奴隷人集会所
夜19時。
多くの気品のある男女がスーツやドレスを着こんで大きな城のような西洋風の屋敷の中に入っていく。
屋敷にはきらびやかな装飾が施され、敷地は東京ドーム一個分くらいの広さを誇っており数台のリムジンがひっきりなしに止まって中から気品のある男女が降りては屋敷の中へ入っていく。屋敷の出入り口の門前ではサングラスをかけた体格の良い大男が凄みのある威圧感を放ちながら周りを観測していた。
それは不審な人物がいないかのチェックと来場客のリストチェック。
現在、屋敷では『cybarz社』社長主催の『株式会社フィジアーク』の歓迎セレモニーを行っていた。
そのために敷地全域では警備が厳重であり多くの金持ちが来場する。
警備にあたるのは彼ら屋敷の雇われガードマンだけでなく、地元の警察らも対応していたが彼らは屋敷内部に入ることはできない。
代わりに彼らの警備は外のみであり屋敷の内部は雇われのガードマンに任されていた。
警察官の一人として、その役割に納得のいかない崎守雪菜は会場の屋敷を外から窺い見て舌打ちする。
「あきらかに何か違法行為を働く気満々じゃない」
「崎守捜査官! まずいですよ。その発言は」
部下の一人に雪菜はたしなめられてさらに苛立ち、そのストレスを部下に暴力でやつあたり。
部下は痛々しそうに顔をゆがめながらもどこか嬉しそうだった。
雪菜はちょっと引きながら部下へ「私は少しこの場を離れるから後は頼むわね」と告げる。
ちょうど一台のリムジンがやってきた。
それは『星宮家』の家紋をつけたリムジンだ。
降りてきたのは見目麗しいほどの美貌をもつ星宮家の令嬢、星宮香苗である。
今回の主役の登場に会場は大いに賑わいだ。
後に続けて降りてきたのは長身痩躯の黒髪に死んだ魚の目をしたような明らかに学内では絶対に浮いてモテなさそうな存在の青年ガードマン。
付添い人として彼女と二人で降り立ち彼が端末機を操作して会員証を門番のガードマンに見せて通っていく。
『星宮家』のリムジンから降りた客は彼ら二人だけではなくあともう一組いた。
現『星宮家』当主、星宮源内とその付添いの初老ガードマンである。
こちらもガードマンが会員証を提示して中へ通され入っていった。
それらを見送った後にすぐに雪菜は木陰へ移動した。
雪菜はさっそくレナから貰った円形通信端末を操作しある人物へ電話をする。
端末が起動すると小型の空間投影ウィンドウが端末の所から出てくる。
そのウィンドウ画面には通話先の相手の顔が映った。
その顔はさきほど、『星宮家』の付添人のガードマンである青年、黒木勇だった。
「もしもし」
「ちょっと、来るの遅いじゃない!」
画面に移った男はどこかの、会場のベランダにいるようで夜空が画面上にうつっている。
ユウは耳を押さえながらうざったそうに顔を引きつらせる。
「――っ! うっせぇな。俺に言うなよ。お嬢様のタイミングでこっちは動くんだ。時間どおりに動けなくて文句言われても仕方ない。にしても、本当のようだな。外部の警備のみか」
「上からの命令で仕方ないのが納得いかないけどね」
「まぁ、タイミングを見計らい俺もお前らを中に誘導できるか試すがあまり期待はするなよ」
「なによ、あんなに大見え切っておいて結局それ」
「無茶を言うな」
ユウが画面の中で頭を抱え込んで皮肉な笑みを見せた
数秒間の沈黙の後「どうするかな」と発言する。
さらに、驚くべきことを言う。
「そういやぁ、久遠時財閥がどうやら招待されてねぇな。やっぱり、悪事を働くから呼んでないか」
「え!? だって、リストには久遠時財閥の名前だってあったわよ?こっちでそれを確認してるし、それに開場時間どおりに来ていたわ」
雪菜はしっかりとこの目で見ていた。
来た時はすごいマスコミや記者が群がり、『件の男の方とはどんな関係で?』などという関連じみた質問責めにあっていた。
いわゆる恋愛のスクープを報道しようとするウジ虫のごとき存在のマスコミである。
「なに? じゃあ、彼女はどこに行ったんだ? 中には見当たらないぞ」
「っ……え? わかったわ。じゃあ、こっちで彼女を捜索してみる」
雪菜も彼が顎に手を当てて思案する顔でそうつぶやいた時に同じように思えた。
警察官は中に入れない、久遠時財閥の失踪。
両方とも悪事を監督する組織。
まるで、追い出すような手口に見えた。
「とにかく、俺も久遠時さんを探す。そっちも外部で何かあれば連絡をくれ。それと、俺に何かあった時はレナに連絡を」
そう言って、彼は通信を遮断した。
ウィンドウも消えて一人木陰の壁に身体を支えて敷地全体を見回す。
広大な敷地の複数個所には厳重な監視装置も張り巡らされている。
さらには、防衛装置の類もあった。
かなり、やばい奴である。
監視装置ならばわかるが防衛装置の異常な数は不気味だ。
さらに言うならば、明らかに新しく舗装されたような道路。
そして、庭の芝生。
自分の足元を見てからその芝生を手で触れてすこし、草をどかしてみると下は鉄のパネルでできていた。
「元研究所ってのは本当ね。でも、この鉄パネルは扉? ハッチのような仕組みになってるのね。何を出すというの?」
ある予想ができるがそれは早計な考え方か。
「妖獣なんか収容していたりして……ね、まさか」
首を横に振って雪菜はそそくさと持ち場へと戻って行った。
******
ユウは会場の開催されたホールへ戻る。
会場は気品のある客人を招くに値するような大きな広間の一室。
天井からぶら下がるシャンデリア、床を敷き詰める赤いじゅうたん、シルクのシーツにくるまれた机が複数。
その机の上にはおいしそうな数々の国や日本の名産料理がどっさりとバイキング形式で置いてあった。
お酒に関してはウェイターが運んでいたりしてユウも呼びとめてウェイターからグラスを拝借して周りを見る。
(まだ木藤社長は現れずか)
だが、かわりに隔離区内で見つけた名刺の所持者の姿があった。
『紫藤正宗』。彼と出会ったのはこれで二度目である。
一度目は『株式会社フィジアーク』で案内人として出会っている。
現在、彼はここでも案内人役をしている。
部屋に迷った客人を丁寧に教えていたりしている。さらには『cybarz社』の社員と言うだけあり女性からの声を掛けられて逆ナンパされていてうらやましい限りだ。
だが、彼の素性は死人と言う認識である。
これが彼を不穏なイメージを抱かせる。
(注意深く見張っておかないとな)
それを確認してから、付き人としての役目へユウは戻る。
会場の中心で数人の男性と明らかに作り笑いで会話をする星宮家のお嬢様の所へと近寄っていくと彼女はこちらに気づいて歩み寄った。
「ちょっと、何処行ってたんですの!」
「もうしわけありません。ちょっと、電話を」
「誰に?」
「友人です」
ユウは勘繰られないようにそう受け答えた。
香苗はこちらを凝視続けながら彼女は「離れないでよ」と言ってその手を引いて会場の外へ。
外と言うのは屋敷の外ではなくあくまで会場の外。
絨毯の敷き詰められた床に装飾や絵画がかけられた壁のある廊下へ出た。
「はぁー、まったくこういう所は息が詰まりますわ」
「お嬢様、あまりそう言った発言はお控えませんと」
「だって、好きになれないんですもの」
お嬢様前とした顔ではなく普通の一般女性のような落胆しきった表情を見せる。
星宮香苗という人物を知ってるユウとしては今の彼女の方が付添い人としてはやりやすくはあった。
「あなたもボディーガードマンらしく振舞わずともよいのですわよ?」
「そう言うわけにはいきませんよ。今この場では業務中ですから」
「はぁー、真面目ね。ちょっと、付き合いなさい。屋敷の中を探検しますわよ。あの有名な『cybarz社』の社長の家ですもの。なにがあるのか興味がわきますわ。お父様とも懇意に武器やらを発明していたくらいなんですもの」
彼女が会談に一歩足を入れた時背後から人の気配を感じた。
「これはこれは来てくださって嬉しいよ愛しのフィアンセ」
「っ!」
背後にいた人物はもう一人のパーティーの重鎮。木藤正義である。
『cybarz社』の御曹司である彼はにこやかな笑みとともに香苗の手を取る。
「会場でボクと話しでもどうかな?」
香苗の眼は助けを請うようにユウを見ていた。
ユウは間に入り彼の腕を掴む。
「すみませんがお嬢様が嫌がっておりますので」
「なんだ? 下船な執事風情がきやすく僕に触れるな!」
その手を振り払う彼にユウは笑みを絶やさず威圧的にその腕をもう一度つかんだ。
「いたっ」
「ここはお引き取り願えますか? 香苗お嬢様が嫌がっておりますので」
「な、離せ! 僕は彼女のフィアンセ――」
「関係ありません、お引き取りを」
木藤正義はこちらを鋭く睨み解放された腕をさすりながら会場の中へ逃げて行った。
「ありがとう。ユウ」
「いいえ、香苗お嬢様のボディーガードマンですので」
「ねぇ、ユウ一緒に冒険しない?」
「お嬢様、危険ですよ」
「いいから」
玄関先の階段をすばやく昇ってしまった彼女に唖然とする。
彼女はユウを呼び付け催促した。
「マジかよ」
呆れながらもユウも興味はあるし最初からそれが目的でもあった。
「久遠時さんも探さなかったりしないといけないが……物色するにはちょうどいいタイミングか」
背後を振り返る。
リストチェックにいそしんでいてガードマンがこちらを見ていない。
一段足飛びで階段を上り切って2階へ。
「うふふっ、さすがは私の付添ね。しっかりガードなさい」
「了解です、お嬢様」
「お嬢様禁止ですわ。香苗と呼び捨てなさい」
「それは拒否します。業務上ですので」
「だから真面目すぎですわ!! もっと、おちゃらけられませんの!」
「無謀な要求ですね。業務執行は絶対精神です」
脛を蹴られユウはうずくまる。
「もういいですわ! 行きますわよ! 馬鹿ユウ」
彼女は廊下を歩き進めて一室の扉の前で足を止めた。
それは『業務室』と書かれた部屋だ。
「あ、あのお嬢様?」
ためらいもなく彼女は部屋を開けた。
鍵はしめていないよて彼女は中に入って簡単の息をこぼす。
中は結構広かった。
いくつもの機械部品が机の上に散乱していたり本棚が壁脇にあったり、隅っこにおかれた複数の本もあった。
「なんですのこれ?」
香苗は何かを見つけたらしく足場を見つめていた。
ユウもつられて足元を見た。
血のように赤いもので書かれた何かの文字。
部屋全体を円で囲うような――
「魔法陣……っ」
「え? ユウなんて?」
「お嬢様、ココを出ましょう。ここは危険です」
そう言ってユウはお嬢様を連れて部屋を出ていく。
さらに、ユウは足元を本で取られた。
その本を手に取ってみると息を呑んだ。
『黒木正一』と書かれた日誌だった。
咄嗟にそれを懐へ忍ばせる。
彼女を連れて部屋を出る。
階段を下りるのは楽だった。
玄関扉は閉じられ、客の入場はおわった様子でありガードマンはいない。
おかげで素早く会場の中に戻っていくと言う行為をできた。
会場はどういうわけか全員が演壇の前にいる木藤栄治に注目していた。
木藤のそばにはフィジアークの会社の社長であろう黒髪の男。だが、妙だ。男の首には金属の輪がつけられている。
「ここにご来場いただくのは私の協力者である同胞諸君! 今日はぜひ、パーティーを楽しみましょう!」
すると、照明ライトが隣の香苗お嬢様にあてられた。
「では、お嬢様こちらへ」
「え、え」
いつの間にか背後にはガードマンが現れる。
彼女を連行して演壇の前に運んでいく。
ユウが手を伸ばすもガードマンが邪魔をした。
「では、香苗お嬢様と我が息子の婚姻を祝してこのボタンを押してください」
「あ、あの私はまだ――」
「ん? どうかしましたかな?」
木藤栄治は無理やり圧迫をかけるような言い回しをする。
あれでは承諾せざるえない。
ユウが口を開こうとした時に演壇のそばで猿ぐつわに腕を縛られた星宮源内の姿があった。
全員、あの状況を見て何とも思っていないのか会場の連中はおとなしい。
(そういえば、さっき同胞諸君とか……)
つまり、ココに集められたのは『cybarz社』の支持派団体だ。
(敵の本拠地にいるってわけか!)
ユウが咄嗟に足を動かそうとした。
しかし、それよりも早く目の前で『株式会社フィジアーク』の社長らしき男の頭が爆発した。
「いやぁあああああああ!」
香苗お嬢様の叫び声が響いた。
それにより、外の警察も騒がしくなり入ってこようとするがガードマンが通さないようだ。
ユウの通信端末も先ほどからコールが鳴っている。
「では、みなさま。開催の合図もしましたんで本会場へ案内をいたします」
そう言って木藤栄治は後ろの壁を押した。
そこは隠し扉だ。
先方の人から順番に案内人である『紫藤正宗』が降ろしていく。
未だに泣き崩れている彼女。ドレスは血にまみれて汚れてしまっていた。
ユウは動こうにも動けない。後ろのガードマンの気迫。一歩でも動けば次殺されるのは自分であった。
「じゃあ、最後はキミとお嬢様で」
「っ」
「え」
なぜか、ユウと香苗のペアを示してくる。
どういうつもりかと疑い深くなる。
「おい、親父!」
「いいからいいから。じゃあ、どうぞ」
木藤正義が反論するのをお構いなしに彼に促されユウは彼女と一緒に隠し通路を下りて行った。
お嬢様を抱きしめて守る姿勢を取った。
「ゆ、ユウ助けて」
「わかっています。是隊に助けます」
泣きはらした顔を赤らめながら身をよじって頼む彼女にユウは足を一歩一歩と降ろしていく。
行き止まりだ。
その扉から初老の執事が出てきた。
「お嬢様とユウ様、こちらにいらしたんですね。本会場はこちらです。早く来てくださいな」
「じーや? 本会場って?」
「ご当主さまもいらっしゃいます。早く」
「おい! おまえこれはどういう――」
「なにか?」
彼らからは寒気を感じさせる殺気立つ視線を感じ取る。
この男もまた『cybarz社』側であることがそれでわかった。
星宮源内の執事であったはずの彼がいなかったことも不思議だった。なぜ、星宮源内は捕らわれたのかと言うことも。それは彼と言うスパイがいたのだ。
「とりあえず、行きましょうか。お嬢様」
「じーや、どうして! どうしてなの!」
「あーあー、うるさいですね、さっさとコイよクソガキ」
「っ!」
ついに香苗は心が崩壊したように一言もしゃべることはなくなった。
昔から信頼していた執事に裏切られればそれはそうなるのだろう。
「一つ聞いていいか」
「なんでしょうか?」
「裏切ったのはなんでだ?」
「老後のためですよ」
「クソジジイが」
ユウは彼を突き飛ばすように本会場の中に足を踏み入れた。
*****
にぎわいだった別会場。
全員が仮面舞踏会かと疑うかのように顔半分を隠した仮面をつけて目の前のステージに向かって手を掲げて叫んでいた。
一つのホール。
ホールの内装はシネコンの映画館に似ている。天井の埋め込み式のライトが場内を仄明るく照らしだしていた。両サイドの壁は来場客の注意をそらさないためか、黒の壁画のほかに非常灯しかない。
座席はなく、立ち見閲覧のようである。等間隔で人がホールには群がって埋まっている。
参加者はかわらず、男性がスーツ、女性はドレスだ。
西欧人と思しき明るい頭髪の人も見受けられる。
正面には米大統領の記者会見を彷彿とさせる木目調の演台が据えてあった。
その演台に司会進行役っぽい人物がたち、傍には垂れ幕の掲げられ長方形の物体がある。
会場はもう始まっていた。
「では、お次の商品はこれです!」
そんな発言をして司会進行役の人物は垂れ幕を取り払う。
垂れ幕の中から出てきたのは裸体の女性。しかも、もう意識のない死体だった。
「この人物は有名な化粧品のコンサルタント会社の令嬢! 見目も麗しい容姿はまさに死してなお妖精のよう! では、百万円相当の品からのご提示を!」
まるでオークション会場のごとく繰り広げられる光景。
ある人が『1000万』と金額を言って札を上げ片手に叫ぶ。
さらに、またある人がまた、また。
永遠と続く中で、『落札!』という言葉が響く。
日記はある一人の男が買い取った。
「お、お父様っ!?」
演壇の前に次現れたのは『星宮家』の当主、星宮源内だ。
「お父様!?」
会場ではまた同じような言葉が繰り返された。
星宮家の当主である男を売買しようというのだ。
金額は凄い金額から始まりもはや見てもいられない。
「ユウさま、邪魔をなされば始末します」
背後から老執事のおごそかな声が響く。
「あれ? お嬢様!」
気づけばいつの間にかお嬢様はいなくなっていた。
彼女は強引にガードマンによってどこかへ連れてかれようとする。
ユウは彼女を助けるために動いた。だが、その行く手を阻むのはクーネルだ。
「おい、どけ」
「先輩に対してそのような口答えはいけませんよユウ様」
「あんた、お嬢様が乱暴に連れてかれようとしてるのを黙って見てろってか? だいたいここで行われてるのは違法行為だ。人を売買するなんて」
「そうでしょうか? これはあくまでビジネスだと私は思いますけども」
「んだと! ちっ! もういい! お嬢様を助けに行く、邪魔だどけ!」
彼はそれでもどかずにユウの行き先を阻み続けた。
殴り飛ばそうと決意して拳を固めた時だ。
会場がざわめいた。
なんだと、思い顔を上げた時にユウは信じられない光景を目にした。
「今日の目玉の一つ! 久遠時財閥のお抱えの侍女一家の娘であり現在の久遠時財閥当主の侍女! 見嶋茜! では、2000万相当の品からどうぞ!」
演壇に出てきた品はずたずたに制服を切り裂かれ血みどろにまみれた姿で手を鎖にはめられ鉄棒のような支え棒にくくりつけられて宙づりにされた幼馴染の姿だった。
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