66.感謝
今年最後になります
レオとレイが守護領地の修復を完了しパストーゾ村に戻ると中央広場に大勢の影があった。最初にここに来たとき村人を含み100前後しか居なかった住人は今では5倍近くになっている。そのため中央広場でありながらごった返すように人で溢れている。
その中に何人か見覚えのある数人が固まっていた。エリカにクレイ、マリフェルタ姫にリュハ族長、ティアナにマユナだ。
レオが気付くと同時にクレイが二人を発見し片膝をつき、忠誠の意を示すように頭を下げる。続いてエリカが大きく手を振る。
「レオさ~~~~~~ん!!」
エリカの声につられて一斉に皆の視線がレオたちに注ぐ。
「「「「うぉおおおおおおおおお!!」」」」
一拍ののち歓声が上がる。見知らぬダークエルフたちから口々に「ありがとう!」「助かったぜ!」とか「この恩は一生忘れません」とか、終いには「娘を嫁に」などと言い出す者すら出てきた。そんな感謝の声は中央広場にいるすべてのダークエルフが寄せられた。
「感謝されるのはいいんだが何か無茶苦茶言ってるのもいるな」
「そうみたいですねぇ~」
苦笑いのレオに合わせるようにレイが答えるが、そのレイは何だが少し機嫌が悪そうだ。
「少し怒って、る?」
「いえ?」
笑顔で否定してもレオにはレイの後ろにキューレが憤怒の表情を浮かべ、そのさらに後ろに恐ろしい般若が見えていた。
「そ、そうか。ならいいんだ、うん」
「でもあんまりいろんな方にデレデレしないでくださいね?」
「・・・はい」
神様助けてーと心で何となく叫ぶレオだが目の前に居るのが神であることを思い出し、その希望を捨てる。
そんな二人のやり取りを見ながら呆れるように見守るのは他の四人である。しかしこのままでは我らの英雄がさらに困ることを理解できるが故に、まずティアナとマユナが剣撃音を響かせる。一瞬静まりかえる中、二人の責任者が声を上げる。
「皆落ち着け! 皆の気持ちは分かるが我らが英雄がお困りの様子だぞ? 恩人に迷惑を掛けたくはないだろ」
「レオ様、レイ様」
リュハ族長が歓喜する者たちを抑えている間にマリ姫が一歩前に出てドレスの両端をつまみ上げお辞儀をする。
「この度は私たちをお救い頂きありがとうございます。守護精霊の暴走、神との対峙そして守護領地の修復。さらには正義を捨て金に、権力に溺れた悪徳政治家の告発。そして・・・」
マリ姫はくるりと半回転しダークエルフの方を向き微笑む。
「こんなに多くの方々を、共に未来を歩む仲間たちを助けていただきました」
マリ姫の眼に滴がたまる。いつか溢れだし小さな筋が彼女の頬を伝う。助けられた皆皆もマリフェルタの言葉を深く刻み込む。
マリ姫は再びレオに向き直す。
「お礼だけでは足りません。ですが私から渡せるものも多くはありません。ですからささやかですが祝勝会として宴をご用意しました。・・・本当にありがとう」
最後の一文はマリフェルタからレオたちへの個人的な感謝の意だった。
「さぁ、姫様が宴の開催を宣言された! 感動するのも良いがまずは・・・楽しもうぞ!!」
「「「「「おおおおおおおおお!!」」」」」
昼から始まった宴だが夕刻を過ぎても未だにその熱は収まりを見せていない。国家反逆の罪を無理矢理付けられ拘束され、奴隷に落ちた者たち、どうにか逃げ延びたとしても毎日怯えて生きてきた者たち、誰とかではなく誰もが長く苦しい二年を過ごしてきたのだ。まだまだ話尽くせぬことも多くあるのだろう。
「だから今からは彼らが主演の宴になる」
宴が始まり引っ張り凧だったレオたちもようやく落ち着いて話を出来るぐらいにはなっていた。そんなレオからの言葉だった。
「なら場所を変えますか?」
「そうだな。俺たちが居たら話せないこともあるだろうしな」
「あれ? レオさんってそんなに空気読める人でしたっけ・・・」
「我が主は素晴らしい御方だ。出来ない訳がない。私は信じております」
「そんな言い方されたらどっちみち空気読めない奴になってないか?」
「いえ、決してそのような!」
レオの返しに珍しくあわてふためくクレイを見ながら「冗談冗談」とレオが笑い、つられて全員笑い出す。そんな中に四人の来客が現れる。
「楽しんでおられますか?」
「まぁ楽しそうにしているのは見たらわかるんだがな」
実際に声をかけたのはマリ姫とリュハ族長でティアナとマユナは後ろに控えるように立っている。とはいえ武器を所持しているわけではない。いつ着替えたのか、ティアナもマユナもそれぞれ淡い蒼と明るい赤のワンピース型の簡単なドレスを着て手にはグラスを持っている。中身はおそらくお酒でも入っているだろう。少しばかり頬が赤く染まっている点からレオはそう看破した。
ちなみに先の二人も同じようにグラスを持っている。
「あぁ楽しんでる。だけど場所を変えようとしてたんだ」
その言葉にリュハは回りを見渡すとすぐに首を縦に振る。
「そうだな。まだ整理できていない奴等もいる。奴隷にされている同胞もまだ少なからずはいる」
「だから俺たちがいない方が愚痴ってのは話しやすいだろ?」
「でしたら【またいつもの場所】をお借りできますか? お伝えしたいこともありますから」
「えぇ構いません」
マリ姫の問いにティアナが答える。いつもの場所がレオ達にはどこか今の流れで検討は付けれる。最初に来たときと流れが同じだからだ。ただ、あの時のように真剣な雰囲気ではなく和やかな雰囲気なのが大きな違いである。
「俺たちも構わないぞ。エリカとクレイはどうする?」
「着いていますよ?」
「主と共に」
当然でしょといわんばかりにエリカもクレイも着いてくる気まんまんなようだ。
「俺はここに残ろう。責任者が全員離れるわけにはいかないだろう。それに、俺自身もさまざまな話が聞きたいからな」
「ならば親父と一緒にあたしも・・・」
「無理に付き合う必要はないぞ、マユナ」
一緒に残ろうとするマユナだが端から見ればあちらと共に行きたそうなのは目に見えていた。
「せっかく綺麗に着飾ったんだ。今を楽しめ」
マユナの耳元でリュハが囁くとさらに顔を赤くしたマユナが口をパクパクさせる。
「な、ななな、何を!?」
「ワハハハハハ、まだまだ若いな! あとは任せて行ってこい」
「わ、わかったよ! バカ親父!」
捨て台詞を吐きながらマユナはティアナと共にレオ達にはついていく。そんな二人の背中を見つめるリュハは嫁ぐ娘を見送るような親の顔をしていた。
来年もよろしくお願いします