64.再誕
可愛いは正義!
【再誕】
一度死んだ者が、形を変えて再びこの世に生まれること。
それは人間や動物の中にある輪廻転生による考えの一つ。だが死んだ者は生き返らない。それはこの世の真理でもある。それに例外があるのだとすればそれは真理を超越した存在。それこそ神なる存在だけだろう。
「再誕か。久々に聞いたな」
「人と神では【再誕】の意味が違います」
「人は【死して復活する】こと」
「神は【新たに生まれ成長する】こと」
神にとって 生命活動の停止=死 ではない。説明することが難しいが神にとって生命が消滅することや精神の有無が死ぬということではない。すべての者から忘れられること、それが神の中にある絶対の死の条件だ。だからこそレオの居た、あちら側の世界では神が【暇潰し】にと、殺試合ができるのだ。
そういう意味では神の暇潰しは信仰の儀とも云えるのかもしれない。何せ神に対面した者は否応なしに神の存在に知覚し、神を倒すことで得られる神器などの報酬を欲する意思は、まさしく対象にする神への強い思いであり、信仰では無いにしろ近い感覚ともいえる。さらに神を倒して得た神器で命を救われる、そんな大きな心の変化が生まれれば、その意思は次第に信仰心に変わる。
死んだ神は暫くすれば肉体を取り戻し、またもとの姿に戻れる訳だから実質の被害は余りないのである。
「神にとって再誕は・・・こんな言い方はしたくないですが脱皮に近い感覚です。信仰などによって力が一定のラインを越えたとき、つまり今の肉体が力に耐えきれなくなったとき、力にあった器へと生まれ変わるための行動となります」
「再誕は前の肉体より大なり小なり姿を大きくするとか聞いたことがある。けどあれは圧縮するように体を小さくなったのは何でなんだ?」
チラリと横目でレイはレオを見る。それに合わせるようにレオは顔ごとレイに向ける。さっきまでの慈母のような笑顔は消え去りいつもの真面目モードに変わっていた。
「不完全な召喚と召喚された神が原因です」
レイは今度はキチンとレオに顔を向けた。
「初めてあの神を見たとき、貴方はどう思いましたか?」
「どうって言われてもな・・・」
「なら、言葉を変えましょう。勝てないと感じましたか?」
「いや、勝てないとは思わなかった。現状の装備に加え、あの不完全な状態だったからな。
あれなら【暇潰し】で戦った神の方が強い」
「不完全とはいえ神を召喚したのです。ならばあの程度の力であるはずがないのです」
「よくよく考えれば使っていた魔法も魔導、Ⅳ界式に近いものではあったが神の領域たる【神界式】には届いてなかった。
で、その原因は不完全な召喚だけじゃないと」
レオの回答にレイは小さく頷く。
「あの神はおそらく中級神、ただしその中身は・・・」
レイの言葉と重なるように魔力の半球体にヒビが入る。それはすぐに全体に広がるとその下にある泥と共に弾けとんだ。
「今回再誕を初めて行う幼子だった訳です」
蝶がサナギから成虫となるように中から純白な小さな少女が現れる。小学校中学年ほどの見た目で赤茶色の髪をしている。肉体の生成が間に合っていないのか微かに向こう側の景色が見える。
次第にそれも収まり肉体が安定すると魔力で練り上げられた植物たちで体を覆う。次に植物たちが体を離れたとき、色とりどりの綺麗な花などで作り上げられた可愛いワンピースを着ていた。
「いつから気づいてたんだ?」
「初めからです。この場所に来たとき、木々や花、川に至るまで全てが宝石のように美しい状態で維持されていました。ここまでの守護領地を作り出すのは低位の神では出来ません。それこそ最高神に近い神にあたるはずです」
レイとレオは二人並び歩き、少女に近寄る。小さな寝息をたてながら丸まったまま少女は起きる気配はない。
「なのに蓋を開ければそこまでの力が感じられないと」
「ですから考え方を変えました。この場は二人の神により作られたのではないか、と」
レイが寝ている子を起こさないように抱き抱えると、頭を撫でる。
「そしてこの子と相性が良く、この子がキチンと持ち得ない力を見つけました。あの小さな川です」
レイの目線の先、戦いで滅茶苦茶に崩壊したこの場所でまだ微かにその機能を保つ小さな川だ。
「緑豊かなこの場所で水源が小さな川、それだけこと足りるほどの純度の高い水属性の魔力を感じます。それは同時に水の属精霊が集まりやすい場所とも言えます」
「なるほどな」
属精霊は基本は意思のない魔力の塊ゆえに志向性はない。だが集められた、または自然と集まった属精霊が魔法に活用されない場合、彼らは周りにその力を浸透させ眠る。つまり次に呼ばれるその時まで彼らはそれぞれの属性の恩恵を与えるのだ。
「うにゅ~」
可愛らしい声と共に少女が目を覚ます。
「おはようございます、王しゃま・・・」
未だ眠そうな少女の声に二人は微笑みを作る。
「おはよう。無事でなりよりです」
寝起きで頭が回らないのか少女は「ふぁい」と小さく頷きながら次はレオを見る。
「レオしゃまもおはようございます」
一瞬、自分の名前を呼ばれたことに驚いたが戦いの際に何度も名前は呼ばれていたからだろうと解釈する。
「あぁおはようだ」
とは言いつつも、少女はまだまだ眠そうでこのまま行くと二度寝になりかねない状態だ。
「名前を聞いていいか?」
「ふぁい。チイタはチイタと言います。あれ?」
「どうしたチイタ?」
「いえ、なんでもないのです」
レイがチイタの頭を撫でながら話に入ってくる。
「チイタ、無事に再誕が終わったとはいえ今の貴方はまだ弱っています。なので神界に一度戻り再びお眠りなさい。力に肉体が順応するその時まで」
「でも・・・」
チイタは荒れ果てた守護領地を見渡す。どこまで記憶があるか分からないが自分がやったことだと理解は出来ているようだ。その証拠に「ごめんなさい」と呟き目に涙を浮かべている。
チイタの頭をレオが軽くポンポン叩く。
「大丈夫だ、あとは任せろ。だから安心しろ、な?」
「はい!」
レオの言葉にパァっと輝く笑顔を浮かべながら返事をする。
それを合図に空から光の柱が舞い降りる。チイタ上に放り注ぐ光に連れられチイタが宙に浮かび始める。
「ではね、チイタ」
「また、会おうな」
「ありがとうなのです、王しゃま! レオしゃま!」
元気に手を振るチイタに合わせレオもレイも手を振り答えると、笑顔のまま空に消える。それを見届けると光の柱も消えていった。
次回、エルフ編エピローグ!(の予定!)