52.互いの意思
今回、3000文字越えました(ヒェー
村の中央広場に集まった、たった10人前後の若いダークエルフたち、彼らがパストーゾ族の精鋭であり村の最終防衛隊でもある。彼らの勝敗が村の存続を左右すると言っても過言ではない。
そんな彼らとて一騎当千の力が有るわけではない。チームとしての行動に優れ、仲間を信頼しているが故に強い。そんなチームを誰もが誇りに思っている。だがそれを踏みにじる者がいたら彼らはどうするのか・・・
「こういっちゃ悪いけど、その戦士の中に守護精霊とタイタン張れるやつがいるのか?」
いない。はっきり言えることだ。だが彼らの真価はそこじゃない。だから戦える、と思うのに言葉にできない。終いには族長に自分達の代弁をさせる始末。
「だから俺たち四人と戦士長殿、この五人で行く」
いや、自分達が行きたい。ルルファやスアに同胞をいいようにされて腸煮えくり返ってのは自分達なのだから。だが冒険者の正論を崩す案がない。悔しさの沈黙が生まれる。
「パストーゾの戦士たちよ!! 言いたいことがあるならばハッキリ声に出せ!」
力強く大声を上げたのは族長だ。族長の声に戸惑いを隠せない中、一人のダークエルフが前に出る。
「レオ殿、少しいいか?」
ティアナだ。
「確かに少数精鋭には賛同する。だが今回の作戦にはルルファやスアを捕らえる以外にも我らが同胞を助ける意味もある」
すぅ、はぁ~と軽く深呼吸する。
「その時、見ず知らずの人間だけでは信用性にかけると思うのだが、どうだろうか?」
「確かに、捕らえられたダークエルフをスムーズに助けるにはそっちの方が効率がいいな。だけど何処に捕まってるのか知っているのか?」
「そ、それは・・・」
ティアナは目だけでマリを見る。
「知っている。事前に聞いてはいた」
「じゃあどうして俺たちに最初からその話をしなかったんだ?」
ティアナは黙る。別に隠していた訳じゃない。彼女からすれば初めから計画の一つとして決めていたからだ。
「き、貴殿たちに依頼したのはあくまで我々だけでは手に終えない可能性のある守護精霊を抑える手伝いをしてもらうためだった。だが・・・」
ティアナの言葉はこう続くはずだった、「我々が足手まといになる可能性が高い」と。実際、確実に足手まといになる。レイの実力を見て、チームで戦っても勝てるかどうかも分からないと感じたためだ。
「なるほど。つまりそっちはそっちで好き勝手やるつもりだったと。ふ~ん、なるほどね」
呆れたような馬鹿にしたような声が広場に広がる。ここに集まる皆がこの先の展開を読めずにいる。
「ならそうすればいいさ」
またしてもいつもの声が響く。レオらしい反応に知る者からは小さな笑みが、知らぬ者たちからは困惑が見える。ティアナには困惑だ。
ティアナ自身は、初めてレオに会い依頼をした時にその軽い返事を聞いているが、あの時とは状況が違う。
「しょ、少数精鋭で行くのだろ? 何故反論も無しに許可なんて」
「ん? そっちの言ったことに間違いはないと思ったから」
「我々が足手まといになる可能性があるのだぞ?」
「あぁ、だから連れ行くのは二人だけだ。出来れば実力がわかってる。あんたと双剣使いのマユナだったか? の二人にしてくれ。
こっちは代わりにエリカとクレイを留守番させる。これで人数は変わらず五人。」
ティアナは未だにレオの真意が分からない。救出作戦を黙っていたことを怒ってるんじゃないのか? だから連れていかないと突っぱねられると思ったのに。
「お、怒ってはいないのか?」
「怒る? なんで?」
「我々が同胞を救出することを黙っていたから・・・」
「まぁ確かに、聞いてなかったから少し考えさせてはもらったけどな。
作戦開始してからそんなイレギュラーされたらさすがに困るけど今聞いたから問題ないだろ、たぶん」
「いや、だが・・・」
「それにこっちもメリットはある。
まず一つ目、戦う際のデメリットの解除。ダークエルフを人質に取られて戦えませんじゃ意味無いしな。
二つ目、あんたらの行動を制限できる。あれだけの数を一気に連れていったら位置や行動を把握できない。把握出来なきゃ戦うことも、ましてや退くことも出来ないからな。
それ以外は任せるさ。俺には俺のやるべきことがあって、そっちにはそっちでやるべきことがある、それだけだろ?」
レオのメリットはあくまで自分が戦う際の憂いがなくなるというものだ。だからそれ以外のことは好きにしていいと言ってくれているように感じた。
「・・・あぁ、そうだな。ありがとう。作戦に参加する二人については少し考えさせてほしい」
「なんで礼を言われたのか分からないけど・・・ まぁいいか。
着いてくる奴に関しては姫さんと話してくれ。 偉そうに言ったが俺たちはあくまで雇われの身だからな」
なんとなく嫌みな言い方な気がしたが不思議と今は不快感はなかった。レオの笑みがそうさせたのかもしれない。
「どうやら話は終わったようだな」
「あぁ終わった、あ~・・・族長、さん?」
「フフ、名乗り忘れていたな。リュハ・パストーゾだ。ダークエルフは代々族長だけが姓を持つ。とは言っても部族名だがな」
「とりあえず話は後にしませんか?」
話に入り込んできたのはマリだ。作戦決行を明日に定め、この場は一度解散させた。
この場に残るは守護領地に入った者たちにエリカとクレイだけになる。ダークエルフたちは明日の参加者選びをしに別の場所に新たに集まっている。
「レオさん!」
「我が主!」
エリカとクレイが叫ぶ。
「「どうして留守番なん(なの)ですか!!」」
迫り詰め寄る二人に歩く後ずさりをするレオに別の影が迫る。
「レオさん、ありがとうございました・・・」
そこには深々と頭を下げ、感謝の意を示す姫の姿があった。
勢いよくレオに迫っていた二人もこれにはさすがに動きを止めざる終えなかった。
「別にいいさ」
「あのぉ、なにがどうして・・・?」
「【緑】から戻る際にレオさんに私がお願いしたのです」
「ダークエルフたちと再び協力するためです」
要約すると、レオは守護領地を知った。それはダークエルフにとって門外不出とされるほど重要である。だがそんな相手を始末するのではなく【緑】に案内するなど彼らすれば有り得ないことだ。そんな不信感を持たれたままでレオたちが作戦に参加すれば確実に亀裂が起きる。さらにいえば自分勝手な行動を起こす者も出てくる可能性がある。故にレオにお願いしてダークエルフたちを煽った。彼らがレオと話をする機会を作るために。
「それであんなことに・・・ でも話すだけならそこまでしなくてもいいんじゃ?」
「いえ、本当の狙いは会話ではく目的を示すためです」
頭にどうどうとはてなマークを浮かべたエリカに、子供をあやすような優しい説明が入る。
「つまり私たちはルルファとスアを止め、あなたたちは救出を優先してくださいと伝える。さらに人数が多いと見つかる危険性もあがるため、それを抑える。これが主な目的になります。
他にも彼らを残すことに理由はありますがこちらはあくまで保険的意味が強いです。」
「実際、救出作戦についてはこっちに戻る前に教えてもらっていたしな」
「さらにレオさんにしていただくことで、ダークエルフの皆様に敵ではないことをアピールしていただきました」
なるほどと呟くエリカを端から見たら、小学生に勉強を習う大人という雰囲気だ。
「だから最初からエリカとクレイは頭数に入ってなかったんだよ。それに・・・」
レオの言いかけた言葉を遮るように族長が顔を出す。どうやら同伴者が決まったとのこと。さらに明日の戦いのために軽い宴が用意されるとか。そうこうしているうちにテーブルやら食事やらが広場に集まる。日は傾き綺麗な夕日の下、宴が始まった。
目あわせするのは大事やよ