91.大討論室
頭領集結!!
レオたちが頭領治館に着いたのは約束の16時から20分ほど過ぎた後だった。
バダが急ぎ受付へ戻ったことを報告すると、受付側も安堵の表情を見せ大討論室に全員集まっている旨を伝えた。
「かなり遅れてしまっておる。
もしかしたら機嫌を害しておるやつもいるかもしれぬなぁ」
独り言のように呟くバダは少しばかり胃に痛みを感じつつ、レオたちと共に大討論室前まで到着した。
「この部屋に他の頭領たちが既に待ってくれているそうじゃ。
中に入ったあとは最低限の礼儀作法さえしていれば、あとはワシが指揮を執るのじゃ」
レオたちに一言添えて両開きのドアにバダは手をかける。
軽い深呼吸の後、「いくのじゃ」と自らに言い聞かせるように呟くと扉を開く。
「五番口頭領バダ、失礼するのじゃ!」
扉の先には既に8名のドワーフが座っていた。
10mはある木で作られた立派な長机には真っ赤なテーブルクロスが掛けられいる。そこに左右に5つずつ、一番奥に一つ、計11の椅子が並べてあり、席ごとにワイングラスが用意されている。
まさに今から晩餐会でも行われるかのような雰囲気であった。
その中の一人、扉から一番遠く左側に座るドワーフが声をかける。
「ウー頭領、遅かったな。もうリャン頭領も着いてるぞ」
「申し訳ない、イー頭領。ゴタゴタがあり少し遅れたのじゃ」
一番口のイー頭領により険悪なムードを漂わせ始めた二人の間に「まぁまぁ」と一人のドワーフが入り込む。
イー頭領の向かいに座り、この中では一番年老いたドワーフだ。
白髪が目立ち始めたそのドワーフは二番口のリャン頭領である。
「ウー頭領は一番遠くのワシを気にして遅く着たのであろう。
スムーズに引き継ぎが出来たゆえ16時には間におうたがそうでなければ16時半は過ぎていたからのぅ」
リャン頭領もバダの次に皆を待たせた人物である。
だがリャン頭領の場合は距離の関係上仕方がなく、加えて急な召集である。もし言葉通りスムーズな動きが出来なければ最悪あと一時間は集合が遅れていた可能性すらある。
「それに、ワシらはウー頭領が真面目な人物であると知っておるはずじゃろ?
だから【此度の件】の使者を彼に任せたのだから」
リャン頭領の言葉にイー頭領が口をつぐむ。
ウー頭領を使者として出す案は頭領全員の裁決にて決められたがその時の賛成派にイー頭領も居たからだ。
今ここでリャン頭領を否定すればウー頭領を信じて使者に賛成した過去の自分を否定することになる。
それは人としても、頭領という立場としても今後の信用問題に響く大きな問題になりかねないため迂闊に言葉を出せなかった。
「遅れたことに対しては何も言わないわ。
でも少し、帰還が早いのではないかしら?」
次に声をあげたのは入り口に一番近い席の左側に座り、左右に三つ編みとピンクのリボンを着けたドワーフ、八番口のパー頭領である。
「パー頭領、それには事情が・・・」
「事情ねぇ~。
ワタシは彼を使者にする裁決で反対した際にも言ったけども彼は真面目ではあるけど肝心なときに肝が据わらない時があるわ」
パー頭領はバダが頭領になる前、先代の総長の時から頭領であった。バダも一度だけその下で働いたことがあったりする。
「思うに海を渡りきる前に引き返してきたのでしょう・・・」
落胆するように言葉を続けるパー頭領の顔には、やっぱりねとハッキリ書いてあった。
「違うわい! パー頭領、ワシはキチンと務めを果たしておる!」
そういうと扉の影で見えていなかったレオたちを部屋へ招き入れる。
「この者たちが依頼を受けてくれる者たちがじゃ」
レオから順に中へと入っていく。
「人間?」
「エルフの国に行ったのでは?」
「なんだかひょろいなぁ」
「・・・」
続いてエリカとクレイが続く。
「女?」
「あの黒いの魔族か?」
「あの鎧は・・・」
「おぉ、男前だねぇ~」
最後にレイが入ると場が騒然とする。
「「「「妖精!?」」」」
ようやく全員の意志が一致した瞬間だった。
「なるほど、妖精がいれば・・・」
「いや、だが妖精だけでは・・・」
口々に近くの頭領と話を始めていく。
「ごほんっ!!」
一際大きく咳払いをしたのはバダだ。
「各頭領たちの意見はあるとは思うが彼らを見くびるのだけはやめてもらいたいのじゃ。
その実力はワシが保証する」
皆が一斉に口を閉じる。だが、すぐさま誰かの口が開こうとしたとき唯一一言も声を上げていなかったドワーフが立ち上がる。
「「く、クー頭領?」」
何人かがが不安そうに声を上げるが、それを無視して九番口のクー頭領がレオの前に立ち一言もなくスッと右腕を差し出した。
握手を求めように。
レオはクー頭領の腕を見る。すると右腕だけが異常に発達していた。
まるで左腕の筋肉すら右腕に集めたかのようである。
「・・・」
レオはクー頭領の目を見る。真っ直ぐレオを見据える目は力強く、何かを見透かす勢いである。
そんなクー頭領に軽く頷き拍手に応じる。
「・・・ふん!」
手を合わせた瞬間、クー頭領が力の限りレオの手を握りつぶす。
「貴様、何を!」
「クー頭領、何をお考えか!?」
クー頭領の行為にクレイが真っ先に牙をむき、それに続きバダが慌てて真意を聞き出す。
だが、クー頭領は聞き耳持たず更に力を増し続けた。
「殺す」
クレイの右手があがる。手刀にうっすら魔力を乗せその威力を高め、薙ぎ払うように横一閃が光る。
「クレイ!!」
クレイの手刀がクー頭領の首を刎ねる前にレオが声だけでクレイを止める。
まさか主本人から止められると思っていなかったクレイは困惑した表情を見せたがレオの真剣な顔を見るやすぐに後ろに下がった。
「れ、レオ殿・・・」
未だバダだけが不安そうにレオを見つめていた。
「大丈夫大丈夫、ほら」
レオの示す先にはクー頭領に握られたレオ自信の右手があった。
クー頭領の渾身の力で握られた手だったが無傷である。
よく見れば魔力を帯び、それにより一切力が通っていないようだった。
「次はこっちからお返し、だな!」
レオは右足に重心を乗せ、踏み込む要領で力を加えクー頭領の腕を握り返す。
床が抜けるのでは、と思えるほどの踏み込みと共に握ったのも一秒あるかどうかであるが結果は目に見えていた。
クー頭領の腕には鬱血したようにレオの手が跡としてくっきりと残されていたのだから。
「・・・よい」
クー頭領は一言それだけ口にするとレオに頭を下げて自分の席に戻っていった。
「う、うむ。こ、これでレオ殿の実力も垣間見えたであろう。
さて、本題に入ろうかのぅ」
どうにか平静を装ってバダが進行を続けようとしたがクー頭領を除く全ての頭領があんぐりと口を開けたままであった。
その時のレオたちは知るよしもなかったが、クー頭領は全ドワーフの中で腕っぷしだけならば並び立つものがいないとまで言われる人物だった。
故に頭領たちの反応は致し方ないのであった。
レオの貴重な(近接)戦闘?シーン