81.短い旅路
久々にあいつが!?
「ふむふむ、なるほどのぉ~」
「どうだ?」
「いやはや、レオ殿は面白い考えをするわい」
とある部屋の中、レオとバダが何やら話をしていた。
部屋自体は対して大きくなく、机と椅子が2つあるだけのほんとに小さなもので、見方次第では取調室にも見えなくない。
そんな部屋の中でかれこれ一時間ほど二人はあーだこーだ話をしているのだ。話のネタはレオが取り出したガラジュウムで作られた刀である。
「刀、と言ったか? 通常の剣は両刃に対し片刃という点、さらにこの刀身の細さと長さ。今までワシらが作った剣とは異質じゃ」
「刀は斬撃を基本とする武器で、一撃必殺というイメージ。
両刃は逆に斬撃もあるがどちらかといえば鈍器に近いだろ?」
「そうじゃのう。そも斬撃だけをメインに置けば両刃は直ぐに変形する可能性もある」
そんな中、ドアを叩く音が響く。
「どうぞ?」
扉を開けて姿を見せたのはクレイだった。
「主様、陸地が見えて来ましたので報告に上がりました」
「お? やっとか、わかった。サンキューな」
「では、私はこれで」
一礼してクレイは扉を閉じる。
「また詳しい話は後で、になりそうじゃの」
「あぁそうだな」
二人は立ち上がり外へと向かおうと動き出す。
「それにしても・・・」
バダはレオを見ながら、呆れと尊敬が入り交じった複雑な感情を向けながら現状を思い返す。
レオたちが今いるのは船の上である。バダとの依頼を受理してから港に着き、難なく船を出せたのだがボルバック諸島まで最短でも3日の船旅になると聞かせる。
この世界にはエンジンなんて物は存在しない。故に船も帆と潮の流れで進むため時間がかかるのである。
それを嫌ったレオが船旅を始めて半日で魔石を使った簡単なエンジンを作り出す。
風の魔法を使ってプロペラを回す、いわゆるスクリュー付きのエンジンである。
「まさか、船に乗り1日半で国に戻れようとは思わなんだわい」
一人小さく呟く。
「ん、どうした?」
「いや、なんでもない。 それにしてもお主の発想には驚かされてばかりじゃな」
「まぁ俺自身が一から全部考えた訳じゃないけどな」
小さく笑いながらレオはバダに返答しながらブリッジに向かい出しバダもそれに続く。
ブリッジに出た二人が初めに見たのは厚い雲に包まれた空だった。暗雲というほど悪天候ではないが、灰色で全体を覆われ青空は見えない。
そんな悪い天気の下には大小さまざまな大きさの島々が密集していた。
「どうやら本当にボルバック諸島に着いたようじゃな」
「みたいだな。それにしても天気が悪いなぁ」
「ほほほ、それは致し方あるまい。 何せボルバック諸島は巨大な活火山、噴火時に出た灰や煙が雲と混ざり合いさらに巨大な雲を作り出す」
自慢するように喋りだすバダをレオは「自慢にはならないだろぉ」とか思いながら聞いていた。
「ですが、それならばいつもあのような雲が張り付いているのか?」
話に加わってきたのは二人を見つけて近寄ってきたクレイだ。
「さすがにいつもではないの。噴火が一週間近くなければそれから自然と消える。まぁ噴火が重なれば一月以上日を拝めぬ時もあるがの」
「だが、確かここ最近は噴火がないはずだろ? 火山の機能が停止したんだから」
レオに指摘され、バダはようやく疑問の表情を浮かべる。
「確かに、ワシが国を出て4日近く経つ、何か進展があったのやも知れぬな・・・」
厚い雲に対し何から考察をし出したバダを横目にレオは別の問題を抱えた人物の所に向かった。
「大丈夫か?」
「ふぁひぃ・・・、な、にゃんとか」
レオが向かった先にはエリカが仰向けで倒れ込んでいる。シーツ代わりに長めのタオルを敷き、目元には手拭いをアイマスクのようにつけていた。
「全然大丈夫そうには見えないな」
「これでも良くなった方なんですよ?」
レオの言葉にエリカの代わりに答える声を聞きレオその場で振り返ると、新しい手拭いを持ったレイがいた。
「あれ? キューレはどうした?」
「あの脳筋でしたらエリカさんが倒れてレオ様から看病をいいつけられて直ぐに引っ込みましたよ・・・フフフ」
どうやら自分が嫌だからとレイに丸投げして引っ込んだキューレに怒っているようで口元には笑みが浮かびながらも額と目には明らかな殺意が浮かんでいた。
「ま、まぁ予想はしてたがまさか何もせず丸投げしていくとは思ってなかったわ・・・」
「うぅ、ウップ」
レオたちの声の大きさに当てられたのか、エリカの顔色が少し悪くなる。
「おいおい、本当に大丈夫か?」
「大惨事にはならないように回復魔法は掛けましたから大丈夫ですよ」
「ん? 別に通常回復じゃなくて状態回復を使えば良くないか?」
「それだといつまで経っても船酔いに敗ける体になりますからね。克服させるためです」
「これも修行か・・・」
今もなお苦しさの中をさ迷うエリカにレオは心の中で合掌する。もう少しの辛抱だぞ、とエールを贈りながら。
「さてもうすぐ陸に着くからみんなも降りる準備をしといてくれ」
「レオ様に言われなくともレオ様以外の皆さん、とっくに準備を終えてますよ?」
「え? あれ?」
「ドワーフの方と何を話されたかは知りませんが夢中になりすぎのも考えものですね~」
「は、はい。すみません」
「ではさっさと準備してください!」
「はい」
とぼとぼと船内に戻ろうと歩き出すレオにレイが追い討ちをかける。
「駆け足!!」
「は、はい!」
パンパンと手を叩きながら煽るレイに、レオは姿勢正しく行動訓練のような駆け足で船内へと消えていった。
そんな光景を見つつエリカ、クレイの二人はレイに対し「まさにお母さん(奥方)」と思うのだった。
これはみんな逆らえませんわぁ