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異世界で最強底辺な俺の気ままな武器貯蔵  作者: 津名 真代
第二章 ウェルフィナ国
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58.ゆるさない

もう止まれない

「おーい! 誰かいるか!」

「エリカさーん、クレちゃーん!!」


パチパチと木が弾け、ゴウゴウと火が燃えるだけでそれ以外の音は聞こえはい。村の入り口から中央広場まで来てもそれは変わらず村の惨状だけが広がっている。


「ここに居ないとなれば・・・」

「目的地はあそこですね」


村の奥、小さな鳥居のその先。二人は急いでその場に向かう。


「間違いないみたいですね」


その理由は一目瞭然だった。鳥居に掛けられた入り口としての結界が歪み、視界が螺曲がっている。その歪さから異世界への入り口とも見てとれる。

そんな不安を煽られる入り口を目の前に、躊躇などなく二人は初めて入った時同様に鳥居に手を当て押し通る。また魔力を吸われているような感覚が襲う。前回と同じく眩しいほどの光に教われ視界を取り戻せばそこは【守護領地】、色鮮やかな世か━━━


「ウフフ、アハハッ」


濁った空、腐敗の地、そう表現するしかない世界が広がる。その奥、神殿前に一人、嬉しそうに、狂ったように笑いながら宙に浮く女性がいた。深い紺色のドレスには一切の飾りっけはなく、青髪は乱れ、目は血走ったかのように見開かれている。全身で表される喜びはまさかに狂気のものだ。


「あいつか・・・」


一本のナイフを抜き、魔力を高める。幸い相手はまだ気づいていないようだ。ナイフを握る手からグッと力強い音が鳴ると同時に魔法を完成させる。


「初手だ・・・」


発動後、七つの球体が浮かび上がる。背に六つ、それぞれに色があり、時計回りに赤・青・黄・緑・茶・白の順で並ぶ。そしてナイフを持たない別の手に七つ目となる黒い球体を持つ。


「まずは気づいてもらうぜ、『七星弾』」


レオの意思の元、まるでギリギリまで張り詰められた矢を放つが如く七つの弾は敵に目掛けて突き進む。だがそれよりも早くレオの目の端に蒼い閃光が映る。レオたちの位置からでは森に隠れて見えない位置から現れたそれはレオの魔法よりも早く敵に接近する。


「うわっ、と!(『白手』)」


閃光はこちらに気づいていないのだろうか、明らかに射線上に重なるタイミングである。それにいち早く気付いたレオはナイフを握りながら両手を叩く。パンと乾いた音が響き渡れば、見えない壁に押し潰されるように七色の弾丸が消滅した。さらにパキンと音が続き、ナイフが砕ける。


「(力入れすぎたぁ・・・)」

「レオ様、あれを!」


レイに言われた方を見れば閃光がスアと交差する。閃光から別の閃光が放たれる鈍く光るそれは剣、高速の一刀が襲いかかる。にも関わらず笑みを崩さず回避も防御もしないその様は不気味さだけが際立つ。

刃はすぐにその首をとらえるが、何時の間にやら現れた土壁に阻まれる。


「クッ、また・・・」


阻まれた土壁に対し悪態をつく。

土壁は泥のように柔らかくなると今度は反撃に移る。まるで生き物のように自在に姿と堅さを変えて敵を殴り飛ばす。


「うっ! きゃあああああ」


来た道に返されるように盛大に吹き飛ばされる。そこに蒼い閃光が現れた位置から黒い触手が二本生え、閃光を受け止める。さらにもう一本の生え、敵にムチのようにしならせながら攻撃を始める。


「レオ様、二人のもとへ急ぎましょう!」


レイが叫ぶと触手と閃光が現れた先へと一目散に向かう。小さな森を抜けた先には4つの人影と巨大で真っ黒な球体が浮かんでおり、触手はそこから出てきている。


「エリカさん、クレちゃん、無事ですか!」

「姫さんと族長さんも大丈夫そうだな」

「あぁなんとか無事さ」


そうはいうが既に満身創痍なのは見てとれる。身体中ボロボロで所々から血も流れている。それはエリカも同様で初めて会った時の以上に傷だらけだ。よく見ればクレイですら切り傷が多数あり黒い血を流してる。唯一無傷に近いマリフェリタ姫は分霊によって結界内という安全地帯にいる。ただ、結界も相当消費しているようだ。


「おや、コバエが増えた?」


レオは声の元凶に目を向ける。クレイの触手はいつのまにやら土に捕まり動けないようで、それだけでかなりの力であることは否めない。


「まぁいいわ。ここまで来たならもういいの・・・」


訳のわからないことを言いながら胸元に両手を当てる。そこから真っ赤なクリスタル状の宝石がついたペンダントを取り出すと、宝石だけを紐から引きちぎる。


「まさか、あれか!」


レオが何かに気づき行動に移すよりも早く宝石が光り、同調するように地面が流動し始める。スアが宝石を放り投げるとまるでそこに群がるように周りの土が集い、体長3mほどの一つの形を作り上げる。人型ではあるが泥人形というかなんという、しっかりと固まった土ではなく、内側から溢れでるように泥が流れ出ている。だが何処と無く髪の長い女性に見えなくもない。


「ぶぉおおおおおおおおおお!」


叫ぶような咆哮と共に泥が飛び散り、触れたものを腐食させる。よく見れば泥人形の足元も同様に綺麗だった草木は腐り果て、どす黒く汚い茶色に変わり果てていた。


「ナバギギイデギ、イ、イデ・・・ウバアアアアア!」


何が起きたのか、泥人形は頭を抱えながら前後左右に揺らすように暴れだす。


「な、なんだ・・・!? いきなり暴れだしたぞ」

「あれは、一体なんなのですか・・・」

「神の成りの果て。いや、不完全な顕現による劣化状態というべきかな・・・」

「つまりスア様がやろうとしていたことは」

「自ら神を強引に呼び出す。そういうことか?」


マリとリュハの言葉に小さく頷く。


「あぁ、これが神・・・ なんて素晴らしい力でしょう

不完全とはいえ、守護領地をいとも容易く侵食し破壊できるなんて!」


泥神の心臓辺りから赤い光が漏れ出す。発光に連なり暴れていた神は動きを止める。たが、口元からはまだ「ウバァア」と声が漏れている。


「そしてこの力が今は私の思い通りになるなんて・・・ さぁまずは邪魔者たちを消してください」


命令を与えられた人形は頭を抱えていた両手を勢いよく地面に叩きつける。地面が大きく揺れたかと思えば、レオたち全員の足下から間欠泉の如く泥が吹き上がった。


「一本くれてやる!『護領ー点守ー』」


吹き上がった泥が降り注ぐ前にレオを含む7人を守護の光が包む。光り当たるたびに泥からジュウジュウ聞こえる。


「なんて魔法だ・・・」

「腐食させる泥もそうですが、それを寄せ付けない防御魔法を一瞬で・・・」

「お喋りはあとにしようぜ。この【鎧】も長くは持たないからさっさと泥を止めないとな」


レオは砕けた二本目のナイフを放り投げながら次へと手を伸ばす。が、その必要はなかった。レオが何もしないままに泥を吹き出す穴が押し潰されるように閉じたのだ。


「スフィアさん、外してください。私がやります」


レオたちの後方から酷く冷たい声が通る。全員から視線を集めるレイにはあの時とはまるで違う怒りが宿っていた。

怒りを力に変えろ

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