75. 憤怒
切り札は最後の最後まで残すもの
【聖喰】を発動したままキューレは目の前に迫り来る光槍を掌で受け止める。白と黒の力がぶつかり合いせめぎ合うが、白は少しずつその光が弱くなっていく。
よく見てみれば厚さ1cmもない聖喰により完全に槍は完全に防がれ手にまで届いていない。
そうこうしているうちに左右から巨雹と刃嵐がキューレを襲う。光槍に構ったままのキューレに直撃する。
レオを除く他二人が息を呑んだ。どう見てもただではすまない攻撃群であり、さらにキューレは最後まで何かをしたようには見えなかったからだ。
だがそこで見たのは信じられない光景だった。
雹と嵐に晒されたキューレに無数の氷柱や風刃に蹂躙されていたが傷一つ付いていないのだ。決してキューレが邪気により身を守っているわけではない。だがキューレの体に当たった瞬間、まるでガラスが砕けるように氷柱も風刃も見事に砕け散り消滅する。
「さすがに鬱陶しくなってきたな。こいつもいい感じだし、な!」
キューレは左右から攻撃を鬱陶しいの一言で片付ける。そして光槍が勢いすらなくなり始めた頃、容易く握りつぶすとそのまま右手を裏拳を当てるように右に振り抜く。それだけで刃嵐は本体ほど吹き飛び跡形もなく消える。
「足は、良し。テメェも消えろ!」
右足の麻痺が抜けたのを確認すると、最後の悪あがきのよう氷柱の勢いが増した雹に向かって邪気を纏わぬまま回し蹴りをする。くるっと一回転し再び元の位置に戻ったキューレの目には粉々になった氷柱が紙吹雪のようにキラキラ光る光景が映し出された。
「まぁこんなもんか」
キューレはパンパンと右足に残った氷の粒をはたき落とす。
観戦している二人はいったい何が起きてるのか理解が追い付いていなかった。今日ほど解説役がほしいと願った日はないかもしれない。実際、今のを解説できる人材がこの世界に何人いるかは不明であるが。
「『七星弾━赤・茶━』解放」
そんな二人を他所に状況はさらに動き出す。
今度は赤い球がキューレの頭上で割れると蒼炎の滝がキューレを襲う。それを合図に今度はいつの間にやら足元に出現した茶色の球が弾けると、キューレと蒼炎を取り込むように黒い岩のような筒が生まれる。
「『蒼火焔流』『柩封』」
柩に似せて作られた疑似黒曜石による封印魔法は蒼炎を取り込む。対人相手に使えば避難だけでは済まない。一生日陰の生活を余儀なくされるほどにえげつないコンボである。
疑似黒曜石の強度は魔力量に依存するが、恐ろしいのはそこではない。
この魔法の真価は、捕らえた相手の魔力を永遠に吸い取り、自己継続が可能なこと。つまり捕らわれた時点で死が確定しているのだ。だが、もちろん弱点もある。
「邪魔、邪魔! 邪魔くせぇんだよ!!」
柩の中から曇った声が、元気そうだが元気過ぎて困る奴の声が響き出す。
「おらっ!」
声と共に柩にヒビが入るとそこからあっという間に砕け散る。
「さすがに今のは危なかったか~」
「ぁたりめぇだ、殺す気か!」
柩が出てきたキューレの両手には【聖喰】が付与されていた。さしずめ、殴って無理やり壁を壊したのだろう。
そんなキューレにまるで軽いイタズラをしたように緩い声が掛けられそれに怒り気味に返す。
『柩封』の弱点、それはまさに耐久力だ。
魔力量に依存するため、使用魔力が低いとすぐさま壊される。だが高すぎると今度は外した際のデメリットが大きくなる。
死が確定しているといった理由は、あくまでも【封じることが出来たら】が大前提にあるのだ。
「あと、一つだな」
キューレの言葉の意味を皆が理解する。レオのもとに残ったたった一つの球体、黒の球のことだ。
「そうだな。さすがに疲れてきたからこれで最後にしよう」
ゴウッ!と音がするとキューレが既に目の前にまで迫っていた。
キューレは最後になるならと、掛け合いを放り投げ好き勝手しようと考えたのだ。いや、考えたというより考えるのをやめたのだ。
「とっておきだ『七星弾━黒━』」
迫り来るキューレとレオの間で黒い球がうっすら黄色を含み弾けた。
何が起きるかワクワクしていたキューレは直ぐにそれを後悔する。
目の前に広がったのは自身を包む闇だった。全方位全てが闇に包まれた空間、距離感どころか、自分が今目を開けているのかさえ疑ってしまうほどの暗闇である。
「はん! こんなこけおどしが通じるかっての!」
再び聖喰を発動させる。だが今回は先ほどとは違い、両手足に完全武装していた。
「魔王を嘗めすぎだろ《魔王の蹂躙》」
スキル発動と共に両手足の聖喰が液体から固体に変わり、光すら呑み込む漆黒の武具に早変わりする。黒曜石よりも黒く深いのに金属光沢にも似た鈍い光が見え、その武具の形たるや龍の手足にも似ている。
そんな見るからに終焉を呼びそうな力に加減を一切せずにただ目の前の闇を晴らさんがために蹂躙を開始する。
柩を壊した時のように爆裂拳よろしく連続殴りを繰り返す。感触は一切なく無理だと悟り、次に足技に移ったタイミングで急に正面から盛大な殺気と悪寒を感知する。
「なんだ・・・?」
どんなに今のキューレが本来より弱体化していたとしてもそう簡単に悪寒を覚えるようなものは少ない。それに今感じている悪寒は・・・
「あたしが死を感じてんのか?」
そんな小さな疑問を口にした瞬間、プハッと軽く吹き出す。
だが次の表情は決して優しいものではなくいつにも増してイライラと怒気を孕む憤怒の表情だった。
「ふっざけんな、ゴラァ!」
怒りと共に迫り来る盛大な殺気を迎え撃つ。
お、終わらないだと・・・!?




