観察と誘導
全ての授業の終わりを告げる予鈴を聞いて僕はカバンを手に持つ。隣にはオカルト研究会部長、貝塚恭子。
先ほどの話の流れならば僕もオカルト研究会へ行かなくてはいけない様であるが、僕はまだ正式な部員ですらない。天草冥利との対決を済ませればそれでいいのだ。
彼女にここまで掌で踊らされる事に対して屈辱と言うものを身を以て味あわせられるとどうにもたまらない気持ちになる。
僕の心もそうだが、ぶっちゃけると何より体が現在この隣の女性と同じ場所に居たくないと訴えている。
「秋月くん先行ってるねー!」なんて呑気な言葉を残して先行して行った貝塚さんを教室から見送った僕はしばらくまって教室を出ると、下足場の方へと足を進めた。
僕は捻くれ者だ。だが約束は守る。
勿論、僕なんかのために涙を流した天草冥利の提案と対決に関しては守るつもりだ。だが、その副次的産物のオカルト研究会への入部に関しては全く話を聞いていなかった。これは僕としては守らなくてもいい内容である。
そもそも初対面の人に話しかけられて了承するほど僕は優しい人間ではない。何よりもお願いされてないし。
下駄箱から靴を出し下足場を後にしようとガラス扉に目を向けるとそこには僕をしっかりと見つめる天草冥利が立っていた。
「禊くん。ちょっとお時間いただけるかしら?」
「どうしたんだい? こんな所でまってるなんて珍しいね」
何時もならば取り巻きの女子又は男子と一緒に帰っているはずの彼女が珍しくも一人で下足場に僕を待っていたのだ。珍しいという言葉は素直に心から喉を通り口から出た。
「今日は帰ってもらいました。今日から私を拘束する者は、禊くんかきょーちゃんしかいません」
微笑する美少女にドギマギする。
「そうなんだね……そうは言っても僕はまだ天草さんとの勝負に勝ったわけでもないけれども」
「勝っても負けても結果は一緒よ」
「一緒な訳ないだろう。もし僕が勝って天草さんから僕に近づく事の禁止を提案したら変わると思うけど」
「確かにそれを提案される事は想像してなかったわ」
本当にしまったという表情を露にする天草さん。彼女にとって勝敗そのものを見ていない事を今回の僕の発言より察する。
「その発言にはびっくりなんだけど、それはそれで置いておいて天草さんはなぜ僕を待ってたんだ?」
「それはそれなんてひどい言い方だけど、まあその事については卒業後にでもゆったり話すのもいいわね。待ってた理由なんて簡単よ……これから卒業までの時間は短いわ。なんてったって私達は受験生なのだから、ならその短い期間で簡潔に勝敗を、決するなら私について来ればすぐに終わるツアーがあるのだけどどうかしら?」
「それこそ愚問な事を聞くんだね天草さんは」
僕の言葉の裏に潜む感情に、天草さんは気づき唸り声をあげる。
「うーむ。本当に君は難儀な性格をしているね」
「悪かったな。一年も話していれば慣れるものだとおもったけど、やはり僕の性格に慣れる人なんていないんだって事がわかったありがとう」
「禊くんまったく何の感謝なんだか。まあ、君が頑なに拒絶する理由を、わからない私ではないわ」
「そりゃそうだろうね」
こうやって言葉を交わすより前は僕の心を覗き見て会話を乱暴に成立させていたのだ。今更疑問にすら思わない。
ならば僕の意思を尊重してもらえると嬉しい。だがそれを許さないのが天草冥利と言うもの人物なのだ。
今日の出来事で彼女に反抗し続ける無為を知った僕は半ば納得のいかない心をどうにか変化させて聞く。
「……僕はとりあえず天草さんに、ついていけばいいのか?」
天草さんはにんまりと笑う。
「その通りよ」
「わかったよ。君に従うよ」
「ありがとう禊くん」
そう返すと天草さんと僕はオカルト研究会の部室へと足を運んだ。
学校へは来て授業を受け帰るだけの行為しか行っていないから、何部が何処にあるかという詳しいものは全く知り得ない僕だが、今回は案内をしてくれる人が居る。
僕は天草さんについて行き、一階の警備員宿直室へ案内された。
扉を前にして平然と開けようとする天草さんを呼び止める。
「ちょっとまってくれ天草さん。ここは部室とは言えない場所ではないか?」
「そうね、初めて来るとそう言う反応をするのも頷けるわ。私もそうだったもの。でもここがこの学校のオカルト研究会の部室なのよ。まあ、理由についても中で説明するから入って」