観察と誘導
「みょーりん待ってたよー」
中には貝塚さんと見知らぬ女性が一人。そして貝塚さんもは別に見知った顔の人が座っていた。
「あっ! お兄じゃん!」
僕の妹、秋月葵が指をさしてくる。血は争えないというよりも、僕がオカルトを否定したがるのに対し葵は瑣末な話をオカルトにするのが好きな子なのだ。
だから、このオカルト研究会に新入生が入ったと聞いて薄々居るような気はしていたのだが、ここまで来るとため息がでそうだ。
「貝塚さんの、勧誘に新入生が入ったって聞いて居るような気がしたんだよ」
「さすがお兄だね! その通り、オカルト研究会に入部しましたっ!」
「いっやあー、あおちゃんには感謝してもしつくせないよ」
「そんな、感謝だなんて私はただ入りたい部活に入部しただけですよ!」
そんなそんな、なんて言いながら僕の妹は手と首を器用に振る。
「オカルト研究会の部室って変わった場所にあるんだな」
部活の部屋は大抵何処かの教室で行われるものなのだが、それが警備員の宿直室と言うのは意外を通り越してどうかしている。僕は思った事を我慢できずに独り言のようにつぶやいた。
「そーでしょ! まあ、本来なら何処かの準備室を、借りて部活を、やるべきなんだけどこのオカルト研究会は不幸にも廃部寸前! 新しく出来た人気の部活にドンドン部活を奪われぇー。ここまで追いやられたのでさあ!」
貝塚さんは何時もの様に調子を上げて僕に説明した。
「それはそうと、ここは警備員さんにも迷惑かからないか?」
「迷惑をかけるって言うか、私たちの活動自体が警備員さんなしじゃ出来ないものだしー」
「そうだよお兄! チラシ見なかったの?」
「見たさ。学校探検だろ?」
「そだよー! 夜に行うにはそれなりに手続きも必要なんだよー。顧問が付き添うのは必須なのに加えてー。この学校の番人! 警備員さんの許可も必要なのよ! まあ、廃部寸前になって以降は顧問にも逃げられちゃったけど」
なんにも問題などないという風に軽く言っている貝塚だが、問題だらけの内容に僕は戸惑う。
「おいおいおい! そりゃ今日の探検無理じゃないか?」
「無理じゃない!そのために、君たち新入部員がいるんです!」
貝塚恭子の今日一番の横暴であった。その横暴に幾分かの怒気を孕ませ答えようとした僕に割って入る様に天草さんがさらりと言う。
「まあまあ、そこは私がなんとかするので気にする必要はないわ」
「さっすがー、あーりがーとー。みょーりーん」
このオカルト研究会部長は一度天草冥利の有り難みについて考えるべきではなかろうか。僕がため息を吐くのすら気に掛けない様子で貝塚は飄々と天草さんにお礼を言う。
この空気がまたいい気分のものではない。なにより女性が三人に男性が一人というのは肩身がせまい。
「それでは役割を分担しましょう」
勝手にドギマギし始めた僕の意識を裂く様に言ったのは貝塚恭子に抱きつかれている天草冥利だった。
「采配は、みょーりんにまかせたー!」
ばたばたと両手両足を動かす貝塚さんその動きはあまり宜しくない。
「きょーちゃんその動きはパンツが見えるからやめたほうがいいわ」
「わかったよー」
しょぼくれる貝塚さんを余所に天草さんは二手に分けはじめた。