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星宮家訪問

 明朝。

 鳥のさえずりの音と芽吹いてくる風の肌寒さにやられてユウは目を覚ます。

 手元を探るようにして携帯を探すと柔らかいものを握った。


「んぅ」


 艶めかしいような声が耳に聞こえてもう一度軟かな物体を確かめるように今度は強く潰すかのように握る。


「んっ……くぅ……ぁん……むぅ……ユウ……んっ……」


 次第に確かな事実がはっきりとしてきて身体全体に感じ始める女体の柔らかさ。

 バッと体を起き上がらせると身体の上に乗っかっていた人物が床に転げ落ちた。

 転倒した拍子に顔面を強打してむくりと起き上がるとまたこちらに抱きついてこようとするので乱暴にその顔を掴みソファに埋もれさせた。


「あふぅ」


 ちょっと、どこか嬉しそうな悲鳴だったが無視をして自分が寝ていた場所を見て小首を傾げた。

 そこはリビングルームのソファだった。

 あけっぱなしの窓辺から風が吹いていた。

 そっと、そよぐ風の中でレナがまた寝息を立て始めたのを聞いて溜息をついた。


「よく眠る上に人様の寝床にまた忍びこんだのか……襲われてはなさそうだが……」


 自らの身体をチェックしてそれを確かめると、窓を閉めて洗面台に向かい顔を洗ったり寝ぐせをなおしたりと身だしなみを整えた。

 しわくちゃになってしまった制服を見て脱力したように息を吐いた。


「……昨晩あのままベランダから帰って寝ちまったのか」


 昨日のことを思い起こした。

 あの後にドローンを追跡していった先にいた『妖獣オカルト』の存在。それを始末していたのは『cybarz社』に雇われただろう隔離区の住人たちだった。見たこともないような武器を扱い『妖獣』を始末しようとしていたが結果的に銃器は不良品でドローンによって『妖獣』と一緒に銃撃の雨にさらされ死体となってドローンに回収された。

 残った『妖獣』はユウがどうにかして瓦礫の山に沈めたが後味は悪い結末である。

 だが、ユウはあの武器が何処の製造か見覚えがあり、一度雪菜とは別れて帰宅し夜遅くまで未だにリビングで寝ているレナと一緒に考えていたのだ。


「明らかに銃器は星宮の買い取ったものだったよな……」


 ブレザーを脱ぐとホルスターも取ってリビングへ向かう。

 そのまま、リビングに脱いだ一式を置いて自室に向かい物置入れからアイロンのセット一式と銃の清掃道具を取り出した。

 そのまま、アイロンがけから拳銃の手入れまで小1時間ほど始めた。

 ブレザーを羽織って、その際にナイフなどを忍び込ませておく。壁掛けの時計で時間確認する。


「今から行って会えるかどうかはわからないが行く価値はあるよな」


 本日は日曜日で休暇最終日。

 ユウは出かけたい場所へ行くことを決めるとレナが起きる前に外出準備をする。

 まず、先方へ連絡を入れる。

 最後に書き起きの手紙を残して外へ出る。

 そのまま鍵を閉めて寮の通路の廊下を歩いてると見嶋茜と遭遇した。

 彼女は今日も自らが契約して使えてる主のもとへ行く様子だった。つまりは仕事だ。

 にしても、大分遅い時間帯だった。

 今はだいたい朝の10時過ぎ。昼近い。


「茜姉さん、おはよう。ずいぶん遅い出勤だな」

「んー、おう、弟じゃないか。そうなんだ。相手の頼みで午後だけの仕事を頼まれてな」


 茜と一緒にエレベーターまで向かい一緒に来るのを待つ。


「弟は今日は一日にオフだろ? どこかへ行くのか? まさか、デートか?」

「あはは、まさか。俺は付き合ってる人なんていないよ。まぁ、すこし個人的な用事で外出するんだよ」

「個人的な用事? ああ、例の奴か」


 見嶋茜もまたユウが黒衣者であることを知ってる数少ない人物の一人だった。

 だからこそ、ユウの個人的な用事がそれに類する者とわかって含み的な物言いをした。

 しかし、その表情はどこか浮かない顔をする。


「あまり無茶はするな。私はお前が死んだら悲しくて泣いちゃうぞ」


 そう言って頬にキスをする。来たエレベーターの扉が開いた。

 一緒になって乗ってからしばらくは沈黙状態だった。


 ******


 寮で茜と別れ目的地の星宮家の屋敷に来ていた。

 星宮財閥の本拠地ともいうべき場所。

 大きな洋間風の屋敷は一体いくらの建造費用がかけられてるのか考えるのもおぞましい。庭の広さだけでも相当な敷地を使っている。

 まずは車用の門の前でユウはインターホンを鳴らして監視カメラに顔を向けた。

 さっそく、要件を促されて適当に星宮香苗に会いに来た旨を伝える。


(ちょうどいいタイミングだろうしな。契約期日も明日で満了だ)


 最後の彼女との時間を少しでも長く居たいというのは本音である。

 学園が一緒でも実際のところロイヤルの生徒とガードナーの生徒と特定同士でかかわることはまず少ない。

 ほぼ講義でも執事として訓練をさせるためにロイヤル生徒と合同講義を行うことはしばしばあるがそのパートナーも学園が勝手に決めたペアが常。こっちが指定はできない。特別補講を受けぬ限りは別なのだ。

 つまり、個人的に特定のロイヤル生徒を指名してプライベートもかかわるなどない。

 中庭を歩いて数十分。思いのほか長い距離を歩いて屋敷の前に到着したところでさっそく玄関先が開いて慌てて星宮家の令嬢は飛びだしてきた。


「ユウ!」


 彼女は飛びだしてきてそのままこちらに怒りの形相で駆けこんでくる。

 そのまま飛び蹴りをかまされた。


「ごふっ」


 喉元に見事に入った一撃。

 まさに暴漢から身を守るすべをしっかりと学んでらっしゃることが身体に現れている。

 せき込みながらゆっくりと表をあげて彼女を見上げると涙を浮かべていた。


「どうして、どうして別の人と契約を付けていますの!」

「は?」


 突然になにを言ってるのか分からず素っ頓狂な言葉を返してしまった。

 彼女は腕に取り付けたニューワーカーを操作して空間に書類画像を映し出した。

 それはユウの補講契約スケジュールリストである。

 今までは星宮香苗の名義が続いていたが明日からの契約者名義は別になっていた。崎守雪菜と書かれている。


「そのことですか」


 彼女が涙ながらに訴える意味がやっとわかった。


「あなたは私に永遠につかえるという約束でしたわ! ですから、こんなの認めませんわよ! 今すぐ彼女との契約を放棄しなさい!」

「なんでですか? 第一一生仕えるなどと約束した覚えはありませんよ」

「ッ! なんですって……」


 彼女は胸倉を掴んで張り手をくらわす。

 思い切りのよいびんたにおもわず目を瞬いて吃驚した。


「わ、私はあなたのことをお慕いしていましたのに……」

「はい?」

「もういいですわ。あなたが崎守のお嬢様を選ぶのならば好きにしてしまいなさい! 私はもう次に頼まれてもあなたを雇いませんわ!」

「ちょっ! まってください! 香苗お嬢様!」 

「もう、私のことを呼ばないでちょうだい! じーや、彼を追い出して!」


 じーやと呼ばれた初老の執事が玄関先から出てきてこちらに近寄ってくる。


「おい、俺は香苗お嬢様だけじゃなくって星宮議員にも用事があるんです! 追い出されるわけには――」

「お引き取り願えますかね? 黒木勇さま」


 グッと腕を掴まれるとそのままふり投げ飛ばされる。

 投げ飛ばされたが空中で身体の抑制行動を行い地面に着地する。


「ほうぅ。このじーや、少々黒木勇さまを侮っていたのやもしれません」

「そりゃぁ、ほめてくれてるって取っていいのですかね? それ以前に、なぜあんなにお嬢様は怒るんですか。これはたかだか補講だったはずでしょう。また、3ヶ月後俺を雇えばいいだけじゃないですか?」

「あなたは執事と言う役職をなめすぎていませんか? 執事は何事も主君の考えを尊重し主君の気持ちを考えることです。それがわからぬならばまだまだですね」

「で、でもさ、俺はまだ学生です。だからこそ、いろんなお嬢様のもとで経験を積むのまた大事なことだと思うんですけど」

「たしかにそうでしょうがあなたはあなたを認めてくださった香苗お嬢様を泣かしたことを忘れずに。ですから、勇様にはキツイ仕置きをさせていただきます」


 急激に飛び出した彼の行動をしっかりとユウは目で追えていた。星宮家執事筆頭、クーネル・サンブラウンはそのユウの目を見て驚くと同時に畏怖を感じて攻撃の手を止める。

 なにか、一瞬よからぬ想像をした。


「このじーやも老いましたかな。一瞬あなたからとんでもない殺気を感じ取るとは」

「なぁ、そこを通して今一度香苗お嬢様とお話をさせてくれ。そして、ここの当主、星宮ほしみや源内げんない議員に会わせてくれないですか」


 今一度ユウは決めて口にした。

 すると、屋敷の玄関が開いて彼女が出てくる。


「ユウ、お父様とどんな話をしに来たんですの?」

「仕事の話だよ」

「はい?」

「俺を個人的に雇ってもらえないかってね」


 そうユウは言った。

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