。机の上に一枚のメモ用紙があった。
住所が複数書いてある。
「これ……もういない」
そこにはもう彼女の姿はなかった。
外に出て行った。
今から追いかけてもどうぜ追い返されるだけだろうと考える。
「私は行っても足手まとい。なら、出来ることをここでする」
レナは木藤の位置を探す。
いくつかのドローンを動かしてレナもドローンへの迎撃を行っている。
そして、何度目かの通信をユウに試した時にメールへの送信ができるようになった。
急いでさっきの情報を入れる。
「死なないでユウ」
さいぎにエンターキーを押して送信する。
愛する彼の生還を願いながらレナもドローン操作に移行した。
******
「ぐぁああああ!」
瓦礫の山へと吹き飛ばされユウは血反吐を吐く。
身体のあちこちが悲鳴をあげてこれ以上の戦闘継続は不可能だと訴えかけていた。
それでも、ユウは止まれない。
ユウは数分前に来たレナからのメッセージを読んでだいたいの事情を察した。
目の前の彼女の目を覚まさせたい。
「先生! そんな身体で生きていたって楽しいことはない! それは紛いものの体です! AIがあなたの自我を操作してるにすぎない! いずれ、その肉体が崩壊を始めた時はあなたも『妖獣』の中に意識を移されるんですよ!」
「イッテルコトガフメイ。オカルトハホウシャセンニヨリウミダサレタソンザイ。ニンゲンデナイワタシガオカルトニナルコトハナイ。」
「何を言うんですか!」
もう一度地を蹴って、脳天めがけて飛び蹴りをかます。
蹴りが当たる直前にドローンがその足を掴みあげて地面に叩きつけた。
一瞬にして意識が消えかけた。
だけど、どうにか強い精神力をもって意識を持ちなおし身体を反転させて足を掴んだドローンに向けて掴まれていない左足で蹴りを与える。
ひびが入った。
「止め!」
さらなる追撃を入れようとした時に足は解放されてユウは地面に墜落する。
強い衝撃は背中から肺に伝わる。
苦しく呻きながら上を見上げるとドローンの足が迫っていた。
身体を転がし避けて間合いを取った。
「センセイトイッショノソンザイニナリマショウ。ソウスレバアナタモシンセカイデイキラレマス」
「新世界?」
「キトウサマガエガクセカイ」
「そんなの悲惨な世界でしかないでしょう! この街の現状がそう語ってる!」
「コノマチハイマカラヘイワニナル。ダレモシナナイセカイ。ワタシヲイキカエラセテクレタシャチョウ」
「その身体は生き返らせたとは言わない! あなたは利用されたにすぎないんですよ! 孤児院のことも知ってます! あなたはあいつに借金を肩代わりしてもらったんですよね?」
何度目かの訴えであるが彼女は聞かない。
ドローンから発射されたのは追撃ミサイル。
「ちっ!」
ミサイルの攻撃をトレンチコートで身をくるんで防ぐ。
「コノセカイハイズレホウシャセンニヨッテシメツスル。ダカラキカイノカラダデイルホウガアンゼンダトワカッテホシイデス」
それが頑なにユウの訴えを聞かない彼女の言い分。
木藤によって彼女の中ではこの世界は放射線により隔離区のような死滅世界が訪れ始めているとなっている。そうした世界を生き残るために彼女の中では機械の身体であることを優先すべきだという常識概念が植え付けられている。
さらには、生徒を助けるために彼女は今まで機械になってから真っ先に拉致したことを先ほど告げていた。
おおよそ、このような行動をとってしまったのは彼女の意識と同期しているAIのコントロールによるところも大きいはずである。
「木藤! 絶対にゆるさねぇ! 先生、聞きます! 借金の肩代わりをした代わりにあなたは孤児院の生徒をcybarz社とかかわりある家に送ったのは何でですか?」
「ソレハケイヤクダッタ。オカゲデセイトハミナシアワセニナッタ」
「幸せになった。たしかにそうです。だけど、そのあとは木藤によって拉致されたのをご存じなんですか!?」
「ラチシタノハワタシ」
「え」
攻撃していたはずの手が止まる。
フラスコ型の頭部に当てようとした拳がドローンに掴まれる。
「しまった!?」
「キトウシャチョウハエイエンニイキラレルセカイノタメニコドモタチヲイチジテキニベツノカラダヘウツスコトデアンゼンダトハイリョシテクレタ。コノセカイガホウシャセンニヨッテホロビルマエノアンゼンタイサクダト」
「何を言ってんだよ、先生。そんなのそんなの身勝手な押し付けだろ」
ユウは泣き崩れる。
もはや、声は届くことはない。
彼女はいつ、このような肉体にされたのかはわからないけれども、今の彼女はもう昔の彼女とは違うといえた。
さらに、彼女は生徒を幸せにしてやりたいという心を操られてしまい、生徒を拉致した。つまり、殺めたという認識さえ理解していないのだ。
「先生、今のあなたはもう見ていられない。すぐに、破壊してあげます」
ユウは腰から新たな銃を取り出した。
それは白銀のガバメント。
そして、さらにもう一丁は赤いガバメントである。
二兆の拳銃の引き金を引き絞り『先生の意識があるドローン』の手足にぶち当たる。それらは爆発してドローンが転倒した。
「ウ……ウゴケケケ……ナナナ……イ」
「先生、さようなら」
脳が収容されたカプセルへ銃弾を撃ち込んだ。
だが――
「なにっ!?」
カプセルに打ち込まれるはずの弾丸は虚空で制動した。
銃弾はその場に落ちた。
「アナタハナニモシラナイ。カコワタシガオコナッテキタコト」
「先生?」
「ワタシハセイトヲミステタ。ミズカラノホシンノタメニ。タッタ3ニンダケハスコシノアラガイデイワレタトオリノバショニオクラナカッタ」
さきほどとは明らかに違う様子に語る。
まるで、懺悔の言葉だ。
「ワタシハアナタガオモウヨウナセンセイデハナイ。ダカラワタシヲコロシテ。ユウチャンナラソレガデキルハズデスヨネ、アナタノオネエサンモイッテイタ」
「先生、あなた意識が――」
そう気づいた時に、三度先生らしからぬ言動に変わる。
機械のような音声が入り混じる。
「アナタモスクイタイ」
「っ!」
手足のないドローンは動きだしても何もできないと思った途端にユウの身体は何か見えざる手にでも殴られたように後方へ吹き飛ばされた。
肺を圧迫された痛みにせき込み、腹を抑える。
血が流れ赤く染まっている。
「くそっ」
「イマスクイマス」
「先生、あなたの願いを聞き届けます」
ゆっくりとユウは立ちあがると拳銃同士を重ね合わせた。
「リロード」
ガバメント同士が重なり合うとそれらは振動し音波を発生させ始めた――




