26.パートナー
苦笑いを浮かべながらもレオは話を続ける前に立ちっぱなしのエリカを座らせる。
「さて、と、あと俺が思い当たる原因は【魔従契約】の件だろうなぁ~」
「? 【魔従契約】ってあの時にしたやつですよね?
それがどうして?」
「あぁ~と、あの時は時間がなくて説明出来なかったんだけど【魔従契約】は魔法師が従者、つまりパートナーとなり得る人物との間に行う契約であり、命を預けあうことからかなりの信頼度がないと仮契約すら結ばない。・・・だけど今回は何故だか仮契約の予定が本契約に無理矢理書き換えられたみたいで・・・」
「ますます分らないんだけど・・・?」
「つまり、だな。【魔従契約】はパートナーと契約する。で、その【パートナー】には別の意味もあるんだよ。生涯の【伴侶】って意味合いが、さ」
最初こそ特に反応がなかったエリカだが次第に頭が理解を始め、次の瞬間にはゆでダコが出来上がる。
「うぅううう!」
恥ずかしさがピークになったエリカはレオを責めるように、だがしっかりと手加減を加えてポカポカ叩き出す。
「ご、ごめん、ごめん。そういうタイプが多いってだけで必ずそうしないといけないわけじゃないんだよ。それに俺自身も余りそこには拘ってなかったし。」
その話を聞いてエリカのポカポカは次第と弱くなり、止まりきる。
「ただ、キューレとレイからは契約する場合は【必ず一言かけろ】と言われてたからさ。なのにエリカと無断で契約したから拗ねてるんだと思うんだよな。一応説明はしたんだけど納得してくれないみたいで。
まぁあいつは、自分の認めた以外のやつが【仲間】になるのは嫌なだけなんだとは思うけど・・・。」
「(え? いや、それは違うんじゃ・・・ キューレさん、とレイさん?は単純にレオさんが・・・)」
と、エリカが考えながらキューレが消えた奥の通路を見るとキューレがこちら側を覗いていた。その姿はまさに【見たな?】と云わんばかりである。今までとはまた違った意味での恐怖を感じたエリカは、話題を変える。
「そ、それよりもまだエール王国に居たことは少し驚きました。
てっきり既に別の町や国にでも移動されているものだと・・・」
「それについては、そちらさんの王様が原因だな。すぐにでも移動してよかったんだけど今回の功績に対して、国の威信にかけてオリハルコン50kg用意するから待ってほしいって言われたんだよな。
だからこうして一月近く待ってるわけだ。」
「王様は礼を重んじる方ですから、今回の件での活躍に見合ったものを用意したかったんだと思いますね。」
「だけどな・・・ 王城で、パーティーをするとか、金銭や土地、終いには貴族位まで与えるとか言われたときにはさすがに参った。」
「大変でしたね」
今度はエリカが苦笑いを浮かべる。その表情には、まるで同じ苦労を味わった相手に捧げる同情の意が読み取れる。
エリカが戦士長に選ばれた時も同じであった。
戦士長に就任するにあたり、騎士の位を持つことになる。騎士の位とはつまり、貴族の位である。ただ名ばかりの位であるため、名誉貴族と呼ばれること方が多い。土地がもらえる訳ではなく、家名を名乗ることが許されるというだけである。故に貴族の中でも最下位にあたり、貴族と平民の中間といったあたりである。
ちなみにエリカの場合は父であるノレズが先に戦士長になっているためにエリカ自身の家名はない。
例え名誉貴族とはいえ、新たな貴族が生まれ、尚且つそれが数少ない女性戦士長となれば国としては盛大に就任式を執り行っても不思議ではない。国ぐるみの祭りとなり一躍有名なったためにその後の期待によるプレッシャーは、計り知れないものであっただろう。
レオ自身がプレッシャーを感じているかどうかは知らないが似た境遇に疲れたといった表情をしたレオに親近感が湧いたのだ。
「それにしても、オリハルコン50kgは凄い量ですけど、一月以上かかるものなんですね。」
「詳しくは聞いてないから分からないが、オリハルコンの採掘自体が【休止状態】に近いらしい。」
「オリハルコンを発掘するのはかなりの手間隙がかかりますが上位の冒険者や軍事力強化のために大国に対して需要が高いために利益は高いですから、よっぽどのことがない限り【休止】にはなるとは考えにくいですけどね。」
「まぁいいさ。話ではあと数日で数量は揃うってことだし。」
嬉しそうな顔をしながら話をするレオは、まるでオモチャを買ってもらう前の子供のようにも見える。今の姿だけ見れば、誰もあの魔物の軍勢を退けた張本人だとは思わないだろう。それぐらい無邪気に見えてしまっている。
そんな顔からハッ!といきなりいつもの姿に戻るとエリカ方に改めて向き直す。
「そうだ、忘れてた。
エリカ、俺たちの今後について重要な話があるんだ。」
「こ、今後についてのはな、し?」
ラブコメみたいのを書くのは・・・難しい( ̄▽ ̄;)