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異世界で最強底辺な俺の気ままな武器貯蔵  作者: 津名 真代
第三章 ボルバック諸島国
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72.慣らし合い

激突!

レオの小さな溜め息。それが戦いのゴングになる。

小さな溜め息と共にキューレを観察しようと視線を強めた瞬間、その姿が視界から消えた。


「シュッ」


小さな、声にすらなっていない声がレオの耳に届く。音から予測される位置は左、だがレオの勘が右だと告げる。故に咄嗟に、反射的にレオは右足を退き体ごと後ろに90度反らす。

ピシュッという音が鳴るとレオの喉元、薄皮一枚が裂かれる。


「いきなり急所狙いとか・・・」


レオの喉があった元の位置には、手刀のように指先をピンと伸ばし、その上ご丁寧に練り上げられた邪気をその手に纏わせたキューレの左手があった。もし読み間違い右に避けていたならば・・・

レオがチラリと視線を左に向ければ能面のようなキューレの顔が真横に見れる。姿勢は先ほどよりも低く、体の大半をレオの左側に動きながらも左手だけが真っ直ぐ伸びている。


「一瞬でも遅ければ今ので終わりだったな、と!」


そんな戯れ言を叩きながらもキューレの左腕を掴まんと手を伸ばすレオだがすんでのところで取り逃がす。

キューレが左腕を引くのと同時に体ごと退いたためだ。

体勢を大きく変えることなく地面を滑るように後退するキューレの姿は、さながらバスケのディフェンス体勢に蛇のような俊敏性を加えたような動きである。

レオが【蛇のようだ】と感じたのはただ単に動きだけではない。

キューレの顔は、眼はいついかなる時でもレオに睨むように向けられているからだ。


「『七星だ━━」


距離を離したキューレにレオはすぐさま攻撃を仕掛けようと魔法を展開する。だがまたもやキューレを見失い、気づけば再び目の前に現れていた。


「(読まれてたか!)」


魔法発動の際の小さな隙。本来ならレオのように無詠唱による最高速の構築魔法は端から見れば隙なんて存在しないはずなのだが、一つだけその瞬間があるのだ。それは━━━


「魔法発現の一瞬を・・・?」


クレイはエティンとディラハンを基に生まれた魔獣であるため、魔法をメインで使うこともある。故に魔法師にとって最も嫌な行動も理解できる。それこそが魔法発現のタイミングだ。

魔法の発現、つまり魔力が魔法へと変わる一瞬とは魔法そのものにとって一番デリケートなタイミングであり、そこで何らかの妨害を受ければ魔法は失敗する。

とは言っても、普通は魔法を使えば使うほど、慣れれば慣れるほどその隙は無くなりやがては心配するだけ無駄なものへと変わる。

常人の魔法師であっても一秒未満、クレイやマナキスならば零コンマ5秒もない。ならばそれより遥か高みにいるレオであるならば、まさに無いに等しい時間である。


「だからこそ、より恐怖が増すだろ?」


まるでクレイの心を見透かしたようにキューレが無感情のまま声をあげる。

そのどこまでいっても感情の抑揚を感じさせない声にクレイだけでなくレオでさえ恐怖を覚えた。

硬直からの硬直で完璧な隙を作り出してしまったレオにキューレは低位からの膝蹴りを鳩尾に突き立てる。


「ぐふっ!」


レオが腹を抱える後ろに後退する。


「(かなりいいのもらったぁ)」


麻痺したかのように感覚が鈍い両手を見ながら冷や汗と共に安堵を浮かべる。

咄嗟に両手でキューレの膝を受け止めたことでどうにか事なきを得たが両手はしばらく使えない。道場の結界により肉体ダメージの一部が精神ダメージに移るとはいえ、邪気を纏ったキューレの一撃を両手で防いだのだ、折れていないのが奇跡に近い。


「手加減が上手くなってるじゃないか」


内心ではどうしようかと思いながらも変わらぬ態度を取ることにしたレオに対しキューレは既に追撃を開始していた。

超近距離での攻撃体勢に移行したキューレは離された距離を瞬時に取り戻し無数のフェイントを含めた四方八方からの攻撃群をうみだす。

達人が生み出すフェイントは残像を作り出し、あたかも本物と同等の気配を発生させるという。キューレはそれを無数に、さらには同時に発動したのだ。

今のレオには千手観音のごとき攻撃群が目の前を覆っているだろう。この中から無数の虚実を見抜き、たった一つの実像を見つけ出さなければならない。

何故ならばその全てが急所や致命傷になりうる部位を狙っているからだ。


「(さぁどうするぅ?)」


表情には決して出さずともキューレの内心は楽しさを愉快さを嬉々として堪能していた。


「(もっとだ、もっと!)」


無数の虚実の中、キューレの本命は喉元だった。一度の奇襲は破られる予感がしてはいた。だから敢えてそこを選んだ、このときのために。

一度目を念頭に置こうとも心臓や目や金的などを同時に攻撃されれば見抜くのは困難だと思ってのことだ。

ただ、常人相手ならば無数の虚実が急所を狙ってくる光景を見ただけで失神してしまうだろう。つまり過剰な行為なのだ。

そんなこと露とも気にせずキューレは真っ直ぐ喉を狙う。喉元に手が届くと確信した瞬間、レオの悔しそうなツラでも拝んでやろうと思ったキューレが視線を上げる。

そこに見たのは━━━━━━笑みだった。


「は?」


笑みの意味が分からずたまらず声をあげてしまった。そこに背筋が凍るような感覚がキューレを襲う。

何がヤバイのか分からないがとにかくヤバいと理解したキューレは攻撃をすぐさま中断しバク転しながら後ろに下がる。

すると、シュルシュルと何かが高速で回転するような音が響く。


「あれ?」


レオの間抜けな声に釣られるように顔を向ければ、レオの足元から白と黒の球体が浮上してきていた。他にもレオを中心に赤・青・黄・緑・茶と五種類の球が浮かんでいた。


「まさかあの場面から避けられるとは思ってなかったわ」

「あんたが笑みを見せなければ当たってたかもな~」

「お? もう集の極致はいいのか?」

「あのまんまじゃ邪気は上手く使えないし、ワクワクが膨れ上がると状態を維持もできないし」


そんな二人の会話だけでクレイにもエリカにも今までのが前座でしかないことを理解したのだった。

まさに様式美

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