42.一矢
どうなる!
ベールマ・イントロス。
ダークエルフの一族に伝わる全てを黒曜石で作られた弓。太古の昔、有りとあらゆる種族も差別や偏見など存在せず、世界が一つの国とも言える状態で共存し平和に暮らしていた頃、当時のダークエルフとドワーフの長が友好の証として互いに贈り物をした。
ダークエルフからは秘術により作り出した鉱石を、そしてドワーフから贈られたものがベールマ・イントロスである。現在に至る全てのドワーフ中でも至高の天才と呼ばれたドワーフにより作り出された。
ダークエルフに代々伝えられたベールマ・イントロスの力は2つ。
1.力続く限り如何なる矢とて生み出せる
2.その意思途切れぬ限り如何なるものをも必中のもと貫く
「へぇ~なるほど。凄いな!」
「確かに凄いです。ですがこれで先程の疑問は晴れました」
道場から一回のリビングにレオたちは降りていた。未だに気絶したままのマユナはソファに寝かせている。そんな中、ティアナからベールマ・イントロスの説明を受けていたレオたちが驚きの声をあげる。
「確かに凄いものですが主様が驚かれるほどの物には見えませんが?」
「クレイはまだ知識としてはそこまでじゃないもんな」
「クレちゃん? ドワーフは基本的に【魔法】が使えないんです」
「それは理解しております。ですが、ドワーフ特有の魔法『武装精製』は扱えますが?」
「あれは魔法というよりも種族スキル?という感じだからな」
「ドワーフ族にしか扱えない技能ですからスキルともまた違うものですけどね」
何やら話がドワーフの固有能力に傾きかけていたためエリカが話を戻す。
「結局どう凄いんですか?」
「あ、あぁ、【魔法】が使えないドワーフが【魔武器】を作り上げたってことが凄いんだ。しかも魔石や鉱石によって偶然作り出された物じゃなく自身で魔法を【刻印】している。それだけで凄さがわかるだろ?」
刻印は古代の技術である。このベールマ・イントロスを作り出したのも大昔であるため、それ事態は不思議ではない。だが・・・
「【刻印】は魔法を構築したまま、それを物には刻むこむ必要がある。つまり、【刻印】するためには少なからずその魔法を使えないといけない」
「魔法が使えないドワーフには普通に考えれば【これ】を作り出すことができない、という訳ですか・・・」
「なるほどです。だから至高の天才と言われているわけですね」
「(まぁそれがすべてじゃないけどな・・・)」
『視認解析』をしたままのレオがベールマ・イントロスを見つめる。未だに見えている状態は???で一つも解析を許さない。
「(こりゃ、キチンとした形で解析しないと何にもわからないな)」
二度目の行為も無駄になり今度こそ諦めるように魔法を解除する。
「うっ、うぅん・・・」
皆でベールマ・イントロスでわいわい話しているとマユナが目を覚ます。
「マユナ、起きたか?」
「ティアナ? ここは・・・」
「道場の下にあるリビングだ」
「っ! た、戦いはどうなった!?」
ガバッと勢いよく起き上がる。辺りを見渡せばさっきまで戦っていた相手が何事もなかったかのような元気な姿を見てマユナは理解した。
「負けたのか・・・」
「あぁ完敗した」
少ないやり取りではあるがそこには重く深い意味があるのだろうことは理解できるほどに悔しさが伝わっている。
「だが、いい戦いだった。それに一矢報わされた、文字通りな」
慰めるでも称えるわけでもないが、ただただいつものレオの様子のままに相手に自分の素直な気持ちを伝える。ただそこにはレイをからかう意思も含まれているようで「文字通りな」のタイミングでレイをチラ見している。
それに気づいたレイは少しむくれた表情でふん!と可愛らしくそっぽ向く。
「ベールマ・イントロスの弐式を使った。結局は勝てなかったがな」
「・・・聞かせてほしい」
「もちろん」
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最後の攻防。レイが『火爆旋風』を作り上げ、ティアナが魔力を振り絞り作り上げた魔矢との激突は明らかなものであった・・・
拮抗するどころか魔矢は『火爆旋風』にぶつかった瞬間に魔力の半分近くを吹き飛ばされ呑み込まれ形を保つのがやっとの状態であった。レイが魔法を独立状態にしなければ10秒と持たないだろう。
「(数秒あればいい。それで・・・)」
目の前で自身を食らおうと【炎の嵐】が迫る中、ティアナは冷静だった。腰に差した短剣を片手で抜き、ベールマ・イントロスに添える。
「我、敵を射つ射手也。我が意思に答えよ、ベールマ・イントロス」
ティアナが詠唱を終えるとそれに答えるようにベールマ・イントロスが赤く光りだす。それと同時にティアナによって添えられていた短剣も光り、光の粒のように分散したかと思えばティアナの手には赤い魔矢が残っていた。
それを確認したティアナは迷うことなく再び『火爆旋風』に矢を向ける。だがティアナが見ているのはその先。その先にいるはずのレイをハッキリと意識し矢を放つ。
「『真理の矢』」
赤い魔矢はティアナの手を離れた瞬間、空間に吸い込まれるように矢が消える。それを見届け、弓を下げるのと同時に『火爆旋風』はティアナを呑み込んだ。
「これで!・・・え?」
レイの気の抜けた声、いや正確いうならキョトンとしたいうべきだろうか? だがそれも仕方ない。何故なら『真理の矢』は『多重防壁』をまるで何もないとばかりにすり抜けたのだ。狙いはレイだけであるかのように様々な障害を一切無視している。
「侮りすぎましたね。見事です」
レイの称賛をティアナ達は直接聞くことは出来なかったがそれでも一矢報いたことを理解したのだろう。『火爆旋風』に呑まれ意識を失う直前、ティアナが笑ったように見えた。
矢は深々とレイに刺さる。最終的に矢はレイの肩に当たる形で幕が閉じたのだ。
まだまだ序の口~




