第9話 奴隷屋
本日5話目
今、馬車に乗って奴隷屋に向かっていた。馬車の中には、リリィとイーナの他に、ルードが用意した護衛の2人が座っていた。
護衛の人は元騎士団だった人であり、ルードが雇用してから数年は経つベテランである。着くまでは暇だったので、護衛の人に話しかける。
「ねぇねぇ、貴方達は騎士団にいたよね? どんな訓練をしていたの?」
護衛の人は5歳の子供から話しかけられるとは思っていなかったから、驚きの表情になっていた。
「僕達が怖くないのか?」
「俺達は騎士団で強面のコンビと呼ばれていたしな」
お世辞にも、イケメンとは言い難い顔をしており、片方は目付きが悪くてスキンヘッドだった。
そんなことはどうでも良いリリィは質問に答えないことに子供らしくぷくーと頬を膨らませていた。
「もー、怖くないから、どんな訓練をしていたか教えてよ~」
「マジかよ、怖くないなんて……」
「俺は感動しているわ……あぁ、すまない。訓練のことだったな」
スキンヘッドの方は涙を浮かべていた。子供から怖くないと言われたのは初めてだったようだ。普通に強面の男はどんな訓練をしていたか、話していた。
そんな会話をしている内に、馬車が奴隷屋に着いた。
「へぇ、ここが奴隷屋ね……」
「では、護衛は入り口で待たせて、中に入りましょう」
「うん、待っててね~」
「「はい、いってらっしゃいませ」」
奴隷屋で襲われることはあり得ないので、わざわざムサイ男と一緒に中へ入るつもりはなかった。これはイーナの考えである。
「いらっしゃいませ! 初めての来店になりますか?」
「えぇ、初めての来店になります」
そう言って、オリエント家の紋章を見せる。その紋章を見た奴隷屋は驚愕していた。
「オリエント公爵!? あれ、オリエントの当主は奴隷が嫌いと聞きましたが……?」
「御主人様は奴隷が嫌いのではなく、奴隷制度が嫌いだけなので、そこをお間違えなくよう」
「は、はい! すいませんでした!」
「ねぇ、奴隷が欲しいのはオリエント家がではなくて、私がだからね?」
「お嬢様……?」
「はい、お嬢様が奴隷をお望みです。案内をお願いします」
「了承致しました! すぐ奴隷がいる場所へ案内致します!!」
公爵家が相手だからなのか、緊張しっぱなしだった。その男に案内をして貰い、牢屋みたいな場所に着いた。
「少し臭いますね?」
「すいません、気を付けていますが……」
「うーん、我慢するから。私の歳に近い男を見せてくれる?」
「はい、此方へどうぞ」
歳で牢屋が分かれており、5歳ぐらいの男性がいる場所へ向かう。
「うーん、どれも弱っているね」
「売られていた時から弱っていましたので、身体が丈夫とは言い難いですね。少しずつ改善していますが……」
「成る程ね……あれ、あの人は?」
5歳ぐらいの牢屋から離れた、別の牢屋には1人の少年がいた。髪は銀色で眼は蒼かった。
「あー、アレはまだ躾が終わってないので他の人から離しております。喧嘩をしてしまわないようにね」
「ふむ……」
リリィはその少年が気になった。なんか、他の人より身体が出来ているのが気になる。
「ねぇ、私の聞こえるかな?」
「あん? 誰だ」
「こらっ! お客様になんてな口を利くんだ!?」
奴隷商人が鞭を持って、牢屋の中に入ろうとするのをリリィは止めた。
「いい。許すから静かにしてくれますか?」
「は、はい」
「心が広い奴だな。貴族はどれも威張っているような奴らなのによ」
「ふふっ、それが普通かもね。で、教えてくれるかしら? どうして、他の人よりも鍛えられているのかな? 私とあんまり変わらない歳だよね?」
「俺は7歳だ。自覚した歳から裏の奴らに鍛えさせられたんだよ」
「なっ! なんで、言わなかったんだ!?」
横から奴隷商人が話に割り込んでくる。奴隷商人は裏の仕事をする人に育てられたことを知らなかったようだ。
「うっせぇよ、俺はあのお嬢ちゃんと話していんだよ」
「貴様ーー「ねぇ?」ッ!?」
冷たい声にビクッと脚を止めてしまう。それから冷や汗が止まらなかった。
「私は静かにして下さいと言った筈ですよね?」
「は、はひ……」
相手は大人なのに、リリィは相手を凍らせてしまいそうな視線を向けていた。瞳は暗い場所だったことに、紅く光り心臓を突き刺すような力があった。その視線はむしろ、殺気に近い感覚を感じさせていた。
「二度と言いません。静かにして下さい。もし、また邪魔をしたらーーーーーーーー殺すわよ?」
「ひぃっ! す、すいませんでしたぁぁぁぁぁ!!」
慌てて、土下座で謝る奴隷商人。他の者はいい大人が子供に土下座をする姿に目を丸くするのだった。さっき話した少年に、イーナもだった。
「わかってくれたなら、いいですよ」
リリィは既に笑顔へ戻っていた。まだ土下座をする奴隷商人に興味を無くして、少年に眼を向けていた。さっきまで眼を丸くしていたが、今は元の表情になっていた。
「……ったく、何者なんだよ。さっきの眼、子供に出来ることじゃねぇ」
「ふふっ、そんなことはいいじゃない。あ、自己紹介がまだだったわね。私はリリアーナ・オリエント。ピチピチの5歳よ」
「ツッコミ所が多いな……。5歳って、俺より2つも下かよ。オリエントって、あの公爵だろ? 奴隷制度が嫌いなの」
「あら、知っているのね。それも裏で?」
「あぁ、俺は普通の子供じゃねぇからな……まぁ、お嬢ちゃんも普通じゃなそうだが」
「ふふふっ、決めたわ。貴方を買うわ」
リリィはこの人を買うことに決めた。値段を聞かずにだ。
「お、お客様……」
「ふふふっ、値段なんだけど、正規値段でいいよね?」
「ひぃっ、む、無料でいいですよ!!」
「あら、それは悪いからちゃんと正規値段で払うわね。イーナ! 幾らかしら?」
「はっ、はい。確か、この位の歳なら金貨5枚だった筈です」
「うん、払ってあげてね」
値段交渉は終わり、払いは任せて少年に向き合う。
「貴方は私が買ったわ。いいね?」
「はぁ……、いいね? と言われても、こっちは拒否権はねぇんだからな。構わねぇよ」
「うん、よろし…………あ、貴方の名前は?」
「ん、知らないのか? 奴隷の名前は買った人が決められるんだよ」
「あら、そうなの? うーん、ウルガでどう?」
「ほぅ、良い名じゃないか」
「狼のような力強い目に、良い牙を持っていそうだからね」
名前は単純である。ウルフと牙を弄っただけなのだから。それでも、気に入ったようで、ニヤッと笑っていた。
後、奴隷紋章の契約を結び、ウルガはリリィの奴隷になったのだった。
馬車の中に入り、リリィは思い出したと言うように手を叩いていた。
「あ、言うの忘れたけど、ウルガは私の執事として働いて貰うわね」
「はぁっ!? 聞いてねぇぞ!!」
「だから、今言ったんじゃない」
「……本当に何者なんだよ、このお嬢ちゃんは」
「ふふふっ、それは家に帰ってからね」
今は護衛もいるので、話せない。だから、馬車に乗っている間は簡単に執事としての仕事を教えてあげるのだったーーーー
まだ続きます。




