第2話 計画
本日3話目
一晩寝たら、元に戻っていたーー
だったら、良かったのに。はぁっ、間違いなくリリアーナ・オリエントになったのは現実みたいね……。
大学生だった小森杏ではなく、半分の身長がない5歳の子供。リリアーナ・オリエントのままだった。
「仕方がない……、予定通りに行くしかないわねーーーー」
「お嬢様? 起きていますか?」
「あ、はい」
お嬢様と言われるの初めてだったので、むず痒い気分だった。それでも、何とか返事を返すとメイド服を着た使用人が入ってきた。
「あら……、着替え終わっていたのですか?」
「え、えぇ……つい、さっきね」
「昨日までは1人で着替えが出来なかったのに……」
「えっ!? えっと……」
前のリリアーナ・オリエントがやったことを覚えてはないので、このミスに冷や汗をかいてしまう。
「う~ん、まぁお嬢様が自分で着られるようになったのはいいことだから、いいかな~?」
「う、うん。そうだよね……」
問題になるミスではなかったので、安堵するリリィ。
「あっ! 私の事は覚えていませんでしたよね?」
「ごめんなさい……」
「いえっ、責めているわけでもないので! 私はイーナと言います。好きなの様に呼んで下さいねっ!」
使用人にしては、気安い態度で接してくることに驚くリリィ。使用人はこんなのだっけ? と表情に出ていたのか、イーナは苦笑して教えてくれた。
「覚えていないかもしれないけど、私は5年間、お嬢様と一緒だったのよ。お嬢様の付き人と言えばわかりやすいかしら?」
「…………あっ!」
「ん?」
リリィは思い出したという様に、指をイーナに向けていた。思い出したのは、リリィだった頃の思い出ではなく……
いつもリリアーナの後ろで邪魔の手伝いをしていたメイドッ!!
リリィが思い出したのは、ゲームでリリアーナのメイドとして出ていたイーナのことだ。ゲームでは主人公の邪魔をする時、リリアーナの側で邪魔をする手伝いをする場面があった。ゲームでは、悪い笑みを浮かべていた為、すぐに気付けなかったが……
「お嬢様? 私の顔に何か付いていますか?」
「いや……」
じーと顔を見てみるが、何処にもいるようなただの娘にしか見えない。なのに、ゲームでは悪い笑みを浮かべていたなんて、信じられない。
もしかしたら、今はまだその心を潜めている状態なのかもしれない。
使えるか……? 今はまだ子供。出来ることが限られているなら、イーナをこっちに引き込んで共犯に出来るか……?
まだ使えるかわからないので、すぐ誘わずに様子を見ることに決めた。まずーーーー
「ねぇ、イーナ? 君の御主人様は誰かな?」
「えっ、突然何を言っているんですか? 御主人様はお金を貰っているから、お嬢様の父親になりますかねー」
それだけで、イーナの立ち位置がわかった。イーナは父親であるルードからお金を貰っているから、働いている。それだけの関係で、絆などの強い繋がりがあるからではないのがわかった。
ーーそれなら、使えるかもしれない。
「そうね、イーナはお金が欲しいから働いているでいいよね?」
「いきなり、俗な話になりましたね!? うーん、お嬢様のご家族に情はありますけど、金は必要ですから他に高い給料が貰えるなら、雇用先を変えると思いますけど……皆には秘密ですよ?」
「うん、秘密ね。…………そうね、父親と母親に秘密でやりたいことがあるから、手伝ってくれる?」
「うーん、難しいですね……。お嬢様に何かがあったら、クビになってしまうのは惜しいですからね」
「成る程。大丈夫、簡単な仕事を頼みたいだけだから」
イーナは最後まで渋ったが、後払いでお金を払うとすぐ決断してくれた。仕事の内容は難しいことでもないし、もし両親にバレてもイーナがクビになることはないからだ。
お金については、後払いと言っても手に入ったらあげるということである。
「あ、食事の時間なので、すぐ食堂に行きますよ」
「はーい」
子供らしく、返事を返すリリィ。それに苦笑するイーナだった。イーナはリリィが何処か変になっているのを理解したかもしれない。
食堂では、既に両親が集まっており、リリィもすぐそこへ向かう。
「おはよう」
「おはよう! 身体は大丈夫?」
「おはようございます。もう大丈夫です」
バンザイをして、身体は問題ないと伝える。クリスは自分の娘が元気であることに嬉しい表情を浮かべる。
「さぁ、食べよう」
「はい」
「はーい」
ここでいただきますとこの世界にはない動作はしない。ゲームの世界のようだが、ここは地球とは違う異世界だと考えて、動く。
やっぱり、箸はないかと思いつつ、フォークとスプーンを使って食べていく。
「あら……、綺麗な食べ方になったわね?」
「驚いた、記憶喪失するとこんなに変わるのか?」
「貴方!」
「あ、すまない。なんでもない」
クリスは記憶喪失の話はしたくないようだ。少し重くなってしまった食堂に耐えられなかったのか、ルードが話題を変えてきた。
「あ、今日はオリエント公爵の領地の視察へ行ってくるから、夜までには帰らない」
「日を跨がないのですね。わかりました」
「はい」
この時、リリィはチャンスだと思った。アレを見つける時間が手に入る。
「リリィ、今日も無理をするなよ。屋敷から出ないように」
「はい」
屋敷から出るつもりはないので、支障はない。御飯は食べ終わったので、すぐ自分の部屋に戻っていった。
その様子を見た両親は少し表情に陰を落としていた。
「両親だと言ってくれたが……、多分、リリィにとってはまだ他人だと思われているかもしれないな」
「……今はいいのよ。元気に生きていてくれているだけでも、嬉しいから」
「クリス……」
嬉しいといいつつも、顔はまだ暗いままだった。そのクリスを抱いて、その感情を落ち着かせるのだったーーーー
まだ続きます