43.ネタばらし
マユナェ・・・
結末を聞いたマユナは複雑な気分でいた。そもそも実力差を見せつけられてはいたがそれでも「どうにか・・・」と考えていた。が、結局は一撃与えるのがやっとだった。この一撃を本来なら喜ぶべきなのだろうが・・・
「(見ててわかるさ。手を抜かれていたってぐらい・・・)」
レイを見つめるマユナの目は悔しさが見える。自分達の実力を見るためとは力を押さえていた。それも自分達が届くかどうかぐらいの実力までに。実際、加減なしの戦いならば初めの一撃で有無もいわさず倒されていただろう。
「(結局、うちは何にも出来なかった・・・)」
「そう言えばレイさんのあれは何だったんですか?」
そんなマユナを他所に、エリカは疑問を口にする。
「あれってどれですか?」
「あれですよ、あのぅ・・・何て言えばいいんですか?」
「攻撃が横を抜けていくやつだろ?」
えっとえっとと、わたわたし出したエリカをレオが助ける。
「そ、そうです。あれは一体?」
「と、すまないがそろそろ【道】が閉じてしまうから移動しながらにしてもらいたい。それとこれから先は力を貸していただける方のみで」
「りょ~かい。ならちょっくら行ってきますか」
「何を言ってるんですか?」
「主一人に行かせるわけありません」
「ここまで来て置いていかないでくださいよ」
レイ、クレイ、エリカのついていきます宣言に「あれぇ?」とした表情をレオが見せる。
「いや、けどな? 依頼受けたのは俺で・・・」
「時間がないんだが?」
「・・・はぁ、わかった。んじゃ皆で行くか」
「「「はい!(我が主)」」」
レオたちの荷馬車から出ると再びローブを着けたティアナとマユナを先頭に再び町に出て迷いなく道を歩き出す。レオたちも遅れないようについていく。
「こんなにどうどうと歩いて大丈夫なのか?」
レオの疑問にティアナが左右を指差し、レオがつられるように左右を確認する。
「あぁなるほど」
「どうしたんですか?」と話に入ってきたのはエリカである。エリカも同様に周りを見渡せば違和感に気づく。
「あれ? なんだか皆が避けているような・・・
いや、【無意識に】道を開けている感じですね」
「これが認識阻害魔法、より正確にいうならば【幻惑魔法】と【結界魔法】を合成させた魔法。我々がギルドに入るために使った【人払いの結界】を道に沿うように発動させている」
「これほどの魔法を展開できるなんて凄いです・・・」
「いや、これは我々がやっている訳では・・・」
「あ、そうなんですか?」
「当たり前だろ? うちら自身でこれが出来たら苦労してねぇよ」
ほどよくエリカの常識が崩れてきているなぁとレオやレイが感じている最中、話は進む。
「これは我々に【協力】してくれている【精霊の傘下】にいる妖精たちが用意してれているんだ」
「エリカさんは聞いたことありませんか? 【神隠し】って」
「え? はい、聞いたことありますよ?
人が失踪したり、帰って来たと思えば歳が行方不明になったときと変わらないままだったりとかいう、あれですよね?」
「そうです。あれは実際は神でなく【妖精や精霊】の仕業なんですよ?」
「どうことでしょうか? 奥方様」
「あれは妖精や精霊が人や魔物に見つからないように【聖域】に向かうために作られた【隠れ道】や【通し道】と呼ばれる空間に入ってしまうことが原因なんです」
「本来、人じゃ決して気づけない【道】だけど、潜在能力が高い奴や感受性が高い子供なんかが無意識だったり、偶然だったりで入り込んでしまうことがある。で、入るは出来ても自身で帰ることができないことが多いから【神隠し】とか呼ばれるわけだ」
レイとレオの説明にエリカやクレイが頭を縦に軽く振りながらなるほどと言う中、ティアナも同じように肯定していた。
「ここはそんな【道】を簡易ではあるが再現した場所になっている。だからこそ堂々と歩いていても目に入っていても意識されていないと言うことだ」
「だけど、こんな【道】をこんな人通りの多い場所に展開し続ければ勘のいい奴は当然違和感に気づき始める。だなら長時間は出来ないんだよ」
ティアナの説明にマユナなりの補足を付け加える。
「で、レイ! あんたがやったのもこれとおんなじやり方か?」
「呼び捨てにしないでください。・・・結論から言えば違います。」
未だにマユナを許していないのか、はたまた呼び捨てにされて再び不機嫌になったかはわからないがレイのマユナへの態度は荒いままだ。
「さっきも言っていましたがあちらは【結界魔法】と【幻惑魔法】によるもの、つまり【精神】に直接作用させる魔法により意識させないようにしたものですが、私のは【光】を使っただけの魔法です」
「【光】? そんなんでどうやって・・・」
「人間の視界は光を拾うことでモノを認識してる。
・・・ですが、それだけでは・・・」
「それだけじゃ我々が気づかない訳がない。他にもなにか?」
クレイやエリカは何となくだが理解できているようだがキチンとした答えにたどり着けてはいないようだ。マユナは論外である。
「確かに【常に】視界を歪めていては感覚の差で気づかれますが、【常】ではなく【特定の条件のみ】発動すれば問題ないですよね?」
「確かにそうですが、ティアナさんたちにそんな油断は感じられませんでしたが?」
「この世に存在する多くの生き物にも共通し、人種や亜人種ならば当然持ち得る現象。いえ、【行動】というべきでしょうか?」
レイの話に真っ先に気がついたのはティアナであった。次にクレイと続くがマユナとエリカはわからないままのようである。
だが【それ】を使った攻撃をエリカもやっていたのだ。エティンとの戦いの際に。だがこれも本人からすればそこまで考えていた訳ではないのだろう。
左右を見渡しこれ以上は待っても無駄だろうとレイは答え合わせをする
「答えは【まばたき】です。」
ティアナとクレイは自身の答えが正解であったことに内心胸を撫で下ろしながら、なるほどと頷いている。エリカも答えを聞いてからではあるが理解しているようだ。しかしマユナだけは未だにちんぷんかんぷんな様子である。これにはティアナも身内でありながら頭を抱えていた。
「すまない。マユナは所謂、感覚派なのでな・・・」
「納得しました。それに中にはまだ何となくでしか理解できていない人もいるようですから解説しますね」
エリカを特訓し出してから徐々に変貌し生まれた先生口調でレイの解説講座が始まる。
でもこういうキャラは嫌いじゃないんです