表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で最強底辺な俺の気ままな武器貯蔵  作者: 津名 真代
第三章 ボルバック諸島国
80/125

78.今と昔

思いでは彼方に

昼食を摂り終わり、さぁ午後から修行再開だ!と意気込んでいたエリカだったが、その意思は呆気なく砕かれる。


「ちょっと試したいことが出来たから部屋に一旦籠るわ」


レオが開口一番、そう言い放てば━━


「ならあたしはクレイと道場で邪気関連の修行だな」

「御意」


と、キューレはクレイを引き連れて二階に上がっていく。


「え? ちょっと・・・皆さん!?」


一人残されたのはエリカだった。

仕方がないのでエリカは一人、外で自主練することにする。


「なんですか、なんですか! 私だけ除け者にして!」


ぷりぷりと怒りながらも、今ではすっかりお馴染みになった武骨の鎧と剣を装備し、外へと向かう。

荷馬車から降りたエリカはガシャガシャと足元から聞こえてくる音に少しばかり不機嫌さを増す。

ウェルフィナ国の国境付近であるこの街路は、名ばかりで特に舗装もされていない砂利道なのだ。要因の一つは簡単で、ウェルフィナ国とドワーフの国であるボルバック諸島国は貿易が少ないからだ。

だが決して険悪の仲ではないことはエルフの国を見た後ならば少なからず理解できるだろう。

ならなぜ貿易が少ないかといえば、エルフ側の問題になる。

エルフは自然と共存することを望む種族であり、それはつまり、妖精たちと共存することである。

そして妖精は血肉を争いを好まないのだ。生存競争ならばいざ知らず、戦争を企てるようなことがあれば彼らは軒並みウェルフィナ国から去ってしまう。

よって国自体が武器に成りかねない全ての輸入に制限をかけているのだ。


「と、事情は知っていますし荷馬車には振動は来ませんけど修行には不向きなのは事実なんですよね」


嫌気のような、諦めのような愚痴と一緒にため息までつく。

そんなエリカだが、ふと、潮の香りを感じる。微風に運ばれてきたそれらはレオたちの中間目的地が近いことを知らせていた。


「もう、海が近くに感じられるぐらいの位置まで着ていたんですね・・・」


エール王国は内陸部に位置する国のため、エリカ自身が海を見たことあるのは片手で数えれる程度である。


「懐かしい・・・ 父様に小さいときに連れていって貰った時を思い出します」


まだエリカが二桁になる前の歳に合同家族旅行と称した他地方軍事訓練のために港町に出掛けていたのだ。

一週間の日程で移動を除き、約5日間を港町で過ごす。兵士たちはそのうち3日を水辺や砂浜などの普段味わえない地理的不利の危険さを理解する訓練を行う。

そして残り2日を家族との慰安旅行に当てるのである。ちなみに家族の衣食住はすべて国がサポートする。

これが年中、国のために勤める兵士たちへの国の感謝の気持ちを示した結果であった。


「今だからこそあの旅行には大きな価値があったのだとわかりますね」


昔を懐かしむ中、いつの間にやらイライラは消え去っていた。


「よし、精神統一も出来ましたしやりましょう」


気持ちを新たに行動を開始しようとした瞬間に、遠くから何やら声が聞こえてくる。


「・・・か、・・・けて!」


それなりの遠さから響くように聞こえてくるその声には余裕は感じられない。

不吉な予感を感じエリカは今度は耳を澄ませ集中する。


「・・・れか、た・・・けて!」


重低音とまではいかないが低く男性の声だとわかる。


「だ、誰か、助けて!」


今度こそしっかりと声を拾えた。エリカはすぐに臨戦態勢に移行し、柄に手を添える。

声が聞こえた先は自分のいる場所から港町向かう街道から少し離れた小高い丘の方だ。


「たしか、あの辺は魔物の森があったような・・・」


魔物の森、これ街道から砂利道の要因の一つである。

本来であれば森を突っ切れれば半日から1日は移動時間を短縮できるのだが、魔物の数が他と比べ異常に多く生息しているため、遠回りを強いられるのだ。

只でさえ頻繁には使われない道でありながら、魔物の生息地域の道を塗装しようとすればそれだけ護衛や危険度により金銭がため、今では事実上の放置区域である。


「だ、誰が~、だ、、頼む"ぅ~!!」


男性の声は先程より必死さが増していた。息も絶え絶えなのだろう、考えている余裕などはなさそうだと判断しエリカは丘へと走り出す。

丘に近寄ると助けを呼び続けることともにドシドシという音が重なっているのに気づく。かなり重いものがそこそこの速さで移動しているのを瞬時に理解する。


「こっちです!」


未だ助けを呼ぶ本人の姿は見えないがエリカは声をあげる。

ここまで来れば十分に声が届くと確信したためだ。


「ほわぁ!」


エリカの声に反応し必死の思いで丘の上から男性ドワーフが転げるように落ちてくる。

エリカはすぐさま駆け寄ると安否を確認しだす。


「大丈夫ですか? いったい何が?」

「うぬ、お、お主・・・ い、いかん! 逃げるのじゃ!」


ドワーフの声は一足遅かった。

二人の頭上からドシドシと音が響くと一本角の鬼が下卑た笑みを浮かべて丘上から覗き込んでいた。


「あれは!?」

「サイクロプスじゃ。 ワシが囮になる、お主は早く逃げるのじゃ」


ドワーフの言葉を理解したのかサイクロプスは大きく跳び跳ねると自身と丘を使って完全に二人の逃げ道を奪うような形をとる。

ドワーフの「してやられた」と焦燥感を浮かべる表情を喜ぶように下卑た笑みの深みを増す。


「すまぬ、ワシのせいでお主をこんな目に・・・ すまぬすまぬ」


完全に生きる希望を捨てるようにへたりこむドワーフはエリカに謝罪を繰り返す。


「そこに居てくださいね」


それは小さくも力強い声。

戦意喪失したドワーフを現実に返すほどのその声と、サイクロプスに向かうその背には無条件に信頼を寄せられる何かがあった。


「サイクロプスは二回ですね・・・ ですが━━」


剣を納めたままだが束はしっかりと握り何時でも放つ準備をエリカはしたままサイクロプスに近寄る。

下卑た笑みのままサイクロプスはエリカを観察するが、自身に恐怖を感じない所か興味すら無さそうに感じる態度にムカつき、醜く唾を撒き散らしながらエリカに力をいっぱいこん棒を降り下ろす。


「あぐっ!?」


ドワーフの短い悲鳴が響く。

彼から見ればエリカが無抵抗のまま地面の染みに変えられていたようにしか思えなかった。だから咄嗟に目を瞑んだのだ。


━キーン━


甲高い音が響く。その後、ドサッと何かが重い物が落ちる音が聞こえた。

恐る恐る目を開けたドワーフが見たのは、剣をすでに納刀したエリカと首なしになったサイクロプスだった。


「な、なんということじゃ・・・」

「さぁ早くここから離れましょう」


座り込んだままのドワーフの手を引きながらエリカは提案し、ドワーフは頷いて答えたのだった。

着実に強くなっていますよ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ