51.やり直し
複雑な心理状況
「レオさん!」
「我が主、ご無事で」
来たとき同様に村に戻ったレオたちを出迎えたのはエリカとクレイ、それに細身であるが不思議と圧力を感じるダークエルフの初老の男性であった。
エリカは嬉しそうにレオたちに近づき、今はレイと何があったか話している。クレイはレオの前まで行くと、まるで騎士か執事のように片膝をつき、片手を胸につけながら言葉と共に頭を下げる。
「だから心配すんなって言っただろ?」
クレイの心配性のせいか、それとも挨拶の姿勢のせいか、どちらにせよレオは苦笑いを浮かべている。
「それで、あちらさんは?」
レオが示す先はもちろんクレイと共にいた人物だ。
「どうやらこの村の族長らしいです」
クレイは姿勢を直し立ち上がりながら答える。
「へぇ~(大木みたいだ)」
パッと見はヒョロいとまではいかないにしろ、かなり細っこく見える。だが、キチンと観察してみれば軸がぶれている様子もなく、圧力も合わさり一本の木がその場にあるような気さえしてくる。
「どうかされたのですか?」
「ん? あ、いや何でもない」
そんなやり取りをしていると、レオたちの後からマリ、カラの分霊、マテリスの順に姿を現し、最後にツリナが続く。
「ツ、ツリナ第1戦士長! ど、どうしてここに・・・」
「マルベスせn・・・さん、こそどうして?
あぁそうか、彼と・・・」
尊敬と敵意が入り交じったような複雑な感情が目に宿るツリナの視線の先は・・・当然いうまでもない。
「何か、あったのですか?」
エリカの問いに答えはない。無言のままレオを見つめていた視線は次第に諦めたように落ち着いたものに変わる。
「思ったよりもずっと凄い人物だと気づかされただけさ」
平坦に近い声で答えるツリナの表情は、声とは裏腹に肩の荷が下りたかのように優しい表情であった。そしてふと、儚げな雰囲気を感じる。今にも消えそうな・・・
「(何がどうして・・・)」
一瞬感じた儚げな雰囲気は消え去りツリナは歩き出す。
一体何がと、考えても答えなどではないはずの問いを自分に問う。
ーーーーパン!ーーーー
目の前で何かを叩く音が響く。考えることに夢中で辺りを意識していなかったため「ひゃ!」とかわいい悲鳴がエリカから飛び出す。
「は?え?」
いつの間にそこにいたのか、エリカの目の前には人の手があり、音の正体が何かも理解できた。なら誰がと、手から腕へなぞるように目で追えば行き着く先にはレオの顔があった。不思議そうにエリカの顔を覗いている。
「うわっ!」
「なぁにしてるんだ? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。レオさんこそ何してるんですか!?」
「お前がぼぉーと突っ立ってるからこうして来たんだが?
周り見てみろって」
「え?」
気づけば周りには誰もいない。よくよく見れば、レオの後方、村の中央広場に向かって歩く姿がちらほら見える。
「皆さんどこに?」
「話聞いてなかったのか? まぁいいか。
ちょっと話が複雑になったから、話をするために村の広場に場所を変えるってことになったんだよ」
まったく聞いてなかった、と心で呟くエリカの手をレオが掴む。
「━━━━━━━━!?」
「ほら行くぞ!」
皆に追い付くために走り出したレオに引っ張れる形でエリカも走り出す。
村の中央広場には、バラバラで統率などされていないが各々が動きやすくアレンジされた装備を纏う10人前後の若いダークエルフが男女入り交じる形で待っていた。パストーゾの精鋭たちだ。その中にはもちろんティアナとマユナの姿もある。
「さて、と、パストーゾの子供らよ! 聞きたいことや言いたいこと、まぁいろいろあるとは思うがとりあえずは静かに先方の話を聞け。いいな?」
族長の言葉に異論を唱えるような者はいない。だがティアナたちから話を聞いているのか、ところどころから強く鋭い視線を向ける者たちもいる。
「では代表として私、マリフェリタ・トゥ・ウェルフィナが【緑】で起きたことと今後についてお話しさせて貰います」
マリは守護領地内で起きたことについて手短に説明する。ただしレイが神であることやマテリスが統括守護精であることは控えている。マテリス自体はあくまでスアの関係者ぐらいの説明だ。
「さらに現在、マテリスの精霊つきであるエール王国第1戦士長であるツリナ様の協力も得られることになりました」
マリの紹介に対し軽く手を上げるだけで応える。
普通に考えれば自国の問題を他国の人間、しかも戦士長という高い地位に就くものに干渉されることは国の威信に関わる問題に成りかねないのだが、ツリナの不法入国(不法入域?)に関してうやむやにするためにもここで協力者という形にしたのだ。
「マテリスの話により、今回の首謀者がルルファ議長なのか、スア様なのか分からなくなりましたが、どちらにせよ両方止める必要があります。強力なアイテムや町への被害も考え、以前よりお話ししていた通り、こちらから仕掛けます」
こちらから仕掛けるという言葉に反応しダークエルフの戦士達は決意と殺意を込めた視線をいっそう鋭くする。誰もが今にも対象を殺さんとするほどのものだ。
「それで実行班ですが・・・」
「少数精鋭だな」
話に割り込むように発言したのはレオだ。戦士達の先ほどの視線が一斉にレオに向けられる。
「俺たちはエルフと戦争する依頼を受け訳じゃない。あくまでルルファとスアを捕まえて今回の真相と今後の活動を停止させる、それが依頼内容だ。ならぞろぞろと大人数で動く必要はないだろ?」
「ならば我々パストーゾの戦士たちで行く!」
戦士の誰かが声を上げる。
「こういっちゃ悪いけど、その戦士の中に守護精霊とタイタン張れるやつがいるのか?」
沈黙。いや、口々に何かを言おうとしているが彼ら自身も守護精霊の力は知っている。だが全力戦闘など見たことはない。だから力量のすべてが分からないために答えがでないのだ。
「はぁ、あぁ~申し訳ないが俺の義子供らじゃ守護精霊どころか並の精霊すら正面からじゃ倒せないだろうな」
「「族長!」」
何人かの声が重なる。だがそれ以上の言葉ない。
「だから行くなら俺たち四人と戦士長殿、この五人で行く」
もちろん四人とはレオ、レイ、エリカ、クレイのことである。そこに他国の戦士長が加わる。まさに少数精鋭だ。
原因:気ままなやつ