入り口
日常のどこにでも隠れているもの、それが怪異である。これは怪異と不思議な縁を結ぶ少年と、それを取り巻く少年少女のお話。
人は皆何かしら傲慢なところがある。
それは偏に神様が与えた人間の欠点とも言える。
このはなしは不幸にも僕が天狗のお姉さんに見初められる所から始まる。
一方的でそれも無宣言に。
◆◇ ◇◆
遡る事1年前。僕ーー秋月禊がまだ受験生として苦悩する日々を送っていた時まで巻き戻る。
当時の僕は、受験生という名目を盾にあらゆる事から手を抜いていた。クラス内の人間関係。学校行事。そしてこの学校に入学した理由に至ってそうだ。
しゃべる事が億劫で、人との距離を置いて、行事で巻き起こる熱狂を傍目でみる。これが僕の日常だ。陰気な奴だと思うだろう。
正解だ。僕はこの学校の中にいる誰よりも陰気である。
クラス連中には「何を間違えたらこの様な陰気な性格になるのか」ーーなんて問いが投げかけられた事もあった。そう言う奴にはこう返している。
「お前は自分の選択が常に正しいと思えるほどにできた人間なのか?」
「お前は自分の性格が良いと思っているのか? 僕の陰気はこの優しさのない世界から守るためにあるのだ」
そう自身の頭の中で答えるのだ。
それが伝わってたのかそれ以降はそんなくだらない質問も、構うものもいない。
その様に振舞っていても例外となる物好きな人はいる様で、天草冥利はその中の一人である。
「君は昼休みだというのに机に突っ伏して不健全な学校生活を続けるのね」
その声に僕はあげたくもない顔を上げさせられる。
黒く長い艶やかな髪をポニーテールにした彼女は、建前もない本音を僕にぶつける。その眼は澄みきった綺麗な茶色をしていて、どこかすこしキリッとしている。一言で表すなら塀の上にたつ猫の様な凛々しい佇まいである。
天草さん。あなたクラス違うでしょ。
「何? 今は昼休みよ。クラスを指摘されるいわれは無いわ」
声に出す前の僕の思考に彼女はそんな返事を返してきた。