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紫藤正宗の襲撃と屋敷の所有者の正体

 大きなクマ爪がユウの目じりを切り裂き出血により、眼の中に血が入り込み片目をつぶらざるえない状態に追い込まれる。

 視界の悪さから足をもつれさせるとクマのような『妖獣』はその巨体を震わせて猛突進をする。

 迫りくる巨体へ向けて幾度と銃弾を連射したが『妖獣』の体毛は鉄のように硬く銃弾を弾く。『妖獣』対策用に作ったはずの銃弾を無効化するほどの硬質さに圧巻と言わざるえない。

 ユウは悔しそうに銃を放り捨てて横へ飛んだ。

 巨体は鋼鉄のパネルをへこませてしばらく壁際にう持ったまま微動だにしない。その巨体が静止した。


「死んだのか?」


 おそるおそると近づいて懐に手を忍ばせた。

 次瞬、巨体が動き腕が振りかぶる。

 ユウは条件反射でバックステップを踏んでいた。

 それでも、クマ爪がユウの胸元の防弾防刃スーツをたやすくきり裂き肌を露出させた。

 紙一重で危なく肌を裂かれる寸前だった。


「クソ熊め」

「グゴォオオオオ!」


 耳障りな遠吠えがまたしても部屋中に響く。

 ユウは遠吠えの際に開けた『妖獣』の口腔内に向けてナイフを投擲する。

 『妖獣』は遠吠えをやめて悶え苦しみだして口の中を掻きだすように手を動かす。

 その隙にユウは懐へ滑り込んで拳を二発叩きこんだ。硬さをある程度読みとるための行動だ。


「んだよ、この硬さっ!」


 あまりの硬さに嘆いた。

 ――だからといってあきらめはできない。

 この場から脱出するにはこの怪物を殺す以外に方法はない。

 ユウは懐に手を伸ばす。

 手元にある残りの武器はワイヤーである。


「この武器は使いどころが難しいからあまり使いたくはなかったんだけどな」


 腕にぐるぐると巻いていく伸縮自在性のあるワイヤー。

 『妖獣』が喀血を初め出した。


「今っ――」

「なにが今なのでしょう?」


 飛び出そうとした足が途端に止まる。

 今、聞こえるはずのない声が聞こえた。

 それは一体どこからだと目線を回して探す。


「紫藤! どこにいる! てめぇは殺したはずだ!」

「クハハ、この私を殺せる者はいませんよ。私は不死身。この身を滅ぼせる存在はいないんです」

「うそだろ……」


 声の出所を理解して動揺が走る。

 目の前にいる大柄な『妖獣』の口が動いていて発揮しと意識を感じ取れる瞳で見つめている。

 口元はほころんでいて、それは人間味を感じる。


「いやぁ、久しぶりに『妖獣』になって大変でしたよ。ずいぶんと、私の元肉体を細切れにしてくれちゃいましたねぇ」

「な、なんで『妖獣』の中に……いや、そもそも紫藤なのか?」

「ええ、私ですよ」

「じゃあ、今まで俺はお前と戦っていた?」

「ああ、それは違いますよ」

「は?」

「今まで戦っていたのはこの『妖獣』であって『私』ではありません」

「どういういみだ?」

「あなた、黒木の研究を御存じなのでしょう?それならどういうことかわかるんじゃないですか?」

「ま、まさかっ!?」


 黒木の研究の中には蘇生技術という以外にももう一個の可能性が見出されていた。

 いや、この研究には数多の可能性が生まれていた。それが決していいものではない。

 だから、そのことをユウの両親は計画を途中で放棄していた。

 でも、その研究の一つにあったのにある。死した魂を他者に移し出す技術。AIチップに死者の魂を入れて誰かの死体へインプットする技法。オカルトと科学の融合研究。そうすることでその死体は他人の意識をもって生き返る。さらには動物にもそれは応用が可能であり死者がその動物の意識を乗っ取り死者が生き返るという内容。

 つまり今回のは後者。

 この動物への乗っ取り。


「AIチップか。お前の本体はAIチップにあるんだな」

「ええ、正確には私とAIは共同した意識素体です。ですので、この妖獣の中には私たちの意識があるんですよね」

「チップがAIによって操作し自動操縦されて『妖獣』に装着したか。『妖獣』がお前の残骸を踏み荒らした時か」

「ご明察です」


 注意深く『妖獣』の身体を見てみれば背中の中央、体毛に隠れて機械物らしきものが見えた。元々体毛が銀色をしているために見えづらかったがよく見ればみつけられた。


「――俺を殺す気か? まぁ、どうせ殺す気なんだろうな。今まで言葉をしゃべらなかったのは『妖獣』の本能に任せていたのが理由か。その『妖獣』に行動を自由にさせれば自分らが手を下さずに楽に俺を殺せるもんな」

「ええ、先ほどまでそうさせていました。だけど、次の一手でこの『妖獣』は死ぬことが予期しましたので意識の主導権を一度私に移し替えさせてもらいました」

「予期? んだよ、それ。未来でも見えるってか」

「ええ、私はAIの一つになってるので戦闘を一つ一つデータとして読みとることができ相手の次の一手を計算して予想できるんです。さらに、相手がどんな武器を隠し持ってるのかも。――そう、あなたは今腕に巻いたワイヤーを用いてこの巨体をまず足封じ込めようとしていました」

「っ……」


 彼の指摘はまさにその通りの図星でユウは悔しげに奥歯を噛んだ。

 ユウは行き違いざまに『妖獣』の両足をワイヤーで固定して転倒させ首に巻き付けて切断を考えていた。


「つまり今回の戦闘において『妖獣』は滅ぶとあっては話になりません。そうなると、肉体がまた必要になるんです。そこで、考えました。私は次の肉体にあなたを選ぼうと思います。なので、その肉体をもらいましょうと思います」


 すると、『妖獣』が今まで猛獣のごとき行動しかしてこなかったはずの行動から一変して変った挙動を始めた。

 足元に転がったユウが放り捨てた銃を拾い上げそれを使い射ち放った。

 あまりの予想外の行動に回避行動が出遅れた。

 ユウは大腿部を撃ち抜かれて転倒する。

 その転倒したユウを容赦なく追い打ちをかけて『妖獣』の意識を乗っ取った紫藤正宗が『妖獣』の巨体を生かして踏みつけた。

 腹部に思い重圧がかかり肺とあばら骨が圧迫され肉体が悲鳴を上げた。次第にアバラの骨が軋みをあげて『ボキ』という音を立てた。ユウは痛哭した。

 血反吐吐き散らしながら必死で足を叩くが足はどかない。銃口が額に突き付けられる。


「さぁ、死になさい」

「っ……!」


 ――死の覚悟で目をつぶった。

 『バァン』。

 どこからか銃声が響いた。

 紫藤の握った拳銃からではなく、別の場所だ。

 ユウを踏みつけていたはずの『妖獣』の意識を乗っ取ている紫藤正宗が傾いた。

 ちょうど、『妖獣』の中でも皮膚の弱い部分だった目玉にヒットしたのだ。


「アガァアアアアアアア!」


 巨体が喚き散らしながらがむしゃらに暴れ出して部屋を壊さんばかりに壁を殴りつける。


「ユウさん!」

「さきもりさん……?」


 ユウが通ってきた入口につながる道を使ってやってきたのは崎守雪菜だった。

 銃弾を放ったのは彼女だった。

 ちょうど、部屋の扉が開いていたこともあったり『妖獣』がその通路を正面にして立っていたことで目玉に銃弾を当てられたということだったのだろう。

 それにしても良き腕だ。

 雪菜は見嶋茜を抱きかかえて、ユウのもとへ駆け寄った。


「さぁ、逃げましょう」

「に、にげる?」

「ええ、外では警察が待機しています。『妖獣』の大群が屋敷から出てきたせいで」

「なに?」


 驚きの真実を告げられる。

 外の現状がまさかそんな事態になっているとは。


「警察ではどうにも客を逃がすので精一杯、『妖獣』の対応を急ぐためにと屋敷の内部に乗り込んだり木藤に事情を問い詰めようと屋敷内部に入って探したはいいけど木藤は消息不明。それでも、あなたはみつけられた」

「木藤が消息不明? 数時間前に星宮の親子を連れてこの部屋から消えたぞ」

「星宮の親子? 消えた? まぁ、事情は後で聞くわ」

「待て、警察に連れてく気か?」

「ええ、だって一応警官よ私は」

「冗談じゃねぇ。俺は身元がばれたら計画に支障をきたす。お前だけで戻れ」

「何を言ってるのよ! あなたも一緒に行くわよ。警察に来てもらって事情を話してもらわなきゃ困るわ!」

「俺は身元がバレたくねぇんだよ!」


 ユウはそう言ってふらつきながらも彼女を突っぱねて木藤が消え去った出口側に歩いていこうとした矢先に怪物が向かってきていたのを見た。そう、紫藤正宗が乗り移ってる『妖獣』だ。


「っ!」

「来なさい! 押し問答をしてる暇はないわよ!」

「ちっ! なら、これだ!」


 ユウは入口の傍の壁をタッチする。そこはなにもない壁だったはずが『認証受諾』と承認音声が流れる。

 さらに、円形部屋の入口が床から現れた扉によってロックされ、『妖獣』を円形の部屋に閉じ込めた。

 

「なによこれ!」

「崎守さん、言ったよな。ここは元は黒木夫婦の研究所だったって」

「えっと、正確には黒木正一、黒木愛美の屋敷って話をしただけよ」

「ああ、そうだったな。ここは過去隔離区、いいや、研究区で研究所長をしていた黒木夫婦の研究所の自宅。その黒木夫婦には息子と娘がいた」


 崎守雪菜はユウが何を言おうとしてるのか言わずもがな気付いた。

 そういいながら彼は二冊の本を取り出した。


「その息子は今目の前にいる男だ。さぁ、行くぞ」


 ユウが元来た道をたどってふらついた足取りで彼女を先導して進んでいく。

 その後姿を見て雪菜は今、この瓦解し始めて敵に乗っ取られた思い入れのある場所を彼はどう見てるのだろうかと思った。

 とりあえず、雪菜はユウと一緒になって元来た道をたどって屋敷の地下から脱出を試みて走りだした。

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