92.現状確認
なめんなよぉ!
※一部台詞を修正しました
ちょっとした出来事はあったが、頭領全員が復帰したため話は進行していた。
「本題に入る前にワシが居なかった数日間で何か変わったことはなかったかの?」
頭領各々が顔を見合わせながら何やらサインを出し合う。最後には一人が観念したかのように口を開いた。
「雲を見ただろ?」
バダにそう聞くのはカチューシャのような白いヘッドバンドを着けて擬似オールバックを作り上げているドワーフ、四番口のスー頭領である。
「ウー頭領が島を出てから【例の音】が強くなり始めたんだが、それと同時期にあの曇天が発生したんだ」
「噴火が起きたのか?」
バダの質問にスー頭領が視線を下に下げる。それが答えを示していた。
「原因は不明。しかも日に日に増えているんだな、これが・・・」
お手上げお手上げと、手を降りながらスー頭領は肩を竦める。
「このままじゃぁ、国を出ることに・・・」
ボソリと呟いたのはパー頭領の隣に座る一際小さなドワーフである。いや、背は他と変わらないのだが自ら縮こまるように座っているためそう見えている。
泣き出しそうな弱々しさすら感じるが、彼も頭領の一人であり六番口の責任者、ロゥ頭領である。
「か、火山が死ねば僕らも死にます。ほ、他にも原因不明の雲まで出てきたとなるといよいよ・・・」
見た目通りの小心者なのか既に何処か諦めていた。
「ロゥ頭領よ、あの雲が原因で何か起きたのか?」
「うっ、いえ、まだ何も・・・」
「ならば――――」
バダがロゥ頭領に食って掛かりロゥ頭領はビクヒグしながら受け答えするが口ごもっている。
そんなバダを止めるようにバンッと机を叩く音が響き渡る。
「ウー頭領、問題はそこではないだろう」
ウー頭領を止めたのは鼻眼鏡をかけたドワーフで、七番口のチー頭領だ。
「お前も既に見ただろう。あの雲は少しずつ広がっている。
島の中、特に六番口のほとんどはあれのせいで昼夜問わず暗闇になりつつあるのだよ」
チー頭領の言葉を受けてバダはサン頭領の方に顔を向ける。
それと同時にサン頭領は軽く縦に頭を降った。
「そして今の勢いであれば残り数日で国の半数が覆われる。一週間もあれば・・・」
その後の言葉は必要ないだろうと言わんばかりにチー頭領は話を終える。
国の一大事、今後の最悪すら想定しなければならない状態に空気が自然と重くなる。
「バダ!」
頭領間においてバダを唯一名で呼ぶ者がいた。彼は下積み時代から共に励み、時にはぶつかり合った親友である三番口のサン頭領である。
「俺は他の頭領方を待つ間にイー頭領、クー頭領と先んじて話をさせてもらった」
サン頭領は話を区切ると目だけでイー頭領とクー頭領に視線を送る。
それに気づいた両頭領だが反応は同じでも雰囲気は異なった。
イー頭領はやれやれ仕方ないという雰囲気で頷き、クー頭領は力強く頷く。
それを確認したサン頭領はバダに目線を向け直す。
「俺たちに三人、一番・三番・九番の各頭領は―――」
一拍おきサン頭領は呼吸を整える。
「バダ、お前を全面指示する!」
「お、ん? ふぁあ!?」
言われた意味が理解できずバダの顔が変顔よろしく崩れる。
「ど、どういう意味じゃ!?」
「俺たち三人が事前に話した内容は一つ、お前が【未だに意見を変えていないか】
二つ、お前が連れてくるであろう人物が【実力】を備えているか、だ。
そしてそれらをクリア出来ているならばお前を中心に、現状打破させるために全力で支援をしようとな」
「な、ならばイー頭領が始めに当たってきたのも、クー頭領が無礼を成したのも?」
「そうだ。お前とそちらの方たちを見極めるためだ」
この異常事態の最中、頭領同士の争いや身勝手な行為、足の引っ張り合いなどといったしょうもない理由で国を追われるのだけは避けるために事前に話をしていたのだ。
そんな彼らの中でも誤算があればクー頭領の奇行と、それをモノともせずに逆にやり返したレオの存在である。
ただしレオに対しては嬉しい誤算。
「他の頭領はどうだろうか?」
バダを除くとして頭領の半数、五人から指示を貰えばバダを仮のリーダーへと確実に推せるようになる。
既に三名の指示を得ているため残り二名を得ようとするために各自に意思を聞いているのだ。
「私は皆さんにお任せしますよ」
「ワシはウー頭領を推そうぞ」
チー頭領は意見を保留にし、リャン頭領は賛成に。
「ぼ、僕はウー頭領をリーダーにするのは反対ではないですが、国民を優先してください」
「リーダー云々は任せるわ。だけど依頼内容は変わるだろな」
「そうね、総長も大事だけども国と天秤には変えられないものね」
ロゥ頭領、スー頭領、パー頭領が続けて話を繋げる。
「う、うむ。皆の意見はり、理解した。つまり・・・」
バダも知らぬところで国の危機にすら発展しかねない事案が増えていることに頭の中はオーバヒートしていたのだ。
「つまりやることは変わらないってことだろ?」
案がまとまらないバダの肩に手を置きレオが告げる。
「そうですね。どっちみち私たちで火山の深部へ向かうわけですし」
「ドワーフの皆さんはその間にやれることをやってくださればいいですよ?」
レオに賛同しつつ、エリカとレイが補足する。
「なんでどいつもこいつも国の偉いやつらは簡単には考えれないだろうなぁ~。
俺らは依頼を受けたんだから任せてくれればいいんだよ」
「あんた、なかなかの啖呵っぷりだねぇ~」
パー頭領が口を挟む。その目は腕っぷしを未だに信じていない、というより半信半疑であると言っているようであった。
そんなパー頭領の目の前へレオがゆっくりと歩き、指先でパー頭領が使用していたワイングラスに軽く触れる。
パチンッとキーンという異なる音が同時に響くとレオはそのまま何もせずに元の位置へと戻った。
「ん?なんだい? 何かするかと思いきや拍子抜けだね」
レオが触れたグラスを手に見ながらパー頭領が蔑むように呟く。
何の変化も起きていないグラスを手に取ったパー頭領はその時初めてレオが何をしたのか理解した。
「お、重い!」
さっきまで喉を潤すために使っていたグラスが今は持ち上げることが出来なくなっていたのだ。
そんなパー頭領の目に小さな魔方陣が目に入った。それは正しく刻印を意味していた。
「これで満足か?」
笑みで問いかけながらもレオの顔はいつもの気楽さが抜け落ち、無表情に近い笑みであった。まさに目が笑っていないのである。
「ひっ!」
笑みを向けられたパー頭領は蛇に睨まれた蛙のごとくを身動きが取れず小さな悲鳴を上げることしか出来なかった。
そしてそれはバダを含むすべての頭領が同様であった。
笑顔とは本来・・・