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交渉

 星宮家の屋敷の中にご招待にあずかり、ユウは豪奢な飾り付けのされた部屋の内装に見とれながらそのレッドカーペットの敷かれた2階廊下を歩いていく。

 各種いろんな部屋の扉を見続けて目を奪われる。

 ユウは星宮の屋敷に入ったのは初めてだった。

 今まで彼女の送り迎え執事であったが屋敷の中に入るという機会はなかったのだ。

 なので、あまりにも自分が暮らしていた家とは大違いの様相にドギマを抜かれてしまう。


「ここが父の仕事部屋ですわ」

「源内議員は在宅で助かりましたよ」

「在宅でたすかった? いるとわかっていてきたのではないの?」

「あはは、それはないですよ。いてくれたらいいなって思って訪問したんです」

「そう、父のお眼鏡にかなうといいのだけど。できれば、将来はあなたを私の専属執事にしたいですもの」

「それは光栄ですね」


 にこやかにユウはほほ笑みながら受け答えをした。

 香苗はその笑顔を見て頬を赤らめる。


「ここですわ」


 香苗は父親の仕事部屋をノックするとすぐに応答があり部屋の扉を開けた。

 中は明らかな仕事部屋と言うように書類だなと執務席というようなものくらいしかない。

 その執務席に座ってAIの導入されたパソコンを使用して空間の投影ディスプレイモニターを操作する男の姿。男性は50代にしては若々しく見え、紳士服が似合い厳格な顔立ちをしている銀髪の初老。

 現在の財政を一部担う大物資本家で投資家、星宮源内議員である。

 源内議員は厳格な相貌で来訪者のユウと娘の香苗を見ていかにも疑問を訴えた表情をする。


「お父様、こちらは私が現在雇用してる執事の――」


 そこから先はユウは自ら率先して前に出てお辞儀をしながら申し上げた。


「香苗お嬢様に学内の講義の一環で登下校の執事をさせてもらっています黒木勇といいます」

「黒木?」


 源内議員が目を細めてユウの顔を伺った。

 仕事の業務を一度中断して立ち上がり観察でもするようにユウの顔を見つめ続けた。


「黒木君といったね。君どこかであったかな?」

「いえ、始めて議員にはお会いします」

「そうか。気のせいか……黒木と言う苗字に聞きおぼえがあったものでね」


 なにやら自問自答で落ち着いた彼をみてさっそくユウは本題を切り出した。


「議員に今日は頼みがあってきました」

「頼み?」

「明日の19時、議員はcybarz社主催のパーティーに出席されますよね」

「っ!」


 議員の目が明らかに変わる。


「おい、小僧どこでそれを知った?」


 あきらかな父の変貌ぶりに娘である香苗は動揺して「お父様?」と口にした。

 源内はニューワーカーを操作すると部屋に例のユウと戦った「じーや」と呼称される執事が来訪し源内議員の指示で香苗を追い出す。

 すぐに二人だけとなる。


「ずいぶんと乱暴な扱いを娘にしますね。あれでは娘さんがかわいそうだ」

「貴様がいけないのだ! 娘の前でその話を口に出すとはっ!」


 強く立ちあがった源内議員は牙をむく。

 ユウは気迫に負けじとニューワーカーを操作し空間に『星宮財閥投資、cybarz社主催の買い取りオークション』を映し出した。

 さらに昨日見つけた『買い取り人集会所』の会員名刺。紫藤正宗名義のである。

 だいたいどこで情報を知ったのか事情を察したのか口つぐみだして手を離し椅子に深く座りなおす。


「これはお返しします」

「どこで、これを拾った?」

「隔離区、旧研究都市という表現がただしいですかね」

「あそこへ侵入したのか……犯罪だぞ」

「それをあなたが言いますかね? 隔離区に入ったりして人を拉致する手助けをしてるあなたがいいますか?」

「……脅迫か?」

「いいえ。俺は最初にいいましたでしょ。頼みがあると」

「なんだ?」

「cybarz社主催のパーティーにお付きの護衛執事として参加させてください」



 そう、ユウの今回の目的はそれだった。今回の買い取り人の集会所という隠れ蓑であるその主催パーティーに参加することである。うまくいけば『cybarz社』の実態を少しでもつかめることになる可能性だってある。



「なぜだ? 何を望んでる?」


 ユウはここで自らの手持ちの光線銃を引き抜いた。源内議員が慌てて机の引き出しに手をかけたが、ユウがその銃を武器として扱う意思がないことを悟って緊張の糸を解いた。

 彼は代わりに机の上にその銃を置いた。

 さらに、もう一丁新たな銃を置く。それはベレッタ製造の銃を改造したモデル。それを見た議員の表情がさらに険しいものへとなった。


「この二つはあなた方が販売してる銃だ。片方はつい昨日ある場所に住む男たちが使ってた銃。そして、もう一つは俺が個人的に使って改造を施してある銃です」

「っ! なるほど、娘がつい1年ほど前に身を守るために銃がほしいとねだってきた。ワシは危険だから絶対だめだと頑固として譲らなかったが結局根負けした。今までは反抗的ではなかった娘があの時ばかりはたかがおもちゃでダダをこねて不思議に思ったが君か、君が原因か!」


 彼の言うようにそれは事実だった。

 ユウは1年ほど前に香苗お嬢様の身を守りたいという理由で星宮財閥が違法で作ってる販売する銃を所望したのだ。

 現代では銃の販売は違法である。

 しかし、星宮はそれを裏で販売していた。

 香苗も家で銃を密売し軍事利用されてることを知っていたからこそ、ユウは彼女を使い銃を手に入れる計画を思いついたのであった1年前のこと。

 うまく、事が運びユウは銃を手にして『黒衣者』の武器として改造も施していた。



「おっと、懐に忍ばせた武器で俺を殺そうとするのはよしてください」


 彼はユウが娘を反抗に走らせた元凶とみるや眼を血走らせ、懐に忍び込ませた拳銃を抜こうとした。

 ユウは今度は歯向かうために懐のナイフを見せびらかした。


「俺は個人的にこの光線銃の製造を知りたい。だから、今回の主催のパーティーであんたたちの裏の仕事ってのを見てみたいんだよ。議員は販売してるだけで銃器は製造していませにょね」


 その言葉はまるっきり嘘だった。ユウの目的はあくまでその開催パーティーに侵入をし木藤栄治社長に接触することにあった。 

 今はその作り話を使いパーティーに参加する権利をえるように奮闘する。


「銃を欲する理由はなんだ? 製造を知って自分で簡単に作れるとでも思うのか?」

「ええ、思います先ほど銃に改造を施したって言ったでしょ」

「なに?」


 ユウはお手製の銃を見せびらかししまう。


「銃の細部にまで器用に改造を施している? 見たこともない製造方法だ」

「特製の製造法ですから」

「……だが、何故銃を欲するか答えを聞いとらん!」

「殺したい奴がいるから」

「っ!」


 冷え切った声色にその時初めて源内議員は目の前のユウという青年に畏怖を感じた。


「そうまでしてでも勝てぬ相手か? そんな銃を使うのか?」

「大勢いるんですよ。大勢……」

「……条件がある」


 しばらくしてそう告げた。


「条件?」

「主催パーティーには参加させよう。だが、ワシの護衛ではなく娘の護衛につけ。今回の会場はいろんな奴が来る場所でな、娘を今回はその場所でよき伴侶を探し与えようと思うが悪い男に当たったらどうなるか心配で仕方ない。だからこそ、娘の護衛に携わってくれぬか。いや、本当のことを言えば無理にでも連れて来いと言及されておるのが実情じゃ」

「無理にでも連れて来い? どういうことですか?」

「…………どうなんだ?」


 答える気はないということだった。

 理由はどうあれ内容に関してはユウは確かに適任である。

 彼女の護衛であれば今まで通りと変わらない。

 しかし、その場所へ無理にでも連れて来いという脅迫みたいな言及が謎である。

 このことに関しては一切の無言を貫き通す彼なので真相はわからない。


「わかりました。交渉成立です。お互いに警察には他言無用でいましょう。もし、俺が隔離区に侵入したことを言えば俺もあなたがやってる悪事をすべて暴露しますよ」

「ワシが議員であることを忘れてないか?」

「だから? 俺にも大物政治家の知り合いはいるんですよ。久遠時名花とかね」

「なに?」

「では」


 ユウはそう言って部屋を出ていった。

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